ミステリアス

      ブルー

            12

 

 館に残っていた礼子たちは、小五郎と中森警部から状況を知らされて一様に驚きの表情を浮かべた。

「じゃあ、我々はこの場所に閉じこめられたということですか」

 いや、と中森は松永の方を向いて首を振った。

「地図を見たら橋を渡らずに戻れる道がありました。ただし、車が通れるような道ではないんで歩くことになりますがね」

「ええ〜!歩くの〜!」

 真っ先に嫌そうな声を上げたのは園子だった。

 ま、国道に出るには十数キロ歩かなきゃならないのだから、そりゃ不平を言いたくなるよな、とコナン。

「電話で助けを呼べばいいやんか」

 別に救援が来るまで何日もかかるような場所やないんやし、と平次が言った途端、礼子たちは暗い表情になった。

 なんだ?

 実は、と牧野夫人が困った顔で口を開いた。

「あの音がする少し前に家に連絡を入れようとしたんですが・・・・電話が通じなくて・・・」

「ええっ!」

「あたし携帯持ってる!」

「無理や。ここからじゃかからへん」

 平次がそう言うと、園子は泣きそうな顔になった。

「園子・・・」

「これは、やはり怪盗キッドの仕業なんでしょうか」

 羽瀬がそう尋ねると、事情を知らずに来ていたジャックスの二人は瞳を丸くした。

「怪盗キッドって、あの平成のルパンとか言われている大怪盗のことだよな?なんで、その名前が出てくるわけ?」

「もしかして、キッドがここに?」

 余計なことを、と中森は顔をしかめた。

「こうなったら事情は隠さず皆に話しといた方がええで、警部はん。朝までオレら動きがとれへんねやから。自分の身を守るためにも、ちゃんと知っといた方が安心や」

「そんなこと、貴様に言われんでもわかっとるわ!」

 中森はむっつりした顔で平次を睨むと、事情を知らないジャックスの二人とそのマネージャーの吉沢、それに牧野夫人に今回のキッドの予告について説明した。

「すっげえ!怪盗キッドのゲームかあ!」

 ここにいる探偵と同様に好奇心旺盛らしい美山光が歓声を上げた。

「すげえよな、聖児!オレ、一度怪盗キッドに会ってみたかったんだ!」

「ねえ、警部さん。キッドはビッグジュエルばかり狙ってるって聞いてるけど、ここにそんなのがあるわけ?」

「キッドの狙いは今んとこわからへんけど、オレたちが気を付けへんとあかんのはキッドやないかもしれへん」

「・・・・・・・・」

 聖児は眉をひそめて平次を見る。

「おまえ、さっきからえらく出しゃばってるけど、いったい何もん?」

「何もんって、オレは服部平次っていうもんや」

 平次が肩をすくめて答えると、突然光があっ!と叫び、ポンと手を打った。

「自己紹介ん時、どっかで聞いた名前だと思ったら、関西で活躍してるっていう高校生探偵って、あんたのことじゃない?」

「高校生探偵?それって、ドラマの話じゃないのか、光」

 それが違うんだよなあ、と光は片目をつぶり、チッチッと舌を鳴らしながら人差し指を左右に振った。

 彼がドラマで演じた高校生探偵の癖だ。

「ホントにいるんだぜ。おまえ2年間アメリカに留学してたから知らないだろうけど。東京では工藤新一って高校生探偵がすんげえ有名でさ。でも最近どうしたんだか全然噂きかないんだけど」

 そうそう、顔はこいつにそっくり!と光が指さしたのは、成り行きを面白そうに眺めていた黒羽快斗だった。

「ああ、それでおまえ、こいつの顔見てびっくりしてたのか」

 納得できたというように聖児がうなずく。

「工藤新一は知らなくても、父親の方は知ってんじゃないの?おまえ、時々読んでるしさ」

 えッ!と聖児は目を見開いて相棒を見る。

「まさか、工藤優作っていうんじゃ・・・」

「そのまさか。母親はもと美人女優だって話で・・・」

「オ、オレ大ファン!工藤優作の本は全部持ってんだぜぇ!」

 深刻な状況を全く無視した話題で盛り上がり出した彼等に、当然大人たちはムッツリ顔だ。

(おいおい・・・こいつら、こういうキャラだったのかよ?殆ど高校の悪友ともと変わんねえじゃねえか)

「あ、わたし達、その工藤新一と同級生なんですぅv」

 コナンは、ジトッと園子を見つめる。

(てねえも混ざんじゃねえよ・・・)

「それでもって、蘭は工藤新一の彼女!」

 なっ!

「園子!」

 蘭が真っ赤になって園子の口を塞ぐ。

(こんな時に何言いだしやがんだ、園子の奴ぅ!)

「おまえらなあ!状況がわかってんのか!」

 大人の言うことを少しは聞けって!

「とにかく、朝までは動きがとれんから、君たちはもう部屋で休みなさい。いいね」

 これだけは聞けよとばかりに中森がひと睨みするが、あんまり効き目はなさそうだった。

「皆さんの部屋は二階に用意してありますから。お願いしますね、牧野さん」

「はい。じゃあ皆さん。部屋へご案内致しますのでどうぞ」

「とりあえず俺と警部は朝まで下にいるから、何かあったら呼ぶか来るかしろ。わかったな」

 三階へ上がる子供たちにそう言った小五郎にうなずいたのは蘭だけで、残りの高校生組は振り向きもしなかった。

「ケッ。可愛くねえガキ共だぜ」

 

 

 部屋は二人で一部屋を使えるようになっていた。

 ベッドが二つあり、鏡台やクローゼット、応接セットが備え付けられている上に、どの部屋にもシャワー室とトイレがついているので朝まで部屋を出なくてもよくなっている。

 しかも内装はスイートルーム並みの豪華さだ。

「素敵よねえ。ホントに貴族のお城に泊まってる気になっちゃうv」

 も、サイコー!

 園子はさっきから超ご機嫌であった。

 鈴木財閥のお嬢さまである園子だが、別にお城に住んでいるわけではない。

 こういう外国の映画に出てきそうな部屋は、やはり園子にとっても夢なのである。

 それよりもさあ、とソファに座っていた園子が眉をしかめてベッドの方に顔を向ける。

 そこには既に、園子が言う所のクソ生意気なお子様が寝息をたてて眠っていた。

「光くんがこの子と一緒に寝たいなんて言った時にはビックリしちゃったけど、ボクは蘭ねえちゃんと一緒にいるって言った時も驚いちゃったわよねえ」

 そうね、と蘭も無邪気な寝顔を見せているコナンを見つめ微笑んだ。

「けど、な〜にが蘭ねえちゃんや園子ねえちゃんはボクが守らなきゃ、よ。さっさと寝ちゃってりゃ世話ないわよね」

「しょーがないよ、園子。コナンくんはまだ小学生なんだから」

「そのわりには言うことが生意気なのよねえ、このガキんちょ。全然可愛くないったら」

「そんなことないわよ。ちょっと冷めた所もあるけど、可愛いよ、コナンくん」

「それは蘭の前だけでしょ。まあ顔は確かに可愛いけどね。うちのママなんか、天使みたいだって言ってたし」

 けど、あたしには小悪魔に見える。

「コナンくんは本当にわたし達を守ってくれるつもりでいるのよ。これまでも、あの小さな身体で何度もわたしを守ってくれたんだもの」

 そう〜お?と園子は疑いの眼差しだ。

「わたしはやっぱり守ってもらうなら素敵な王子さまだわ。怪盗キッドさまならもう言うことなしだけどね!」

「でも園子。わたし達がここに来ることになったのはその怪盗キッドの予告のせいじゃない」

「だから会える可能性が高いんじゃないvああ、まるで運命の神様に翻弄されるかのようにすれ違いばかりだったけど、今度こそわたし達は出会うことが出来るのよ!」

 わたしのキッド様〜〜v

「そんなに喜んでいいの?橋が落ちたのはそのキッドのせいかもしれないじゃない」

「何言ってんのよ、蘭。キッド様がそんなことするわけないじゃない。たとえそうだとしても、これはきっとゲームの一つなのよ」

「・・・・わたし不安だなあ。お父さんが有名になって仕事が増えたのはいいけど、その分事件にかかわっちゃって危ないことも増えちゃったし・・・」

 またコナンくんが怪我したら・・と蘭はそれだけが心配だった。

「心配ないって!だって蘭のお父さんだけじゃなく警視庁の警部までいるのよ(キッド様に勝てたためしがないって話だけどさ)」

 

 コナンはそっと瞳を開けて蘭と園子が眠ったのを確かめると、起こさないよう静かに身体を起こした。

 すぐ横で眠っている蘭は熟睡しているのか、コナンの方に顔を向けたまま身動き一つしない。

 蘭・・・・

 じっとその横顔を見つめていたコナンは、ゆっくりと顔を近づけ彼女の頬にキスを落とした。

(何が起ころうと、このオレが絶対におまえを守ってやっからな・・・)

 

 

 

 

 パジャマから私服に着替えたコナンは、音をたてないよう静かにドアを開けて廊下に出ると階段の方へ足を向けた。

 途中、服部平次のいる部屋の前で立ち止まったが、結局何もせずに通り過ぎる。

 平次と同室なのは、あの黒羽快斗だ。

 今の所、服部はあいつの正体に気が付いてはいないようだが。

 そりゃ、誰もあいつをキッドだなんて思わねえよな、と苦笑。

 偶然を利用した巧妙な侵入の仕方が計画通りというなら見事なものだ。

 階段を下りたコナンは、そっとホール内を伺う。

 いるのは小五郎と中森警部の他に松永と礼子、それに牧野夫人だ。

 羽瀬の姿は見えない。

「羽瀬のおっさんなら先に休むと言って出ていったぜ」

 突然背後から声をかけられたコナンは、ギョッとなって振り向いた。

 いったい、いつのまに来たのか黒羽快斗がコナンの真後ろにしゃがみ込んでニコニコ笑っていた。

 こいつ・・・・・・

 こんな近くまできていたのに全く気づかなかったなんて・・・!

 コナンには信じられないミスだった。

 しかし、実際足音どころか声を聞くまで気配を全く感じなかったのだ。

 でもって、今の発言からすれば、快斗はコナンより先に降りてきていたらしい。

「おい・・・服部はどうしたんだ?」

 同じ部屋にいてこいつが抜け出すのを見逃す服部平次ではない筈だ。

 ああ、と快斗は首をすくめてクスッと笑う。

「西の探偵殿だったら懐中電灯持って橋んとこ行ったぜ。丁度使ってない使い捨てカメラ持ってたからついでに渡しといた」

「ほうお。そいつは気がきくな。で?あいつは出て行く時、部屋から出るなとか言ってなかったか?」

「うんv一緒に行こうかと言ったんだけどさ、先に休んでろとか言われちゃったな。探偵って人種は、ホントに仕事熱心だこと」

 で?コナンちゃんもお仕事?

 コナンはジロリと相手を睨む。

「テメーはどうなんだよ?仕事じゃねえのか」

「オレ?オレは今んとこ好奇心だけ。だいたい、ここへ来たのは仕事じゃねえもん」

「ホントかよ?」

 「嘘じゃないって。だって、ここにはオレの獲物なんかないんだしさあ」

 おまえなあ・・とコナンは自分よりもずっと子供っぽい表情をしている快斗に眉をしかめる。

 こうして会話してみても、これがあの怪盗キッドなのかとコナンは首を傾げてしまう。オレの勘違いだったか・・とも。

 それは絶対にないのだが。

「ちょっと聞きてえんだけどさ。それがおまえの地なのか?」

「そ・だねv」

「ふうん・・苦労してたんだな、オメー。全然知らなかったぜ。ま、最初からイメージが出来てんだからしょーがねえか」

「・・・・・・・」

(かっわいくねえ・・・・)

「それで、他に聞くことはないの、コナンちゃん?」

 コナンちゃんはヤメロっての。

「聞いてもホントのこと答えるのかよ」

 内容によるね、と快斗はニッコリ。

 コナンはもう一度小五郎たちの様子をうかがう。

 彼等はソファに座ったまま動く様子はない。

 何事も起こらなければ、あのままそこで夜を明かすつもりのようだ。

 無論、ここにコナンと快斗の二人がいることも彼等は気づいていない。

 コナンは再び快斗の方に向き直る。

「おまえ、さっきの地下室の扉、開けられっか?」

「鍵なしでってこと?楽勝だねv」

 フフンと胸を張る快斗に、どっと疲れた溜息一つ。

 コレクションルームにしているだけあって、鍵も厳重な造りだったように思うが、しかし強固な金庫さえ壊すことなく開けてしまうこいつには子供だましなのかもしれない。

「もう一度見たいってわけ?それとも、あそこに何かあると思った?」

「・・・・何かあんのかよ?」

 さあね、とすっとぼける少年の手をおもむろにコナンは掴むと足早に地下室へと向かう。

 快斗の手はそう大きくはなかったが、指は細くて長く、思ったより柔らかな感じだった。

 手の大きさからいえば平次の方が大きく、それに剣道をやっているからか皮膚もゴツゴツして硬い。

 手に触れれば何をやっているのかだいたいわかるのだが・・・

 そういえば一度、彼のような手に触れたことがある。

 奇術師殺人事件で会ったマジシャンの真田一三だ。

 マジックは手先を使うので、彼等は神経質なほどに自分の手を大事にするものらしい。

(こいつもそうだってことか)

 マジックを得意とする怪盗・・・

 しかし、それが自分と同じ高校生であったというのはフェイントもいい所かもしれない。

「おまえ・・・何故キッドになんかなったんだ?」

 年齢からいっても、こいつは国際手配されている怪盗キッドではあり得ない。

 確かに今“怪盗キッド”と呼ばれているのはこいつなんだろうが。

 資料によれば、キッドが日本で活動を再開してまだそんなに日はたっていない筈だ。どう考えてもこいつが高校に入ってから。

 主にヨーロッパで活動していた、しかも8年も前に突然姿を消した怪盗の名を使って盗みを働く理由がよくわからない。

「そんなの決まってんじゃん。面白いからv」

「冗談言ってんじゃねーよ」

 快斗は顔をしかめ上目使いで見上げてくる小さな名探偵にニッと笑ってみせた。

「これはゲームさ、名探偵。謎を一つ一つクリアしていけば、おのずと見えてくる」

 おまえが欲してやまない、真実ってやつがな。

「・・・・・・・」

 やっぱり、こいつはキッドなんだな・・・・・・・

 油断のならないその瞳は、ただの高校生が持つには危険きわまりないものだ。

「ゲームの発案者は誰だ?オメーじゃねえんだろ」

「なんでそう思うんだ?」

 コナンはフッと笑う。

「たいてい、こういうゲームを考えた奴ってのは自ら参加したりしねえもんさ。オメーも駒の一つなんだろ?」

「・・・・・・・・」

 快斗は初めて無邪気さを装ったポーカーフェイスを僅かに崩した。

 思った通り、こいつの後ろには誰かがいるのだ。

 いったい誰が・・・・とコナンが考えたその時、突然カン高い悲鳴が聞こえてきた。

 蘭ッ!

 コナンは顔色を変え向きを変えると、ダッ!と蘭のいる二階へ駆け上がっていった。

 なんだ、どうした!と小五郎たちもコナンの後から階段を駆け上がってくる。

「どうしたの、蘭ねーちゃん!」

 コナンがドアを開けると、部屋の真ん中で蘭と園子が青い顔をして互いにしがみついていた。

「どうしたんだ、蘭!」

 そのすぐ後に小五郎や中森警部も部屋の中に飛び込んでくる。

 蘭の震える手が窓を指さすのを見て、コナンが開いている窓に飛びついた。

「なんや?なんかあったんか?」

 窓の外に立っていた人影がのんびりとした関西弁で聞いてきたのでコナンはあれ?と瞳を瞬かす。

「服部?」

「きさまーッ!なんで外にいるんだあ!」

 コナンを押しのけて窓に身を乗り出した小五郎が、真っ赤になて平次に向かって怒鳴りつけた。

「ああ、ちょっと寝る前に外見回っとこう思て」

 ヘラッと笑って答える平次に中森も目をつり上げた。

「誰がそんな事をしろと言ったあーっ!」

 違う・・・

「服部くんじゃないよ」

 え?とコナンが蘭を振り返る。

「目が覚めて窓を見たら、なんか白いものが横切ったんで、なんだろうと思って窓を開けたら黒い人影がジッとこっちをみていたの」

「わたしも蘭と一緒に見たんだけど、服部くんじゃなかったわ。もっと大人の、見たことのない人だった!」

「暗かったから顔はハッキリ見えなかったんだけど・・・わたしたちに気づいたその目がすごく恐かったから思わず叫んじゃって・・・」

「平次にーちゃん!来る時誰か見かけなかった?」

 蘭の話を聞いたコナンが、小五郎と中森の間から顔を出して外にいる平次に向けて確認をとる。

 が、平次は、いやと首を振った。

「悲鳴きいて走ってきたんやけど、誰も見んかったわ。それより、何があったんや?」

「平次にーちゃん!とにかくこっちへ来てよ!」

 おう、と平次は頷くと急いで入り口の方へ回っていった。

「いったい誰なんだ?」

「我々以外の人間なら怪盗キッドなんじゃないスか」

 首を傾げる中森に小五郎がそう答える。

「違うわよ!あんなんがキッド様であるわけないじゃない!」

 園子が二人の大人に猛烈抗議する。

「だが、顔はわからんかったんだろ」

 と中森が言うと、美山光がキッドの顔は誰にもわからないんじゃないのと言い返した。

 つまり、たとえ顔を見てもそれがキッドかキッドでないかなど誰にも判断できないということなのだ。

「それよりコナンくん!いったい、こんな夜中にどこへ行ってたのよ?目が覚めたらいないから心配したんだからね!」

 ゲッ・・・・

 いきなり両手を腰に当てた蘭に問いつめられたコナンは焦った。

 まさか本当のことなど言える筈はない。

「あ・・・ちょっとトイレ・・・・・」

「服に着替えて?」

「・・・・・・・・」

 コナンは答えに窮して黙り込む。

「だいたい部屋にトイレがあるんだから、わざわざ出ていく必要はないでしょ!」

 ごもっとも・・・・

 到底言い訳のしようがなくコナンが俯いてしまったその時、二人のやりとりとは全く関係のないことを快斗が口にした。

「なあ、一人足りなくない?」

 え?と彼等は部屋にいる者の顔を次々と確認する。

「そういや羽瀬さんが見えないな」

「これだけ大騒ぎしてるのに気が付かないというのも妙だ」

 小五郎と中森は厳しい表情で目配せした後、無言で羽瀬氏の部屋へ向かう。

 コナンも行こうとしたが、後ろから蘭に抱き留められ動けなかった。

「お願い・・・行かないでコナンくん・・・・」

 蘭・・・?

「ここにいて。多分、心配するようなことはないと思うから」

 快斗は蘭の腕の中にいるコナンの髪にそっと手を伸ばして触れてから、彼女には優しい微笑みを浮かべてみせた。

 見覚えのあるその笑顔に蘭の心臓がドキリと早鐘を打った。

 一瞬、快斗の顔に幼馴染みの少年の顔がだぶって見える。

 いつでもそばにいて欲しいと彼女がずっと願っていた彼・・・・

「新一・・・・」

「・・・・・・・・・」

 蘭の口から小さく漏れ出たその名を耳にしたコナンは、何も言えずに俯いた。

 

13】につづく

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