月明かりが照らし出す蒼の館へ続く細い道。

 新一は、闇に足をとられることなく前を歩く白い怪盗の後ろ姿を見つめていた。

 奇妙な繋がりだと新一は思う。

 出会いは杯戸シティホテルの屋上だったか。

 今時珍しい犯行予告状。

 その凝った暗号にまず興味を持ち、そしていくつもの驚きと高揚感に囚われた夜だった。

 本来泥棒には興味がなかった筈なのに、ついかかわってしまったのは、蘭や園子が関係していただけではなく、怪盗キッドという謎に対する好奇心が湧いたせいかもしれない。

 派手なコスチュームと派手な犯行。

それにはなんらかのメッセージが含まれているのではないかと思っていたが。

(殺された父親が初代怪盗キッド・・か)

「なあキッド・・おまえ、仇討ちのために怪盗になったのか?」

 それもあるかな、とキッドは振り返らずに答える。

「オヤジはオレにとっては最高の父親で尊敬してたし目標でもあったから。そのオヤジが怪盗キッドで、事故死じゃなく殺されたんだと知った時は目の前が真っ暗になっちまった。誰もが認める一流のマジシャンだったオヤジが何故・・ってな」

「・・・・・・・・」

「オヤジを殺したのは、どっかの犯罪組織だってことしかわからなかったし、一端事故死で処理されたことを証拠もなしに改めて調べてくれるほど警察も親切じゃないってこともわかってたし」

 だから警察を頼らなかった。

 当時、事故死として片づけられ、母親が猛然と警察に抗議したのだが、見事に門前払いをくらったのだと彼は言う。

「オレはそん時8才で、警察は正義の味方だと信じてたから結構ショックでね。一日中ぼんやりとオヤジの写真を眺めている母親を見て人間不信に陥っちまった。そんな時、オレの前に現れたのがあいつだ」

「・・・・三雲礼司か」

「アイツはオレにゲームをやらないかと言ってきた」

「オレも同じことを言われたぜ。ゲームをしようってな。けど、なんでだかオレはそのことだけすっかり忘れちまってたが」

 8才の頃・・・・・

 キッドも自分と同じ年だから、多分同じ時期にオレたちは三雲礼司に会ったというわけだ。

「それってどうせわざとだろ。アイツなら記憶操作くらいやりかねないしな」

「なんのためにだ?」

 そりゃあ、ゲームのためだろとキッドは答えた。

 ゲーム・・・・・

「いったい三雲礼司は何をやろうとしてんだ?知ってんだろ、おまえ!」

「アイツが何を考えてるのかオレにはさっぱりわからないね。ただ、アイツもどっかの組織に執拗に追い回されていてうっとうしがってたのは確かだ」

「そいつら、もしかして黒の組織か?」

「黒の組織?ふ〜ん・・・そいつがおまえの追ってる組織の名ってわけか」

 なんか安直そう、とキッドはくっくと笑う。

「まあ、確かにオヤジを殺した奴らも、レイジを追ってた奴も黒ずくめだったがな」

 けど、同じ組織かどうかわかんねえぜ、とキッドは言う。

 確かに黒ずくめというだけで、自分たちが同じ組織を追っているとはいえない。

 だがしかし、違うとも言えないのだ。

 ・・・・・・・自分を追う組織をうっとうしがってた?

 姿を消したのはそのためだったとしても、何故ゲームなのだ?

(それも長い時間をかけて。しかも何故オレたちを?)

 白の魔術師とミステリアスブルーというのは、単なるゲームの駒の呼び名という意味だけなのか?

 キッドが言うとおり、あの時の記憶がされ消されていたのだとしたら・・・

 両親と旅行した記憶はあるのに、三雲礼司にあった時の記憶だけが抜け落ちていたのは確かに不自然だ。

見せてあげようか?

この世でもっとも綺麗な宝石を。

 どうやら、まだ抜け落ちている記憶があるようだ。

 あの時、自分は三雲礼司に何を見せられた?

「・・・・・・・・・・」

 後ろを歩いていた新一が立ち止まった気配にキッドは苦笑した。

「おいおい、名探偵・・・」

 こんな所で考えこむなよ、と振り返ったキッドの瞳が、ふいに驚いたように見開かれる。

 どんな状況にあってもポーカーフェイスを崩すことのないキッドには珍しい変化に、新一もびっくりしたように瞳を瞠る。

「? なんだ?どうしたんだ、キッド?」

「・・・・・・・・・・・」

 じっと自分を見つめるキッドの瞳に新一は眉をひそめた。

(そ・・うか、ミステリアスブルーとはこの事だったのか!でも、何ぜ今?)

 キッドは足下の地面を見てから顔を上げると、天空に輝く月を見た。

 成る程。そういうことか・・・・・・

 だが疑問は残る。

「キッド?」

「・・・・・・・・・」

 キッドは無言で白い手袋をはめた手を新一の頬へと伸ばした。

 指先が触れても新一は動かず、まっすぐにキッドの顔を見つめていた。

 いったい何がキッドの関心を引いたのかを探るように。

「おまえの瞳・・・蒼いんだな」

「なんだ?今頃気付いたのかよ」

 何度か間近でオレを見てるくせに。

 まあ、新一の時は夜だったんだから仕方ないか。

 それにコナンの時はずっと眼鏡をかけてたし。

(妙だな?以前こいつと会った時も月が出ていた筈なんだが)

 この館に来てから、か。

 レイジの奴・・・こいつに何をしやがった?

 ちょっと似てるどころではなく、双子と言っても通用するほど似通った顔立ちは決して偶然にレイジの目に止まったわけではないだろう。

 蒼い瞳・・・多分まだこの名探偵は気付いていない。

 キッド?

「ミステリアスブルー・・・」

 これまで自分が手にしてきた、どのビッグジュエルよりも神秘的で美しい輝き。

 キッドの唇が、まるで羽根がかすめるように新一の唇に触れた。

 驚いて瞳を瞬かせた新一にキッドはこう告げる。

「一つだけ教えておいてやるよ、名探偵」

 白の魔術師はミステリアスブルーを守護する者。

 このゲームが終了するまで、たとえ不本意であってもそれだけは変えられないんだぜ?

「・・・・・・・・・」

 新一は怒りだしはしなかったが、眉間に深い皺を作ってモノクルをつけたキッドの顔を睨みつけた。

「誰が誰を守るだと?ふざけたこと言ってんじゃねえぞ、キッド」

 キッドは瞳を細め、ふっと小さく笑みを漏らした。

 

 

 

 

「なあ、さっきの振動音、やっぱりなんか爆発した音だよな」

「もしかしなくてもそうやろ。どうやら館にも爆弾が仕掛けられとったようや」

 平次がそう答えると、光は心配そうに後ろを振り返った。

 もう一つの地下道に落ちた平次と光はまだ出口の見えない暗い道を歩いていた。

 思ったより時間がかかったのは、まるで迷路のように道がいくつもわかれていたためだ。

 だが、名探偵の服部平次が一緒だということもあるが、生来好奇心と冒険心に富んだ光はそれほどこの状況を深刻には考えていなかった。

 楽天的な性格もあるのだろう。

 それからすれば、平次といいコンビだった。

 平次にとって、この状況下でパニックに陥られヒステリー状態になられるほど面倒なことはなかったから。

 しかも、爆発の衝撃は離れているにもかかわらず、パラパラとまわりの土が崩れてくるほどで、おそらく来た道を戻ることは不可能だろう。

 前に進むしかない。

 大丈夫かな・・・と振り返って呟く光に、平次は心配すなとあっさり言った。

「けど、館には毛利探偵や警部もいないんだぜ」

「あの二人がいなくても心配ない奴がおる。それに、大人が全くいないわけやあらへんしな」

「・・・・・・・・・」

 そりゃまあ、館には松永や吉沢がいるが。

 しかし、彼等の他は女子供なのだ。

 同い年だが、聖児は自分と違ってしっかりしてるから大丈夫だとは思うが。

 意見が合わず喧嘩もよくするが、光は自分の相棒をまず一番に信頼していた。

「で、誰さ?」

「何がや?」

「だからあ!警部さんたちがいなくても心配ない奴って誰のことかって聞いてんの!」

 先ほどの平次の言い方だと、松永や吉沢ではないようだし。

 他に頼りになる人間が誰かいたっけか?と光は首を捻る。

「おるやん。わからへんか?」

「黒羽くん?」

 まさか、あの少女たちではないだろう。

 羽瀬は行方がわからないし。

 ああ、そういえば接待してくれた牧野さんは館のことをよく知ってたよな。

「黒羽?」

 ちゃうちゃう、と平次は手を振る。

「まあ、あいつも全く頼りにならん奴やないと思うけど」

 話しててわかったが、黒羽は結構頭の回転が早い男だった。

 だからこそ、あいつは黒羽を選んだんだろうが。

「眼鏡かけたチビがおったやろ」

 え?

えー!まさか、コナンくんのこと?」

「そや。あいつ、ああ見えて勘鋭いし、大人より行動力あるからな。あいつがおったらなんも心配いらんわ」

「・・・・・・・・」

 光は平次の言葉をどう受け取ってよいのやら迷った。

「あの子、確か小学一年生だと聞いたけど・・・・」

「そや。ちょーチビやけどな。オレが小一の時はもっと背ェあったで」

 でも新一の時は一応170は越えてたみたいやし。

 う〜ん、と光は唸る。

 平次にそう断言されると、確かに子供にしては大人びてたかなと光は思う。

 しかし、どう考えたって小学一年生の子供だ。

 頭が良くて行動力があっても、大人と同等とはいかないだろう。

 それじゃ、大人の面目がないではないか。

 いや、自分もまだ大人ではないが・・・

「おvようやく出口に出たみたいやで」

「え、ホント!」

 光は、すぐに平次が持つ懐中電灯の明かりが照らし出している前方に目をやった。

 確かに木らしきものが見える。

 最初、暗い地下で道が三方にわかれているのを見た時不安がよぎった光だったが、平次がオレにまかしときと言った時にはもう不安はなくなっていた。

 何度か行き止まりで引き返したりしたが、パターンがわかると平次は迷うことなく正確に道を選んでいった。

 さすがは本物の名探偵だと光は感心しきりだった。

 平次と光は外に出ると、真っ先に深呼吸をした。

「やっぱり狭い地下道とは空気が違うよなあ」

 光は、う〜んと腕を上げ背筋を伸ばした。

 平次はというと、腕時計で時間を確かめている。

「結局2時間くらいかかったか」

「蒼の館はどっちの方かな」

 光はキョロキョロとあたりを見回す。

 見えるのは木ばかりだ。

 ちょー待ち、と平次は今度はズボンのポケットから磁石を取り出した。

 そして、ある方向を見てニヤリと笑う。

「ふ・・ん。やっぱりなあ」

「なに?」

「アレ見てみ」 

 光は平次が指さした方向に顔を向けた。

「木々の向こうに細い突起が見えるやろ?あれは館の屋根についとった避雷針や」

「ええっ?あんなに近かったのか!」

 かなりな距離を歩いたつもりだったが。

「迷路で騙されたみたいやな。歩いた距離は結構あっても移動した距離は僅かやったってことや」

「同じとこグルグル回ってたってことかあ」

 なあんだ、と光は溜息をつく。

「遊園地なんかにある迷路はそんなもんやろ。入り口と出口は隣あってるゆうこっちゃ」

「いったいなんでそんなもん作ったんだろ」

 さあな、と平次は肩をすくめる。

 最初に小五郎たちと入った地下道より狭くて古い感じだったから、もしかしたら蒼の館が建てられる前からあったのかもしれない。

 となると、この辺の歴史を調べてみた方が・・・・・・

「・・・・・・・!」

 平次は一瞬懐中電灯の明かりが捕らえたものに眉をしかめた。

「どうかした?」

 急に平次が歩き出したので光は慌てて追いかける。

 そして、平次が手に持つ明かりが映し出したものを見た途端、光は顔を引きつらせ息を呑んだ。

 黒い塊に見えていたもの。

 それは仰向けに倒れた男だった。

 懐中電灯の明かりは男の血に染まった頭部をハッキリと彼等に見せる。

 平次は男のそばにしゃがみ込んだ。

 確認するまでもなく、男は死亡していた。

 一発で後頭部を撃ち抜かれている。

「羽瀬のおっさんや」

「エエーッ!こ・・殺されたのか?」

 ああ、と平次は頷く。

 本物の射殺死体・・・・・

 ドラマと違って、死体が起き出すことは決してない。

 生まれて始めて出くわした死体に、光はまともにそれを見ることができなかった。

 しかも殺されたのは蒼の館で光も会った人物なのだ。

「・・・・・・よく見られるね、、服部くん」

「アホ。探偵が死体にびびってたらどうしようもないやん」

 平次は頭部を貫通しているのを見てから、懐中電灯でまわりを確かめた。

 死体が倒れた位置から見て銃弾が飛んだ方向は・・・・・・

(あった・・!)

 平次は木の表面に突き刺さった弾丸をボールペンでほじくり出した。

「凶器はライフルか・・・ってことは、羽瀬のおっさんはここで狙撃されたっちゅうことやな」

「そ・狙撃?」

 光の声が思わず裏返る。

「なんや、物騒な敵がおるようやで」

「それって、橋を爆破 した奴?」

「ちゃうな。橋に爆弾しかけたんは素人や。けど、このおっさんを狙撃したんは間違いなくプロや」

 プロ・・・って、なんの?と光が訊く。

「決まってるやろ。殺しのプロや」

 殺しのプロ!

 ス・スゲエ!・・って、んなこと言ってる場合じゃな〜い!

 ドラマなんかじゃなく、本物の凶器を持った殺人者がいるのだ!

「どうしよう?警部さんたちがいたらいいんだけど」

 こればっかりは、平次が信頼するあの子供ではどうしようもないだろう。

 やっぱり犯罪者を相手にできるのは警察官だ。

「あのボウズがいるから大丈夫やろうけど」

 ハ?と光は驚いたように瞳を瞬かせる。

 いったいどういう思考回路をしてんだ、この人?

「ホンマはあんたはここにおった方がええんやが、敵の正体や目的がわからへんしな」

 先に光を安全な場所に連れていくべきなのだろうが、館にいるコナンたちが気になる。

「館に戻るで。ええか?」

 平次が訊くと、光はコクコクと頷いた。

 こんな所に一人で置いていかれるより、危険かもしれないが、相棒がいるだろう館に戻る方がずっとマシだった。

 二人は館に向かって歩き出す。

「なあ、コレって怪盗キッドの仕業じゃないよな?」

「キッドは人殺しはやらん。第一、あいつがライフル使うたゆう記録もあらへんし」

 断言できるほどオレもキッドのことよう知っとるわけやないけど。

 だが、こいつはキッドの仕業とはとても思えない。

(いったい何が起こってるんや?)

 

 


 

「三雲礼司は本当にこの館にいると思うか?」

 蒼の館に戻った新一がそうキッドに訊く。

 館は思ったほど破壊されてはいなかった。

 キッドが爆弾の大半を止めていたことと、誘爆しなかったことが幸いしたようだ。

「さあね。まあ、オレはいないという方に賭けるけどな」

 自分の身が危ないとわかってて姿を見せるほど、あいつは甘くもないしバカでもない。

 なんたって、あいつは十年近くも組織の手から逃れてるんだからな。

 ふ〜ん、と新一は瞳を眇めた。

「おまえ、三雲礼司のことをよく知ってるみたいだな」

 そりゃ何年間か一緒にいたからな、とキッドは首をすくめニッと笑った。

「一緒にいた?三雲礼司とか!」

「ただの高校生が簡単にキッドの跡を継げると思うか?いくらオレが天才でもそりゃムリってもんだぜ。それなりの下地が出来てなきゃ、な」

「・・・・・・・」

「結構厳しい教師だったぜ、三雲礼司は」

 もっとも、オレにとっては殆ど遊び感覚だったけどな、とキッドは言う。

「三雲礼司は初代怪盗キッドのことを知っていたのか?」

「ファンだったそうだぜ、オレのオヤジの」

(ファン・・・・)

     私は君のお父さんの小説のファンなんだ。

 さて、とキッドは階段の前で新一と向き合った。

「こっからは分かれて探そうぜ。何が見つかるかわからないが、レイジは必ずこの館に謎を解く何かを残している筈だ。それでなきゃ、ゲームは始められないからな」

「わかった」

 新一がうなずくと、キッドは彼の細い肩を掴んだ。

「気を付けろよ、名探偵。ここには魔物がいる」

「魔物?」

 首を捻る新一の肩からスッとキッドの手が離れたかと思うと、その白い姿は音もなく闇の中へと消えていった。

 魔物・・・か。

 新一は眉をひそめてキッドが消えた方を見ると、短く息をついて階段を上っていた。

 新一と別れたキッドが真っ先に脚を踏み入れたのは、小五郎たちが山根礼子を探すために入っていったあの地下道だった。

 小五郎たちは、行き止まりだったと言って引き返してきたが。

 隠し扉を開けたキッドは、地下へ続く階段を降りていった。

 道は一本。

 しばらくして、前方に抜け落ちた穴が見えてきた。

 服部たちが落ちたという穴だろう。

 覗き込んだが底は見えなかった。

「これか」

 押し込まれたようになっている壁の一部をキッドは手のひらで撫でた。

「面白いトラップだな。遊び心たっぷりって所がレイジっぽいけど」

 しかし、あいつじゃないだろう。

 蒼の館を造った人物か、それとも・・・・・

 キッドは平行に手のひらをずらしてから壁を押した。

 めり込んだ壁がスイッチになっているのか、そのまま押すと壁が徐々に外に向けてズレていく。

「へえ〜vこれなら女の力でも開くよなあ」

 キッドは開いた隙間から身体を滑り込ませると、壁をもとに戻した。

 思った通り別の抜け道が続いている。

 山根礼子はここへ入ったのだ。

「二重の仕掛けがあるなんて、あのオッサンたちにわかれという方が無理だよな」

 キッドはそう呟いて苦笑すると、前に進んでいった。

 左右の壁に明かり用のランプがついている所から見てもこちらの方が新しかった。

 何故館の下にこんな抜け道を作ったのだろうか?

「待っていたわ、怪盗キッド」

「・・・・・・・・」

 キッドは足を止めると、ふいに目の前に表れたほっそりした人物と対峙した。

「あなたなら、きっとここへ来ると思っていたわ。兄とわたししか知らないこの抜け道に」

 山根礼子?

「ほお?何故そう思ったのですか」

「だって、兄から聞き出したのでしょう?」

 

 あなたが殺した三雲礼司から。

 

 

 

 

 

 平次たちが蒼の館にたどり着いた頃にはもう夜が明け始めていた。

「良かった。館はちゃんとある」

 ホッとしたように光が呟いた。

 爆発でもっとヒドイ状態になっているかと思っていたのだ。

 しかし、目立って破壊されているのは二階の一部だけで、外から見る限り殆どが無事だった。

「松永はんの車が見あたらへんな」

 平次の言葉に、光はえ?と瞬きする。

「まさか、ここから車で脱出したとか・・・」

 でも橋が壊れてるし、あの四駆に全員が乗っていくというのも変だしなあ、と光は首を傾げる。

 小五郎が運転してきた車や、山根礼子らが乗ってきた車はちゃんとここに残っているのだ。

「やっぱり毛利さんたちは戻ってなかったんじゃ」

 松永が残っていたのだから、館内にいた聖児や吉沢、そして女の子たちを自分の車に乗せて脱出というのも考えられなくもない。

 でも橋が・・・と光は腕を組んで唸る。

「とにかく館の中へ入ってみよか」

「あ、ああ・・・そうだね」

 光は平次と一緒に館の中へ入った。

 入り口の扉は開けっ放しだった。

 慌てて外に飛び出したという感じだ。

 そりゃあ、突然中で爆発したら逃げ出すのは当然だ。

 中は人の気配がなく、シンと静まり返っていた。

 やはり、皆ここから脱出したのか。

 と、二階で何かが倒れたような音を耳にした平次は表情を険しくした。

「何?今の・・・」

「ちょっと見てくるから、ここで待っとり」

「ええっ!オレも行くって!」

「ええから、ここにおり。見てくるだけやから」

 平次はそう言うと、一人で二階へ上がっていった。

「・・・・・・」

 やっぱり場慣れしてるよなあ、と平次を下で見送った光は溜息をつく。

 彼は高校生探偵として本物のの殺人事件に関わってきているのだから、到底自分などがかなう筈はなかった。

 自分など、僅かな音がしただけでも飛び上がってしまうのだから。

 実際、死体を見た時は本当に恐いと思ったのだ。

 そういや、自分たちが入ったあの抜け道はどうなったろう?

 光は小五郎たちが戻ってきてはいないかとホールの方へ足を向けた。

 しかし、ついさっき殺人現場を見たばかりなので、光は用心深くこっそりとホール内を覗いた。

「あ・・あれ?」

 光はホール内に立っていた人影をみて目を瞬かせた。

「黒羽くん?」

 光が呼ぶと、中にいた少年が顔を向けた。

「良かった!無事だったんだ!他のみんなは?」

「ああ、皆ここから脱出したよ」

「松永さんの車で?」

「そうだ。君も無事で良かった」

 少年はそう言って光に向けて微笑んだ。

(アレ?なんか雰囲気違う?)

 こいつって、こんなに綺麗だっけ?

 いや、結構整った顔をしてるヤツとは思ってたけど。

「服部は?」

 あ、今二階に・・・と光が上を指さしたその時、突然ホール内に大声が轟いた。

くどーっ??

 光がビックリして振り向くと、いつ二階から降りてきたのか、服部平次が彼よりも驚いた顔でホールの入り口に突っ立っていた。

なんや?なんでおまえが

 新一はニッと笑う。

「決まってるだろ、服部。謎を解くためだ」

 くどー?

 あれ?くどーって工藤?・・・ってことはつまり・・・・・

「工藤新一ィィィ!」

ええーッッ!

 

 

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