「わたしが殺した?それは心外ですね。私は人殺しなどしませんよ」

「じゃあ、何故3つの宝石を持っていたの?あれは兄が持っていたものよ。それに、あなたは神秘の蒼が偽物だということを最初から知っていた」

「・・・・・・・」

「失踪する前まで、兄は時々わたしのもとに電話やメールを送ってきてくれたわ。そして最後に兄が送ってきたメールにはこうあった。”私は今、ミステリアスブルーと白の魔術師に囚われているから戻れない”と。ミステリアスブルーは本物の女王の宝石。そして、白の魔術師というのは怪盗キッド、あなたのことだわ」

「確かに宝石と私を結びつけるのはわからなくもありませんが・・・それで私が三雲礼司を殺したというのは飛躍しすぎではありませんか?」

「兄が8年もの間わたしに連絡してこないなんてあり得ない!あのメールを最後に本当に兄は忽然と消えてしまったのよ!」

 あなたが殺したんだわ!

「・・・・・・・・」

「あなたがここに来たのもその証拠だわ。ここは兄とわたしだけが知っていた秘密の抜け道・・あなたが兄から聞いていない限りここへ来られるはずはないのよ」

 キッドは薄く笑みを浮かべて彼女を見つめた。

「そんなことはありませんよ。三雲礼司から聞かなくても、この場所へ来られる人間はいます」

 謎を解く、優れた推理力を持った人間ならね。

 たとえば、高校生探偵の工藤新一や服部平次・・・・

「あくまでとぼけるつもりなのね」

「とぼけるも何も、私は彼を殺してなどいない」

「嘘よ!兄はどこ?どこにいるの!」

 キッドは、ふっと短い息をつく。

「嘘は言ってない。レイジを探しているのはあなただけじゃないんだから、礼子さん」

 え?

 礼子は、ふいに口調の変わったキッドに瞳を瞠る。

 キッドは驚く礼子の前でシルクハットを取り、モノクルを外した。

 彼女の瞳が、さらに大きく見開かれる。

「あな・・た・・・・・黒羽くん?」

 快斗に戻ったキッドはコクンと頷いた。

「変装じゃないよ。これがオレの素顔。信じられないんだったら触って確かめてもいい」

「な・・ぜ?」

 いったいどういうことなの?

 何故この子が!

 

 

 

「どういうことなんや、工藤?」

 別に、と新一は素っ気なく平次に答える。

「こっちの方が動きやすかった。それだけだ」

「あ・・アホ言うなや!またぶっ倒れたらどないすんねん!」

 おそらくまた灰原ってちっこいネーチャンが作った解毒剤を使ったのだろうが、完全ではない薬は新一に多大な負担をかけるということを平次は自分の目で見て知っていた。

 得体の知れない殺人者、それもプロのスナイパーらしき人間がいる中でのその負担は、コナンの姿でいる以上にマイナス面が大きい。

 心配すんな、と新一は平次の肩をポンと叩く。

「あの・・・工藤くん、どっか身体が悪いの?最近姿を見せなかったのはそのせい?」

 いや、と新一は光の方を見て首を振った。

「どこも悪くない。ちょっとした疲れをこいつは大袈裟に言ってるだけだ」

 平次はムッとした顔で新一を睨む。

 くそっ!頑固もんが!

 新一は手を伸ばすと、トンと隠し扉になっている壁を押した。

「おい工藤。行くんか?」

「ああ。礼子さんがまだ見つかってない」

「警部さんと毛利探偵もここへ入ったきりなんだけど」

「彼らなら、もう皆と一緒に脱出したよ」

 え?と平次と光は互いの顔を見合わせる。

 なんで?

「行き止まりで戻ってきた時、あの爆発騒ぎが起こったんだ」

「行き止まりって・・・じゃ、礼子さんはどこへ行ったんや?」

「別の抜け道に入る場所がどこかにある筈だ」

「別の抜け道・・か。オレらがおっこちたとこも妙な迷路やったし、あってもおかしくはあらへんな」

「迷路?」

「そうなんや。グルグル歩き回らされたあげく、出てきたんは、ここから殆ど離れてへん場所やった」

「そこでオレたち死体を見つけて・・・」

「死体?」

 新一は眉をひそめる。

「ああ、そうや。羽瀬のオッサン、撃たれて死んどった。それもライフルによる狙撃や」

 狙撃・・・・

 まさか、あいつ・・!

 

 

 

「オレと礼司は8年前にちょっとした契約をかわしたんだ」

「契約・・?8年前って・・・・」

「礼司が身内から姿を消すちょっと前かな。オレの父親がレイジを追ってる組織に殺されたすぐ後」

「殺された・・・っ?」

「レイジは生きてるよ、礼子さん。少なくとも、オレが高校に入る頃まではちゃんと会ってたんだから」

「・・・・・・・・」

「彼は元気だったよ。危険な連中に狙われてるから、あなたに会うことも連絡することもできなかったけど」

 快斗は再びシルクハットとモノクルをつけると、呆然としている彼女の方へゆっくりと歩み寄っていった。

 そして、彼女の手に女王の3つの宝石を渡す。

「これはレイジから預かったもの。あなたにお返しします」

 もう、オレには必要のないものだから。

 礼子は目の前に立っている怪盗キッドだという少年の顔に手を伸ばした。

 手に感じる暖かな肌は、それが変装ではなく本当に素顔なのだということを彼女に伝える。

「レイジはあなたのこと、すごく気にかけてました。たった一人の心優しい妹だから、本当は心配させたくはなかったって」

「・・・・・・」

 ここへ来たのは、そのことをあなたに伝える目的もあったんですよ。

 こういう状況でしかあなたに伝えられなかったから。

「気をつけて。レイジを追ってる連中はもうここまで来ている」

「兄が伝えてきた”白の魔術師”というのは・・・やはりあなたのことだったのね」

「うん、そう・・・それと”ミステリアスブルー”というのも宝石のことじゃなくて、オレと同じようにレイジにナンパされた奴のこと」

 そう言ってキッドは少しだけクスリと笑う。

「オレたちはレイジを探して組織の手から救わなきゃならない」

「兄を・・・救う?」

 そう、とキッドは彼女に向けてうなずく。

「それが契約」

 だから心配しないで。

 礼子は思ってもみなかった真実を聞かされ、しばらく声もなくキッドの顔を見つめていた。

 だが、突然彼女は叫び声を上げそうになった口元を両手で押さえた。

 大きく見開いた瞳は、まっすぐにキッドを凝視している。

「わ・わたしは・・・なんてことを・・・・・・・」

 やめさせなければ!

「礼子さん?」

 彼女はキッドに背を向けると、止める間もなく駆け出していった。

「待・・っ!」

 呼び止めようと彼女の名を呼びかけたキッドは、近づいてくる気配にハッとして振り向く。

 相手もキッドの姿に気付き驚いたように足を止めた。

キッド!

「えっ!マジ!」

 キッドは現れた二人の高校生探偵と光を見る。

 ふ・・とキッドと新一の視線が合った。

「こんなとこで何やっとんねん、キッド!」

 あなた方には関係のないことですよ、とキッドは薄く笑うと白いマントをフワリと翻した。

「待て!キッド!」

 新一と平次はすぐにキッドの後を追う。

 僅かに遅れて光も追いかける。

スゲエ!これって本物だあぁぁ!

 一度はこの目で見たいと思っていた怪盗キッドを見、そして東と西の高校生探偵と一緒にキッドを追いかけている自分がいる。

 ドラマなどではない。

 これは、まさしく本物の事件なのだ!

「やるぞぉ〜!じっちゃん(?)の名にかけて〜ッ!」

 光は、番組が違〜う!とディレクターが泣くような台詞を嬉々としながら口にした。

 

 

 

「げぇ〜、道が分かれてる!」

 キッドの後を追っていた3人は、左右に分かれた通路の前で立ち止まった。

 まさか、また迷路?

 できたら、光はもうカンベンしてほしい気分だ。

「キッドの奴、どっちへ行きよったんや?」

「服部。おまえは美山と右へ行け。オレは左に行く」

「ちょ−待てぇ!」

 平次はいつものように勝手にしきる新一の腕をひっ捕まえる。

「おまえを一人にできるかい!行くなら一緒や!」

「そんな時間はねえな。おまえが心配するようなことはないからオレの言う通りにしてくれ、服部」

 平次は眉間を寄せる。

「工藤・・・・おまえ何を掴んだんや?」

「まだ何も掴んじゃいねえよ。全てははこれからだ」

「・・・・・・・」

 じゃあな、と新一は一人で左の通路へ入っていった。

「なんか・・・スゴイ人だなあ」

 感心したように言う光に、何がや!と平次は噛み付いた。

「いつもいつも勝手に動いては人を振り回しよってからにぃ〜〜!」

 光は怒る平次の顔をマジマジと見つめた。

「へえ〜、二人はそういう関係なんだ」

 平次はムッとした顔で光を睨む。

「なんや関係て?」

「気の強い奥さんと尻に敷かれてる旦那って感じ?」

な〜んやとおっ!

「あ、あくまで印象だから・・・オレと聖児もよく言われるんだけどさ」

 年の離れた優等生の兄と、面倒ばかりかける落ちこぼれの弟・・とか。

 同い年なのにさ。

「落ちこぼれ?」

 オレ頭悪いから、と光は首をすくめて笑う。

「アホ言いなや。頭の悪い奴がオレらについてこれるかい」

 平次は諦めたようにため息を漏らす。

「しゃあない、行くで」

 平次は光を連れて右の通路を行く。

「それにしても、奥さんホント美人だねv」

「・・・・ええかげん、その冗談やめへんと置いてくで」

 

 

 

 新一が入った通路はたいして進むことなく外に出た。

 どうやら出た所は館の裏手らしい。

 キッドの姿はどこにも見えない。

「チッ・・服部が行った方だったか・・・・」

 そのまま平次にまかせるか、それとも戻った方がいいのかと新一が考えたその時、ふと聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

 あれは・・・・!

 声のする方へ向かった新一が見たのは、突然部屋から姿を消した山根礼子だった。

 礼子さん?

「もうここに来ているのでしょう?お願いしたいことがあるの!姿を見せて!」

 いったい誰を呼んでいるんだ?

(・・・・・・・っ!)

 突然新一は、背後から伸びてきた手に身体を抱えこまれ木の茂みの陰に引きずり込まれた。

「キッド!」

 シッ、とキッドは口元に人差し指を当てた。

「どういうことなんだ?彼女はいったい・・・・・」

「どうやら山根礼子と魔物は関係があったらしいな」

 魔物・・・・

「それって羽瀬氏を殺した奴のことか」

 おや?とキッドは瞳を瞬かせる。

「知ってたのか名探偵」

「服部が彼の死体を見つけた。凶器はライフル・・・羽瀬氏は狙撃されたのか?」

「・・・・・・」

「おまえも彼の射殺体を見つけて・・・いや、もしかしておまえは」

 ああ、とキッドは頷く。

「あいつはオレの目の前で撃たれたよ」

「何故そのことをオレに言わなかったんだ!」

「そりゃ、おまえには関係ないことだったからさ」

「人が殺されて関係ねえことあるか!」

「そう怒るなよ、名探偵」

 キッドは肩をすくめる。

「多分、あの魔物の狙いは・・・・・」

 え?と新一がキッドの様子に眉をひそめたその時、ゆっくりと近づいてくる誰かの気配を感じ口を閉じた。

 足音をたてず、必要最低限な気配しか感じさせないその人物は、まっすぐ山根礼子のもとへ向かってくる。

 彼女も気がついたのか、緊張した堅い表情で近づいてくる人物を待つ。

 現れたのは、ダークグレイのコートを羽織った長身の男だった。

 濃いサングラスをかけているため顔はハッキリしないが、かなり整った顔立ちのように見える。

 新一は何故かその男を見た瞬間、身体がゾクリと震えるのを覚えた。

 男は殺気も何も感じさせていないというのに。

 キッドが魔物だと呼んだのもわかる気がする。

 奴は・・・・

「殺し屋だな。それも、超一流の」

 キッドは男の持つ狂気に身を堅くしている新一の肩に回していた腕に力をこめた。

「あなたが”アッシュ”?」

 男は彼女の問いに答える気はないのか、口を開く様子はない。

「ごめんなさい。状況が変わったの。依頼をキャンセルさせて」

 男はやはり表情を変えずに黙っている。

「契約違反だということはわかってるわ!どんなことでもするから!あなたが要求するだけの違約金も払うわ!だから・・・・」

 だから!

 怪盗キッドを殺さないで!

(え・・・?)

 新一は間近にあるキッドの顔を見たが、相変わらずというかその顔にはなんの感情も浮かんではいなかった。

 まさか気がついていたのか?

 山根礼子が殺し屋にキッド暗殺を依頼してたことを。

「・・・・・キッド」

「彼女はオレがレイジを殺したと思ってたんだ」

「三雲礼司を?おまえが何故?」

 いろいろあるのさ、とキッドは苦い笑みを浮かべる。

「しかし彼女も無茶なことするな。殺し屋に直接依頼のキャンセルをするなんて」

「どういう・・・」

「違約金を取られるだけならいいんだけどさ。ああいう一流の仕事人って奴はプライドが高いし」

「しかし、彼女が依頼を取り消さなければおまえが殺されるんだぞ!」

「殺し屋に命を狙われるなんてことは慣れてるさ」

 今更一人くらい増えたってどってことないね。

「おまえ・・・・」

 新一は瞳を瞠ってキッドの横顔を凝視する。

「そんな危ねえことをやってたのかよ!」

「おまえもオレと変わんねえだろ?」

 キッドにそう言い返された新一は口をつぐむ。

 確かに黒の組織を追うことで命の危険にさらされているのは事実だ。

 特にジンは、あの殺し屋と同じくらい危険な男だった。

 わかっている・・・わかっているが・・・・・・

 ぐっとキッドの腕がさらに強く新一の身体を抱きしめてきた。

 なんだ?と瞳を瞬かせた新一は、いつのまにか”アッシュ”と呼ばれた男の手に銃があることに気付いた。

 バカな女だ、と殺し屋の口から初めて言葉が出る。

 新一は悪い予感を覚えるが、すぐに反応できず、動こうとした時にはキッドの腕の中にある身体は僅かも動かすことはできなくなっていた。

 声を出そうとした口もすかさず伸びてきたキッドの手に塞がれる。

 そして、そのまま顔をキッドの胸に押し付けられた新一は視界をも奪われた。

 キッド!

 唯一自由になっている聴覚が一発の銃声を捕らえた。

 悲鳴は上がらなかった。

 だが、新一の脳裏には、頭部を鮮やかな血に染めて倒れる山根礼子の姿がはっきりと映し出された。

 

 

「なんや、ここは橋の向こう側やないか」

 抜け穴から出た平次と光の前には、昨日彼らが渡ってきて、何者かに破壊された橋が見えていた。

 館の反対側。

 つまり後方にあるのは町へ続いている道だ。

「そうかあ。この抜け道を通れば、橋がなくても向こう側へ行けたんだ」

「なんで、あんな道を・・・・・」

「橋が使えない時のためじゃない?」

「ほかの道はダミーってか?戦国時代やあるまいし。なんで何本も作る必要があったんや?」

「敵から逃げるため・・・とか」

 光が言うと平次は険しい顔つきで黙り込んだ。

「おい、おまえら無事だったのか!」

 こちらへ向かって走ってきた車から顔を出したのは、毛利小五郎だった。

「おっちゃんか!あんたも無事やったんやな。ほかのみんなは?」

「蘭たちは町の警察に保護してもらってる。中森警部はヘリで館に向かうことになってるが・・・おまえらはどうやってここまで来たんだ?」

「抜け道通ってや。あん時オレらがおっこった道は迷路みたいになっとってな。結局出たんは館のすぐそばやったけど、その後で見つけた道がここに出たんや」

「やっぱりまだ道があったか」

 どうやら消えた礼子さんはその抜け道に入ったようだと小五郎が言ったその時、館の方から一発の銃声が響いてきた。

なんだっ!

 平次たちはびっくりして橋の向こう側に顔を向けた。

 

 工藤・・・・!

 

 

 

 

 一時的に意識を飛ばしていたのか、新一が目を開けた時キッドといたのはさっきとは違う場所だった。

「気がついたか?オレがわかるか名探偵?」

 ひんやりとした手が、仰向けになっている新一の額に触れた。

 見るとキッドはモノクルはつけているものの、シルクハットはかぶっていない。

 何が・・・・と思った瞬間、目の前に銃を持った男が山根礼子を撃とうとしているのが見えた。

 勿論それは幻影であったが、覚醒しきっていない新一にはとっさに判断できない。

 血に染まった彼女が倒れると、その銃が自分たちに向けられるのを見て新一の思考はパニック状態になった。

「あ・・何故だっっ!」

「名探偵?」

 ものすごい力で跳ね飛ばされそうになったキッドは、今だ新一が混乱状態にあることに気付き、彼の身体を抱きしめる。

「しっかりしろ、工藤!」

「何故・・何故彼女が殺されるんだ!」

 新一が発したその言葉に快斗は眉をしかめる。

 新一の思考は半分は戻っているのだ。

 だが、彼女を銃弾から守れなかったという事実が残りの思考を混乱させている。

離・・・・!

 キッドは抵抗する新一の頭を手で固定すると、抵抗を一切許さないようにして唇を重ねた。

 新一の叫びを己れの中に取り込むような口付け。

「ん・・・!」

 優しさなどない、抵抗は許さない、そんなきつい口吻にさすがの新一も苦鳴を漏らし暴れた。

「キッ・・・!」

 キッド!

 歯列を割ってもぐりこんだキッドの柔らかな舌が新一の口腔内をなぞり呼吸を奪う。

 何度か離れ、再び重なって、そして新一の身体から次第に力が抜けていくと、逆に熱くなっていた思考が冷めていった。

 新一が声を上げなくなると、キッドは力を抜いて優しく包むようにその身体を抱きしめた。

「新一・・・・・・」

 キッドは新一の白い額に軽く唇を押し当てた。

「わかってくれとは言わないけど、オレは何よりも優先しておまえを守るから」

「・・・・・・おまえ、このままゲームを続けるつもりかよ」

 おまえは?とキッドが聞き返す。

 新一が答えないでいると、キッドは上着の内ポケットから手帳を取り出した。

 そして、ページを開いて新一に見せる。

 そこには何かランダムに書かれた数字がびっしりと書き込まれていた。

「なんだよ、それ?」

 なんだと言われてもねえ、とキッドが首をすくめて苦笑する。

「さっき、おまえが半覚醒状態で目覚めた時に、おまえが自分で言ったことだよ」

「オレがあっ?」

 そんなの知らねえぞ!

「ただの寝言じゃねえのか」

「違うね。これはレイジが残したメッセージの一つだ。あいつは人間の記憶の中にメッセージを刻み込む方法を知っていた。本人が気がつかないままに記憶させて、何かのきっかけでそれを取り出せるってやつ。いわば、記憶の貸し金庫のようなもんだ」

 記憶の貸し金庫・・・・・

 とんでもないキッドの話に新一は呆然となった。

 それと同時に無意識に口にした数字を全て覚えて手帳に書き込んだキッドにも驚く。

 こいつも普通じゃない。

「で?いったいなんなんだ、それは」

「多分、暗号の解読表」

「なに?」

「これに似たのを一度レイジに見せられたことがある。ここまで複雑なもんじゃなかったけどな」

「・・・・・・・」

「で、どうする?ゲームを続けるか?それともやめて無視を決め込むか?」

「おまえは続けるつもりなんだろ、キッド」

 う〜ん、とキッドは唸って首を傾ける。

「オレはもうレイジにかかわりたくないなあ、とか思ってたりもするんだけどさ。でも」

「でも・・・なんだ?」

「ミステリアスブルーを守るって契約だけは続けてもいいかなってね」

「ああ?なんでだよ」

「決まってるじゃん」

 面白いからv

 新一はアッケとした表情でキッドを見つめたが、相手にするだけ無駄な労力か、と詰めていた息を吐き出した。

 

 

 

 キッドは山根礼子を乗せて飛んでいった警察ヘリを見送った。

 西の探偵がかなりねばっていたが、結局新一を見つけることが出来ず中森警部と共に去っていった。

(悪いな、服部。新一はちゃんと無事に戻すから)

 実を言うと、キッドは結構西の探偵を気に入ってたりする。

 多分、これから”快斗”としていい友人関係を結べるかもしれない。

 楽しみだよなあ〜〜

 さて・・・

 新一のもとへ戻ろうと踵を返したキッドは、突然飛んできた石にシルクハットを弾かれる。

(な・・・っ!)

「ほお。さすがに反射神経はいいな」

 顔面を狙ったんだが、と薄笑いを浮かべながら現れた男にキッドは緊張した、

 多分現れるだろうと予想はしていたが。

「若いな・・・怪盗キッドはもっと年をくってると思っていたが」

「・・・・・・」

 キッドが初めて現れたのは18年前。

 だが、ここにいるキッドはどう見ても子供だ。

 変装の名人だという話だが、それでもこんな子供に化ける理由はないだろう。

「それが素顔か」

「答える義務はないと思いますがね、アッシュ」

 キッドに名を呼ばれた男は楽しげに笑う。

「俺を知っているのか?」

「そりゃあ、闇の世界でアッシュの名を知らない者はないでしょう」

 超一流のスナイパー。

 逃げることはかなわぬ最強の殺し屋。

「お会いできて光栄ですよ」

 しかも、この私を標的にして頂いたとか。

 ふん、と間近に寄ったアッシュは鼻で笑うとキッドの顎に指をかけて顔を上げさせた。

「怪盗キッドがこんなガキだったとはな。あの女が命がけで依頼を取り消そうとするはずだ」

「彼女は誤解していたのですよ。私はその誤解を解いただけ」

「残念だな。結構楽しめそうな依頼だったんだが」

「では、私は命拾いしたということでしょうか」

 アッシュはそれには答えず、キッドの見てる前でサングラスを取った。

 初めて見る、いづれは伝説になるだろう殺し屋アッシュの素顔。

 整った冷たい美貌。

 その瞳はくすんだ灰色だった。

 国籍不明と言われているだけあって、その顔を見てもどこの国の血を引いているのか判断できなかった。

 瞳をそらすことなく、まっすぐにその灰色の瞳を見つめるキッドに、アッシュはニッと口端をゆがめた。

「いい度胸だ。しかも、ハッタリでない能力もある」

「・・・・・・・・」

「今回は俺の気まぐれだ。次も命拾いできるとは思わないことだな、キッド」

「肝に命じましょう。ただ、わからないのは・・・・何故、羽瀬氏を狙撃したのですか?」

 ターゲットである私ではなく。

「俺は自分の仕事を邪魔されることが何より嫌いなんでな」

 あの男は俺より先に標的にちょっかいをかけた。

 だから排除した、とアッシュは答える。

(ということは・・・組織絡みの殺人ではなかったということか」

 そのことだけは安堵する。

 こんな奴が組織に関わっていたら、新一の身にまで危険が及びかねない。

 アッシュは短く鼻を鳴らすと、キッドから離れていった。

 アッシュの姿が見えなくなると、キッドはようやく緊張を解き力を抜いた。

 間近に見てわかる。

 自分とは格が違うのだ、と。

 

 

 

「コナンくん!」

 病院に来ていた蘭は、コナンの無事な姿を見て泣きそうになるくらいホッとなった。

「ごめんね、蘭ねーちゃん」

 コナンは素直に自分を抱きしめる蘭に謝った。

「もう!いつも心配ばかりかけるんだから!」

 でも良かった・・無事で・・・・・

 よお、とやはり病院にいた平次が快斗に向けて軽く手を上げた。

「いったいどこおったんや?あのボーズを探しにいったままいなくなったて、皆心配してたんやで」

 それがさあ、と快斗は疲れたようにため息をつく。

「一度はコナンくんを見つけたんだけど、爆発騒ぎが起きて気がついたらいなくなっててさ。なんとか階下に降りたらあの隠し扉が開いてたもんで、もしかしたら中へ、と思って入ったら穴におっこっちゃって」

「穴って、オレらが落ちた穴か?」

「らしいね、もう、そこで迷いに迷っちゃって・・・で、ようやく外に出たときコナンくんを見つけたってわけ。橋は壊れてるし、しょーがないから川に沿って歩いてきたんだけどさあ」 

 もう疲れた〜〜と快斗は待合室の椅子にグッタリと座り込む。

「ハ・・・そりゃ大変やったな」

 ということは、こいつ工藤におうとらんのか?

 ふと快斗は顔を上げ、平次を見る。

「礼子さん、撃たれたって?」

「ああ。命に別状はないらしいんやけど、まだ意識が戻らんのや」

「犯人は?」

「わからへん・・けど、犯人は銃に慣れたプロや。そうでなきゃ、あんな至近距離で彼女を撃ってわざと急所をはずすような真似できるわけあらへん」

「ふうん。そんな奴がいたんだァ。よく無事だったよな、オレたち」

「ああ・・・そうやな」

 

 

 

 コナンは蘭と一緒に集中治療室にいる山根礼子を見舞った。

 頭に包帯をまかれた彼女をコナンはガラス越しに見つめる。

「額を銃弾にえぐられていて痕が残るそうなんだけど。でも・・・助かって本当に良かった」

 うん・・とコナンは頷く。

(良かった・・・・・)

 

「おい工藤。おまえ、あれからどないしてん?礼子さんを撃った犯人、おまえ見とらんのか」

 再び蘭と共に待合室に戻ってきたコナンに平次が寄ってきてこっそり話しかけた。

「ちょっと待ってろ、服部」

 コナンは顔を巡らせて快斗の姿を探すと、子供の顔で駆け寄っていった。

「快斗兄ちゃ〜ん!」

 コナンは満面の笑みで快斗のもとへ向かう。

(な、なんやあ??)

 椅子に座っていた快斗に、コナンは内緒話でもするように彼の耳元に口を寄せている。

「あいつら、えろう仲ようなったんやな」

「ホント。ああやってると、本当の兄弟みたい」

 コナンが無事であったことで気が楽になったのか、蘭の顔はさっきまでの暗い表情が嘘のように明るくなっている。

「まあ、あいつら顔が似とるからな」

「うん。本当に似てるね。新一もいたらきっと3人兄弟といっても通用するね」

(あいつら、いったい何に話しとんのや?)

 平次が複雑な気分で見ている中で、コナンは快斗に確認をとっていた。

「おまえ、彼女を撃った男のこと知ってんだろ」

「アッシュのことか?そりゃあ有名人だからね。殺し屋としては超一流。受けた依頼を一度もしくじったことがないっていう鬼のようなスナイパーだぜ」

「お気楽に言ってんなよ。おまえ、そんな奴の標的になってたんだぜ」

「そうだよなあ。マジやばかった」

 コナンは眉間に皺を寄せると瞳を伏せた。

「奴を見た時、オレはゾッとした・・・あいつは殺し屋という以上に危険な存在かもしれない」

(新一・・・?)

「おい!そろそろ飯食いにいかへんか!」

 痺れを切らしたような平次の声に、快斗はククッと楽しそうに笑う。

「愛されてるね、名探偵」

「バーロ。なに言ってやがる」

「西の探偵に今回のことどう説明する気?」

 しねえよ、とコナンが言うと、快斗はえ?という顔になる。

「あいつをこのゲームに参加させる気はねえって言ってんだよ」

「それじゃ、納得しないでしょうが」

 納得させるさ、とコナンは唇を引き上げて笑った。

「なんや、ここは橋の向こう側やないか」

 抜け穴から出た平次と光の前には、昨日彼らが渡ってきて、何者かに破壊された橋が見えていた。

 館の反対側。

 つまり後方にあるのは町へ続いている道だ。

「そうかあ。この抜け道を通れば、橋がなくても向こう側へ行けたんだ」

「なんで、あんな道を・・・・・」

「橋が使えない時のためじゃない?」

「ほかの道はダミーってか?戦国時代やあるまいし。なんで何本も作る必要があったんや?」

「敵から逃げるため・・・とか」

 光が言うと平次は険しい顔つきで黙り込んだ。

「おい、おまえら無事だったのか!」

 こちらへ向かって走ってきた車から顔を出したのは、毛利小五郎だった。

「おっちゃんか!あんたも無事やったんやな。ほかのみんなは?」

「蘭たちは町の警察に保護してもらってる。中森警部はヘリで館に向かうことになってるが・・・おまえらはどうやってここまで来たんだ?」

「抜け道通ってや。あん時オレらがおっこった道は迷路みたいになっとってな。結局出たんは館のすぐそばやったけど、その後で見つけた道がここに出たんや」

「やっぱりまだ道があったか」

 どうやら消えた礼子さんはその抜け道に入ったようだと小五郎が言ったその時、館の方から一発の銃声が響いてきた。

なんだっ!

 平次たちはびっくりして橋の向こう側に顔を向けた。

 

 工藤・・・・!

 

 

 

 

 一時的に意識を飛ばしていたのか、新一が目を開けた時キッドといたのはさっきとは違う場所だった。

「気がついたか?オレがわかるか名探偵?」

 ひんやりとした手が、仰向けになっている新一の額に触れた。

 見るとキッドはモノクルはつけているものの、シルクハットはかぶっていない。

 何が・・・・と思った瞬間、目の前に銃を持った男が山根礼子を撃とうとしているのが見えた。

 勿論それは幻影であったが、覚醒しきっていない新一にはとっさに判断できない。

 血に染まった彼女が倒れると、その銃が自分たちに向けられるのを見て新一の思考はパニック状態になった。

「あ・・何故だっっ!」

「名探偵?」

 ものすごい力で跳ね飛ばされそうになったキッドは、今だ新一が混乱状態にあることに気付き、彼の身体を抱きしめる。

「しっかりしろ、工藤!」

「何故・・何故彼女が殺されるんだ!」

 新一が発したその言葉に快斗は眉をしかめる。

 新一の思考は半分は戻っているのだ。

 だが、彼女を銃弾から守れなかったという事実が残りの思考を混乱させている。

離・・・・!

 キッドは抵抗する新一の頭を手で固定すると、抵抗を一切許さないようにして唇を重ねた。

 新一の叫びを己れの中に取り込むような口付け。

「ん・・・!」

 優しさなどない、抵抗は許さない、そんなきつい口吻にさすがの新一も苦鳴を漏らし暴れた。

「キッ・・・!」

 キッド!

 歯列を割ってもぐりこんだキッドの柔らかな舌が新一の口腔内をなぞり呼吸を奪う。

 何度か離れ、再び重なって、そして新一の身体から次第に力が抜けていくと、逆に熱くなっていた思考が冷めていった。

 新一が声を上げなくなると、キッドは力を抜いて優しく包むようにその身体を抱きしめた。

「新一・・・・・・」

 キッドは新一の白い額に軽く唇を押し当てた。

「わかってくれとは言わないけど、オレは何よりも優先しておまえを守るから」

「・・・・・・おまえ、このままゲームを続けるつもりかよ」

 おまえは?とキッドが聞き返す。

 新一が答えないでいると、キッドは上着の内ポケットから手帳を取り出した。

 そして、ページを開いて新一に見せる。

 そこには何かランダムに書かれた数字がびっしりと書き込まれていた。

「なんだよ、それ?」

 なんだと言われてもねえ、とキッドが首をすくめて苦笑する。

「さっき、おまえが半覚醒状態で目覚めた時に、おまえが自分で言ったことだよ」

「オレがあっ?」

 そんなの知らねえぞ!

「ただの寝言じゃねえのか」

「違うね。これはレイジが残したメッセージの一つだ。あいつは人間の記憶の中にメッセージを刻み込む方法を知っていた。本人が気がつかないままに記憶させて、何かのきっかけでそれを取り出せるってやつ。いわば、記憶の貸し金庫のようなもんだ」

 記憶の貸し金庫・・・・・

 とんでもないキッドの話に新一は呆然となった。

 それと同時に無意識に口にした数字を全て覚えて手帳に書き込んだキッドにも驚く。

 こいつも普通じゃない。

「で?いったいなんなんだ、それは」

「多分、暗号の解読表」

「なに?」

「これに似たのを一度レイジに見せられたことがある。ここまで複雑なもんじゃなかったけどな」

「・・・・・・・」

「で、どうする?ゲームを続けるか?それともやめて無視を決め込むか?」

「おまえは続けるつもりなんだろ、キッド」

 う〜ん、とキッドは唸って首を傾ける。

「オレはもうレイジにかかわりたくないなあ、とか思ってたりもするんだけどさ。でも」

「でも・・・なんだ?」

「ミステリアスブルーを守るって契約だけは続けてもいいかなってね」

「ああ?なんでだよ」

「決まってるじゃん」

 面白いからv

 新一はアッケとした表情でキッドを見つめたが、相手にするだけ無駄な労力か、と詰めていた息を吐き出した。

 

 

 

 キッドは山根礼子を乗せて飛んでいった警察ヘリを見送った。

 西の探偵がかなりねばっていたが、結局新一を見つけることが出来ず中森警部と共に去っていった。

(悪いな、服部。新一はちゃんと無事に戻すから)

 実を言うと、キッドは結構西の探偵を気に入ってたりする。

 多分、これから”快斗”としていい友人関係を結べるかもしれない。

 楽しみだよなあ〜〜

 さて・・・

 新一のもとへ戻ろうと踵を返したキッドは、突然飛んできた石にシルクハットを弾かれる。

(な・・・っ!)

「ほお。さすがに反射神経はいいな」

 顔面を狙ったんだが、と薄笑いを浮かべながら現れた男にキッドは緊張した、

 多分現れるだろうと予想はしていたが。

「若いな・・・怪盗キッドはもっと年をくってると思っていたが」

「・・・・・・」

 キッドが初めて現れたのは18年前。

 だが、ここにいるキッドはどう見ても子供だ。

 変装の名人だという話だが、それでもこんな子供に化ける理由はないだろう。

「それが素顔か」

「答える義務はないと思いますがね、アッシュ」

 キッドに名を呼ばれた男は楽しげに笑う。

「俺を知っているのか?」

「そりゃあ、闇の世界でアッシュの名を知らない者はないでしょう」

 超一流のスナイパー。

 逃げることはかなわぬ最強の殺し屋。

「お会いできて光栄ですよ」

 しかも、この私を標的にして頂いたとか。

 ふん、と間近に寄ったアッシュは鼻で笑うとキッドの顎に指をかけて顔を上げさせた。

「怪盗キッドがこんなガキだったとはな。あの女が命がけで依頼を取り消そうとするはずだ」

「彼女は誤解していたのですよ。私はその誤解を解いただけ」

「残念だな。結構楽しめそうな依頼だったんだが」

「では、私は命拾いしたということでしょうか」

 アッシュはそれには答えず、キッドの見てる前でサングラスを取った。

 初めて見る、いづれは伝説になるだろう殺し屋アッシュの素顔。

 整った冷たい美貌。

 その瞳はくすんだ灰色だった。

 国籍不明と言われているだけあって、その顔を見てもどこの国の血を引いているのか判断できなかった。

 瞳をそらすことなく、まっすぐにその灰色の瞳を見つめるキッドに、アッシュはニッと口端をゆがめた。

「いい度胸だ。しかも、ハッタリでない能力もある」

「・・・・・・・・」

「今回は俺の気まぐれだ。次も命拾いできるとは思わないことだな、キッド」

「肝に命じましょう。ただ、わからないのは・・・・何故、羽瀬氏を狙撃したのですか?」

 ターゲットである私ではなく。

「俺は自分の仕事を邪魔されることが何より嫌いなんでな」

 あの男は俺より先に標的にちょっかいをかけた。

 だから排除した、とアッシュは答える。

(ということは・・・組織絡みの殺人ではなかったということか」

 そのことだけは安堵する。

 こんな奴が組織に関わっていたら、新一の身にまで危険が及びかねない。

 アッシュは短く鼻を鳴らすと、キッドから離れていった。

 アッシュの姿が見えなくなると、キッドはようやく緊張を解き力を抜いた。

 間近に見てわかる。

 自分とは格が違うのだ、と。

 

 

 

「コナンくん!」

 病院に来ていた蘭は、コナンの無事な姿を見て泣きそうになるくらいホッとなった。

「ごめんね、蘭ねーちゃん」

 コナンは素直に自分を抱きしめる蘭に謝った。

「もう!いつも心配ばかりかけるんだから!」

 でも良かった・・無事で・・・・・

 よお、とやはり病院にいた平次が快斗に向けて軽く手を上げた。

「いったいどこおったんや?あのボーズを探しにいったままいなくなったて、皆心配してたんやで」

 それがさあ、と快斗は疲れたようにため息をつく。

「一度はコナンくんを見つけたんだけど、爆発騒ぎが起きて気がついたらいなくなっててさ。なんとか階下に降りたらあの隠し扉が開いてたもんで、もしかしたら中へ、と思って入ったら穴におっこっちゃって」

「穴って、オレらが落ちた穴か?」

「らしいね、もう、そこで迷いに迷っちゃって・・・で、ようやく外に出たときコナンくんを見つけたってわけ。橋は壊れてるし、しょーがないから川に沿って歩いてきたんだけどさあ」 

 もう疲れた〜〜と快斗は待合室の椅子にグッタリと座り込む。

「ハ・・・そりゃ大変やったな」

 ということは、こいつ工藤におうとらんのか?

 ふと快斗は顔を上げ、平次を見る。

「礼子さん、撃たれたって?」

「ああ。命に別状はないらしいんやけど、まだ意識が戻らんのや」

「犯人は?」

「わからへん・・けど、犯人は銃に慣れたプロや。そうでなきゃ、あんな至近距離で彼女を撃ってわざと急所をはずすような真似できるわけあらへん」

「ふうん。そんな奴がいたんだァ。よく無事だったよな、オレたち」

「ああ・・・そうやな」

 

 

 

 コナンは蘭と一緒に集中治療室にいる山根礼子を見舞った。

 頭に包帯をまかれた彼女をコナンはガラス越しに見つめる。

「額を銃弾にえぐられていて痕が残るそうなんだけど。でも・・・助かって本当に良かった」

 うん・・とコナンは頷く。

(良かった・・・・・)

 

「おい工藤。おまえ、あれからどないしてん?礼子さんを撃った犯人、おまえ見とらんのか」

 再び蘭と共に待合室に戻ってきたコナンに平次が寄ってきてこっそり話しかけた。

「ちょっと待ってろ、服部」

 コナンは顔を巡らせて快斗の姿を探すと、子供の顔で駆け寄っていった。

「快斗兄ちゃ〜ん!」

 コナンは満面の笑みで快斗のもとへ向かう。

(な、なんやあ??)

 椅子に座っていた快斗に、コナンは内緒話でもするように彼の耳元に口を寄せている。

「あいつら、えろう仲ようなったんやな」

「ホント。ああやってると、本当の兄弟みたい」

 コナンが無事であったことで気が楽になったのか、蘭の顔はさっきまでの暗い表情が嘘のように明るくなっている。

「まあ、あいつら顔が似とるからな」

「うん。本当に似てるね。新一もいたらきっと3人兄弟といっても通用するね」

(あいつら、いったい何に話しとんのや?)

 平次が複雑な気分で見ている中で、コナンは快斗に確認をとっていた。

「おまえ、彼女を撃った男のこと知ってんだろ」

「アッシュのことか?そりゃあ有名人だからね。殺し屋としては超一流。受けた依頼を一度もしくじったことがないっていう鬼のようなスナイパーだぜ」

「お気楽に言ってんなよ。おまえ、そんな奴の標的になってたんだぜ」

「そうだよなあ。マジやばかった」

 コナンは眉間に皺を寄せると瞳を伏せた。

「奴を見た時、オレはゾッとした・・・あいつは殺し屋という以上に危険な存在かもしれない」

(新一・・・?)

「おい!そろそろ飯食いにいかへんか!」

 痺れを切らしたような平次の声に、快斗はククッと楽しそうに笑う。

「愛されてるね、名探偵」

「バーロ。なに言ってやがる」

「西の探偵に今回のことどう説明する気?」

 しねえよ、とコナンが言うと、快斗はえ?という顔になる。

「あいつをこのゲームに参加させる気はねえって言ってんだよ」

「それじゃ、納得しないでしょうが」

 納得させるさ、とコナンは唇を引き上げて笑った。

 

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