ミステリアスブルー【5】

 

【神秘の蒼 2】

 

 西の名探偵として関西でもその名を知られる服部平次が同行し、それが父親の府警本部長の依頼だとすれば、よほどの事情が察せられる。

 だからこそ、コナンの好奇心はうずく。

 おい、とコナンは待ち切れないように平次のGジャンの裾を引っぱった。

 すぐに平次が楽しそうに振り返った。

 わかってるくせに、とコナンはムッとなる。

「よお、ボウズ。久しぶりやなあ。元気しとったか?」

 好奇心一杯なことをとっくに承知していながら、嬉しそうに笑いながらしゃがみ込んで頭を撫でる平次に、さらにコナンの機嫌が悪くなる。

「ハハ・・」

 お愛想で笑ったその顔は、少しも子供らしくなく渋い。

「んな顔すんなや。ちゃんと説明したるよって、ちょー待ち」

 機嫌を悪くした子供に向けてそう宥める平次に、コナンは当然だと言うように頷いてみせる。

「ねえ、服部くん。和葉ちゃんは?」

 なんや、それ?と平次は顔をしかめて蘭を見ながら立ち上がった。

「オレと和葉でワンセットとちゃうで。なんでいつも和葉を連れてなあかんねん」

 いつも一緒だろうが、とコナンは内心で言い返す。

 幼なじみの二人はしっかり気の合ったコンビだ。

 気が強くて、お姉さんぶってて、おっかないくらい腕っぷしが強いというのは、ここにもいるが。

 もしかしたら、自分たちも平次たちの目にはそう映っているかもしれないかとコナンは思う。だったら、互いに余計なお世話というものだろう。

「あ、毛利さん。ご紹介しましょう。彼女はこの“神秘の蒼”を私に譲ってくれた知人の娘さんで山根礼子さんです」

「“神秘の蒼”?」

「この宝石の別名ですわ。ビクトリア王朝時代、ある貴族が女王に贈った4つの宝石の一つと伝えられています。実はその4つの宝石は女王の死後、わたしの曾祖父が手に入れて日本に持ち帰り長い間三雲家の家宝となっていたそうです」

「三雲家?」

「礼子さんは生まれてすぐに山根家の養女になったんですよ」

「ああ、では本当なら三雲礼子さんというわけですな」

「・・・そうですね。でも、わたしはもう山根家を継いだ身ですから」

「あ、そうなんスか」

「山根家は千葉でも指折りの名家でしてね。倉には国宝クラスの古い物がたくさん収められていて、古美術マニアにはたまらないそうですよ」

「ほお」

「残念ながら、わたしはその方面は全く無知なもので、倉のものは全部叔父にまかせていますけど」

 そう答えた礼子の顔が、何かを思い出したようにふっと陰った。

 だが、礼子の美しい横顔に見とれていた小五郎はそれに気づかない。

 平次はというと、ある程度の事情は承知しているのか、黙って彼女を見つめているだけだった。

 おい、とシビレを切らしたコナンが催促するように平次の脇をこずく。

 わかってるて、と平次は小声で短気な子供に答える。

「ああ、なんか喉乾いてしもたわ。ちょっとロビーに戻ってなんか飲んでくるわ。ボウズも来いや。好きなもんおごったるで」

「ほんと!わ〜い、嬉しいな!」

 嬉しそうに子供らしく笑いながら、コナンは平次の後をついていった。

 平次は自動販売機でコーラを二本買い、一本をコナンの手に渡した。

 平次はすぐにプルトップをあけてコーラを一気に半分ほど飲み干した。

「おい、服部・・・」

「まあ、そう慌てんなや。まだ時間はあるんやし、冷たいうちにコーラ飲んどき」

「・・・・・」

 フンとコナンは鼻を鳴らしてから、持っていたコーラを一口だけ口に含んだ。

 子供らしくない態度だが、中身が自分と同じ高校生ならこんなものかと平次は思う。だが、見かけは可愛らしい子供だからつい苦笑が漏れてしまうが。

「あの山根礼子さんってのは、オレのおかんが最近通いだしたエアロビクスのインストラクターやねん」

「エアロビクスのインストラクター?」

「ああ。ウチのおかん、ここんとこ太りだしたてエライ大騒ぎしてな。んで、慌ててエアロビスクに通いだしたんや。そこで知りおうたのが彼女というわけや。なんやしらん、気がおうたのか話することが多うなって、ほんで、親父が府警本部長やとわかると、彼女、おかんに相談持ちかけたんや」

「相談・・三雲家のことか?」

「あ、やっぱピンときたか」

 目線が合うようにしゃがんでいた平次が、嬉しそうにコナンを見つめた。

「鈴木会長が、遺言状云々を口にしてたからな。もしかしたらと思っただけだ」

「でも、ボケのあのおっさんは気づかんかったみたいやけどな」

 ハハ・・あのオヤジは美人の顔しか見てねえよ。

「まあ、それも問題らしいんやけどな。なんしろ、三雲家の財産ってのは億がつくっちゅう話やし。なのに、今はその財産を継ぐ者がなくて宙ぶらりんやそうやしな」

「相続人がいない?」

 コナンは首を傾げた。

「ああ。ホンマは礼子さんの双子の兄さんがジイさんの死後に跡継いだそうやねんけど、8年前に突然行方がわからんようになってしもたらしい。すぐに捜索願いだして、で、探偵にも頼んで探したそうやねんけど今だに見つからず生死不明のまま去年その人の遺言状が公開されたいうわけや」

「遺言状が公開されたんなら、三雲家の財産の行く先も決まったんじゃないのか?」

「普通の遺言ならな。でも、なんや、えろう奇妙な内容やったらしい」

「奇妙って、どんな?」

 さあ、と平次は肩をすくめる。

「まだ、オレもその内容をはっきり聞いてへんのや。双子の両親は早くに事故で亡くなってて、たった一人のジイさんが兄の方を育ててたらしい」

「もしかして、礼子さんが養女に出されたのは両親と死に別れたためか?」

「かもな。でも、三雲家は金持ちやからいくらでも双子を育てられる方法はあったんやないかと思うんやけど」

「・・・・・」

 確かにその通りだが、何か一緒に育てられない理由があったのか。

 

】に続く

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