5分後、平次とコナンの二人は剣道部の部室にいた。 「稽古が終わるまで誰も入ってけえへんし、ここならゆっくり話ができるで」 コナンは、平次に勧められたパイプ椅子に座ると、部室内を見回した。 「いい部室じゃねえか。道場までちゃんとあるし、結構優遇されてんだな」 「そりゃもう!我が剣道部は伝統あるし、何度も全国優勝しとるしな」 自慢げに答える平次に対し、コナンはふうんと言っただけだった。 何度も全国優勝してるなら、かなり有名なのだろうが、あいにく興味がなかったので平次の学校の名は耳にしたことがない。 「んで?おまえがわざわざ大阪に来たんは、こいつのせいってか?」 平次はコナンから渡されたメモを2本の指の間にはさんでクルクル回した。 メモに書かれていたのは7つの記号と数字。 正確には、3つの記号と4つの数字で一度見ればすぐに覚えてしまえるものだった。 「これなんや?暗号か?」 「パズルだ」 「パズルやて?これがか?」 ちょっと変わってるがな、とコナンは口端をつりあげ肩をすくめてみせた。 子供らしくない口調と仕草。 これのどこがパズルやねん?と平次は首を傾げる。 「こいつがネットに流されとったってか。で、解けたら希望のもんをなんでもやるなんて、えらい豪勢やんけ」 世界一周旅行が欲しいゆうたらくれるっちゅうのんか? 「けどなあ。おまえはパズルやゆうけど、オレには暗号にしか見えへんで」 「だろうな。オレも最初は暗号だと思っていた。だが、いつまでも暗号のつもりでいたらこいつは解けない」 「そりゃそうやろけど、パズルなんてこいつを見る限り誰も思わへんで」 「そうさ。誰も思わないから誰にも解けない。だから、ネットに流すという非常手段をとったんだ」 「なんや?どういうこっちゃ、それは?」 「こいつをインターネットに懸賞付きでのせたのは、答えを出せる人間をさがすためだってことさ」 「もしかして、こいつをネットにのせた奴は答えを知らへんのか?」 ああ、とコナンはコクンとうなずく。 「なんや、なんや?答えがわからんで、どないして正解やと判断するねん?」 「そうだな・・・」 「はっ、アホらし。なんやねん、それは」 「・・・・・」 平次は、うつむいて、床から浮いている自分の両足を見つめているコナンの様子に眉をひそめる。 「なあ工藤。もしかしておまえ、この問題をネットに流した奴、知ってんのとちゃうか?」 「いや、誰が流したのかは知らない。だが、こいつに関係のある奴なら知ってる・・といっても、ほんの数日のつきあいだから名前くらいしか知らねえんだけどな。オレんとこの親がロスに家を買ったから見に来いってんで行った時、偶然知り合った」 「ほお〜ロスでねえ」 やっぱ、オレらとちゃうわと平次は思う。 世界屈指の推理小説家を父親に、ハリウッド映画にまで進出し今もファンが多いという元美人女優を母親に持つ、それが工藤新一。 で、今はある事件に巻き込まれ、どこから見ても可愛らしい小学生、江戸川コナンの名を持つ東の名探偵。 普段は見かけ通り、子供らしく振る舞っているが、正体を知っている平次と二人きりになると演じる必要がないからか、もとの高校生探偵の工藤新一に戻る。 とはいえ、見かけは子供のままだから、違和感バリバリだが。 「そのパズルは、あいつの父親の遺品の中にあったんだ。始めはオレたちにもなんなのか全くわからなくて・・・でも、オレもそいつも好奇心だけは目一杯あったからな。すぐにいろいろやってみた」 「ほんで、解いちまったってか」 「ああ。最初のとっかかりを見つけたのはあいつだ。これがパズルだって気づいたのもな。二人であ〜だこ〜だとパズルを組み立てていくのは結構楽しかったよ。オレたちはもう夢中になって・・・二人だけの遊びだったんだ。それを他の人間に見つかってからおかしなことになった」 「おかしなこと、て?」 「なんか知らねえが、大騒ぎになっちまったんだよ。オレたちを見つけたそいつはパズルを前にわけのわかんねえことを言い出したかと思うと、どっかに連絡を入れまくって・・・さすがにマズイと感じて、オレはすぐにあいつんとこからトンズラしたんだが」 「はあん?で、パズルはそん時できとったんか?」 ああ、とコナンはうなずいた。 「ほな、なんも今頃懸賞付けてネットにのせる必要はないんとちゃうか」 「オレもそう思ったから調べてみた」 「ほしたら?」 「あいつ・・・死んでた」 え?と平次は聞き返す。 「死んでたんだよ、あいつ・・・」
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