ミステリアスブルー 【6】
「8年前というと、20才前後だな」 「大学には通ってへんかったらしいで。なんしろ、彼女の兄さんは天才やったらしく、12か3でアメリカの大学を卒業し、5年ほど大学の研究室にいてから日本へ帰ってきたって話や」 「へえ、そいつはすげえな」 アメリカでは7才で大学を卒業するという天才児もいるという話だが、そういう子供の思考回路というのはどうなってるのだろうとつい思ってしまう。 しかし、それを言えば、10人が10人、僅か16才で手がけた事件は全て迷宮入りなしという高校生探偵の頭はどうなってるんだと逆に言われてしまうだろうが。 「もし、彼女の兄さんが殺されているとしたら、それは三雲家の財産問題とは別の理由かもしれへんで」 「何故そう思うんだ、服部?」 彼女がな・・と平次は言いかけてから、グイっと残っていたコーラを飲み干して空き缶をゴミ箱へ投げ捨てる。 「その兄さんの行方がわからなくなる少し前に、彼女、おかしな男たちを見たそうなんや」 「おかしな男?」 「そうや。全身黒ずくめの背の高い二人連れやったらしい」 「何っ!ほんとか、服部!」 コナンは驚きに瞳を見開いた。 思わず力が入った手に、缶から飛び出したコーラがかかる。 平次はGジャンのポケットからハンカチを取り出すと、コナンの手を拭いてやった。 「ホンマは和葉もついて来る言うてたんや。いくら依頼人や言うても、大人の女と二人っきりいうのんは心配やて。・・ったく、何を心配しよんのか。けど、そいつらおまえの言ってた組織の人間やったら、やっぱ危険やからな」 「・・・・」 「警察は疑いだけでは動けへん。まあ、自由に動けんのはオレらのような探偵くらいやし。ホンマはオヤジも今回のことは気になってんねやけど、東京は管轄外やからな。けど、わけわからん探偵紹介するのも考えもんやて、オヤジとおかんの二人が交互に話を持ってきたんや」 それに・・と平次は言葉を続ける。 「こっちには工藤、おまえもおるしな。オレらが2人でかかれば、どんな事件やってもなんとかなるやろうし」 「・・・彼女の兄さんの名前は?」 「三雲礼司。さすが双子だけあって、彼女によう似た男前や」 「三雲礼司の専門は?」 灰原の話では、黒服の男たちは優れた人材を世界中から捜して仲間にしていたらしい。もし、三雲礼司がその才能に目をつけられていたとしたら。 あり得ない話ではない。 12〜3で、アメリカの大学を卒業したという天才児だ。 「それがようわからんのや。アメリカに行く前は何度か会ってたらしいんやけど、その後は全く会う機会がなかったそうやし。手紙はもろてたそうなんやけど、そういう話は全然書いてこなかったそうや。ただ、一度だけ、無限エネルギーがあれば面白いだろうなと冗談のように言ってたことがあったらしい」 「無限エネルギーか。確かにそんなもんがあれば、世界中エネルギー問題で頭を悩ますことはなくなるな」 「逆に、どっかがその方法を独占すれば、世界を支配できるで」 「奴らの狙いはそれか」 「可能性はあるな。けど、あくまで仮定や。彼女の兄さんがホンマにそんな研究してたかどうか、わからへんしな」 「ああ・・そうだな」 確かに今の段階では黒ずくめの男たちがいたというだけで、三雲礼司の失踪に関係しているとう確証はない。だいたい、それがコナンの追っている組織の人間とは限らないのだ。 先入観は下手をすると真実を見落とす危険がある。 「そうそう。まずは調べてみるこっちゃ」 笑ってうなずいている平次の顔をコナンが見つめる。 「・・・・服部」 「なんや?」 「おまえ、背、伸びたか?」 「あ、わかるかあ?そうやねん!この2ケ月で5センチも伸びたやで!ま、卒業する頃には180はラクに越えとるで」 「・・・・・」 そう楽しげに答える平次を睨んでいたコナンは、思いっきりその足を踏んづけた。 「イテーッ!何すんねん、工藤!」 飛び上がった弾みで尻餅をついた平次が大声で喚くが、コナンは知らん顔で手に持っていたコーラの缶をゴミ箱に捨てた。 「ごっそさん。戻るぞ」 コナンは踵を返し、さっさと蘭のいるホールへと戻っていく。 「おいこら!ちょー待てや!何怒っとんねん?おい工藤!」