誕生日-快斗- 後 編 ハタと我に返ったのは、乗り込んだシドニー行きの飛行機が飛び立った後だった。 まるで催眠術にでもかかっていたかのように、屋上でキッドに会ってからの記憶が曖昧であった。 いや、あれからキッドと一緒にタクシーに乗り込んで空港まできて、シドニー行きのチケットを渡されたのは覚えている。 しかし、あまりに突然で理不尽極まりない目にあっているというのに、何故か逆らうことも文句を言うことも出来ずにいたのだ。 だから我に返った途端、今の状況にパニックに陥ってしまっても無理からぬことであった。 「ちょーっと待てぇぇぇっ!!」 悲鳴じみた声と共に立ち上がろうとした彼は、それを果たせず腹部に圧迫感を覚えてガックリ体を折った。 「立ち上がるならシートベルトはずせよな」 窓際に座っている少年が、頬づえをついた顔を隣の青年に向け呆れた声を出す。 「おまえ・・・オレに何したんだ?」 「何したって、なんだよ?」 こちらを向いたキッドである少年が眉をひそめると、彼は一瞬言葉をなくした。 改めて見ると、その少年はまるで人形のように綺麗に整った顔をしていた。 癖っ毛に包まれた白い顔。 東洋人と思えるのに、その瞳は光の加減によるものなのか青紫に見える。 あどけない口元と、やはりどう見ても髭の剃り跡など見当たらない滑らかなその肌からして、10代前半のようだった。 コレが怪盗キッド?まさか・・嘘だろ?と頭の中はぐるぐる状態だ。 代替わりしたとしても、何故こんな子供が怪盗キッドなんかやっているのだ? ああぁぁぁーっ!とまたも彼は叫んだ。 「ホテルに荷物を置きっぱなしだあ!」 「んなの、後で電話したらいいじゃん。頼んだら送ってくれるだろ」 「そりゃそうだが・・・」 しかし荷物一つ持たずに国際線に乗り込むってのも・・・・怪しさ一杯ではないか。 カードは持ってるから無一文ではないが。 少年はクスッと笑った。 「あんた、皓に全然似てねえよな。髪とか目とかもそうだけど、性格とかも圭の方に似てんじゃねえ?」 ジョルジュは少年の口から出てきた意外な名前に目をパチクリさせた。 「圭・・・って、叔父のジョシュアのことか?彼のことも知ってるのか?」 まあね、と少年は楽しげに口端を上げる。 「昔、いろいろ世話になったんだよね」 いやあ、初めて会った時の反応がそっくりでさあ、デジャブみたいに感じちゃったよと少年は笑う。 「あいつもオレの後追って階段で屋上まで上がってきたんだけどさァ。12階のビルだったけど、あんたみたいにぶっ倒れはしなかったよな」 「どうせ、オレは体力ないよ」 本当のことだが、ハッキリ言われるといい気分ではない。 叔父のジョシュアはフランス軍の特殊部隊にも所属していたから、ただの新米ジャーナリストの自分とはそもそも鍛え方が違うのだ。 (・・・・アレ?) 彼はふとあることに気づき首を傾げた。 キッドを追っていた?叔父が?それっていつの話だ?? ちょっと聞いてみようかと彼が口を開きかけた時、少年がスチュワーデスを呼び止めた。 「飲み物くれないかなあ。オレンジジュースがいいや」 少年が頼むとすぐにスチュワーデスはオレンジジュースを持ってきた。 見るからに甘ったるそうなオレンジジュースを、幸せそうにストローで飲んでいる少年を彼はしばらく奇妙なものでも見るように眺めた。 いくつなんだろう? 14か15? いや、東洋人の見かけは年より若く見えるというから17くらいはいってるか。 それでも自分から見ればまだ子供だ。 こんな少年が怪盗キッド? この目で見たのでなければ到底信じられないことだった。 「代替わりしているという噂はあったけど、いったいいつ代わったんだ?君は三代目か?」 「いや二代目。初代はオレの親父でさ。やらなきゃいけない事情ってのがあったからなんだけど、オレの代でカタつけるから三代目は永遠にねえよ」 二代目〜〜! 「はあ?そりゃないだろ!二代目っていったらもう40を超えてる筈だ!」 少年はムッと眉を寄せ口を尖らせた。 「失礼な。オレはまだ36だぜ(つっても、もうすぐ37になるけどさ)」 「えっ?」 エ??? 男の目が点になる。 「見えない?」 「み・・見えるかあ!!誰が見たって十代だ!」 嘘をつくな、嘘を! いくら東洋人が若く見えるといっても限度があるだろう、限度が! 「オレをからかってるのか!」 「疑うなら皓に聞いてみろよ。あいつ知ってるからさ」 ジュースを飲み終えた少年は、ふぁ・・と小さく欠伸をもらした。 「オレ寝るな。ここんとこ移動が多くて疲れちまった」 少年はそう言って目を閉じると、シートにもたれあっさり眠ってしまった。 まさか寝入った少年を無理に起こして問い詰めるわけにもいかず、彼は固まったまま仕方なく口を閉じた。 彼の目に映るのは、あどけない寝顔をみせている一人の少年。 だが、彼は怪盗キッドという国際手配されている犯罪者であり・・・・ 36才?年上? (まさか・・・・) ハハ・・・と笑いとばしたいが、彼の父親も知っているという言葉がそれをできなくさせていた。
シドニーに着くとすぐに彼らはタクシーに乗った。 「ハイアットまで」 荷物も持たずに空港から出てきた二人を、見送りにでもきていたのだろうくらいに思ったのか運転手は別段不審に思わずタクシーを走らせた。 ホテルの前でタクシーを降りロビーに入ると、吹き抜け2階の喫茶にいた女性がここよ、と彼らに声をかけた。 「予想より早かったわね。婚約披露パーティには間に合わないと思ってたわ」 「招待状受け取ってから空港に直行したからさ。ギリギリ最終便に間に合った」 手に何も持ってない二人を見て彼女は、そのようねと苦笑を浮かべた。 「彼がそう?」 「うん。皓の息子らしいね。哀ちゃん、知ってた?」 ええ、と哀は頷いた。 「初めまして。わたしは灰原哀。あなたのお父さんとはちょっとした因縁があったわ」 因縁って・・・・ ジョルジュは目の前の美しい女性に目をしばたいた。 肩にすれる程度の赤っぽい髪。 少しきつめの整った顔立ちの中で、知的な瞳が光る。 スラリとした細身の体型をした東洋系の美女だ。 「日本の方ですか?」 「ええ。母親は英国人だけど、国籍は日本よ」 「父とはどのような・・・」 「一時は敵だったわね」 彼と一緒、と哀がチラリと視線を向けたのは、ジョルジュの隣に立っている少年であった。 確かにこの少年(?)が怪盗キッドであるなら、父の敵というのもわかるが。 しかし、この、まだ少女の面影を残す彼女も? 「ところで、その恰好じゃパーティに出られないわよ。お相手が上流階級だからみんな正装してるし」 哀に言われ彼らは自分たちの服装をかえりみる。 ジョルジュは一応スーツ姿だが、正装とは言いがたくパーティ向きではない。 快斗にいたってはジャケットにブラックジーンズだ。 「しょーがないわね。あなた達に合う服を調達してくるわ。控え室として借りてる部屋があるからそこで待ってて」 哀はそう言って快斗にカードキーを渡す。 「あの・・婚約っていったい誰の?何故オレが?」 「招待状を見なかった?婚約するのはライナス・クルーガー氏と李麗花嬢よ」 「クルーガーって、あのホテル王と呼ばれている?」 「ええ、そうよ。そのクルーガー。ライナスは彼の次男よ」 「李というのはもしかして香港の・・・・」 「あら、よく知ってるわね」 哀はニッコリ笑う。 「哀ちゃん・・・それってさ、冗談だよね?」 「自分の目で確かめたら、黒羽くん」 赤いルージュを塗った唇を意地悪そうに笑みに歪めると哀は背を向けて立ち去った。
哀が調達してきた服に着替えた二人は、控え室と同じ階にある会場へと向かった。 入り口で招待状を見せ中へ入る。 さすがに警備は厳しく、あちこちでSPが目を光らせていた。 ジョルジュは今だに何故自分がこの場にいるのかさっぱりわからなかった。 というか、怪盗キッドまでが何故? 会場内で一番注目されるのは当然パーティの主役だが、これほど著名人が集まれば関心度は分散されがちだ。 しかし、今回はどうやら違うらしい。 招待客の関心はすべて一点に集中していた。 やっぱり・・・と快斗は疲れたような声を出す。 会場の中心にいるのは、よく新聞やテレビで顔を見るのですぐにわかったホテル王のクルーガー氏。 だが視線はすぐに別の人物に釘づけとなる。 豪華な牡丹の刺繍がほどこされた青いチャイナドレスを着た長身の美しい美女。 男だけでなく、女でもその美しさには目を奪われるだろう。 ほっそりした体型にそったチャイナドレスは彼女にとてもよく似合っていて、まさに東洋の神秘ともいうべき美しさだった。 長く艶のある黒髪は腰まであり、髪飾りは白い蘭をかたどったものを右側にとめていた。 彼女だ・・とジョルジュは目を瞠る。 パリで出会い、キッドに会うよう彼に言った謎の美女。 (え?あれ?) 今やっと気づいたというように彼は、あの美女と隣にいるキッドを見比べた。 似ているのだ。 化粧をしているので少し感じは違っているが、顔立ちはそっくりと言ってよかった。 ジョルジュは何故ずっとキッドの顔が気になっていたのかようやくわかった。 小龍!と、彼らに気がついた青年が笑顔で声をかけてきた。 クルーガー氏の隣に立ち、しかもチャイナドレスの美女の傍らにいるということは、その青年がライナスなのだろう。 「よく来てくれたね!嬉しいよ!」 ダークブラウンの髪をした青年が嬉しそうにキッドの手を握った。 「久しぶり、ライナス。突然なんでびっくりしちゃったよ」 「うん、悪かった。父が急がせたもんだから。僕の仕事の都合もあったし」 父だ、と青年はキッドに紹介する。 「初めまして。李小龍です」 「ああ、では君が李家の次期後継者というわけですな。お会いできて光栄です」 李小龍と名乗ったキッドは、クルーガー氏と握手を交わした。 「いやあ、さすがご兄妹ですな。ミス麗花によく似ておられる」 「よく言われます」 「で、そちらの方は?」 「彼は友人のジョルジュ・ベルモンドです」 「ベルモンドって・・・もしかしてジョシュアの?」 「ジョシュアは叔父ですが」 ああ!とライナスは嬉しそうに笑った。 「そうなんですか!いやあ、彼とは以前一緒に仕事をしていたことがあってね」 「え?」 仕事って・・・ 「ライナスはカメラマンなんだ」 「以前は報道関係にいたんだけど、今はもっぱら動物ばかり撮ってる」 「全く・・・物好きもいいところでね。本当は私の事業を継いでもらいたいんだが」 「兄さんがいるからいいじゃないか。それに約束を守ったしね」 仕方ないな・・とクルーガー氏は諦めたように息を吐いた。 「おめでとう、麗花」 キッドがニッコリ笑顔でお祝いの言葉を口にすると、麗花はそれに答えるように笑顔を返した。 まさに大輪の花が咲き零れるような美しい笑顔であったため、彼女をみていた全員がポ〜と見とれてしまう。 「ありがとう、小龍」 その笑顔が出る前のほんの一瞬、いたずらっぽい笑みが浮かんだのをキッド・・黒羽快斗は見逃さなかった。 何がどうなって、何故婚約なんて真似をしてるのか快斗にはサッパリだが、このライナスが絡んでるとなればだいたい予想はできる。 誰が言い出したかは知らないが、まあ見る限り姫は不機嫌ではないのでいいか、と快斗は小さく首をすくめた。 そしてこれ幸いとばかりに、快斗は満足いくまでその美女振りを堪能することにした。
パーティは午後10時過ぎに終わった。 クルーガー氏は、仕事があるためホテルに泊まるというわけにはいかず、そのまま自家用機で飛ぶらしい。 婚約した若いカップルはホテルに泊まりしばらくシドニーに滞在することになっている。 うるさい父親とエレベーターの前で別れたライナスは、心底晴れ晴れとした顔になった。 15階でエレベーターを降りると、哀が彼らを待っていた。 「なんとかバレずに終わったようね」 「大成功だよ!」 ライナスはご機嫌な様子で彼女を腕に抱きしめた。 「荷物は部屋に運んでおいたわ。誰にも気づかれないで空港に行けるよう手配してあるから心配はいらないわよ」 「君たちがやることだから心配はしてないさ」 ライナスはそう笑って哀を離した。 男に抱きしめられても全く動じないところが氷の美女と呼ばれる所以である。 彼女が愛しているのはこの世にただ一人。 彼のためだけに彼女は生きているのだ。 だが、彼のまわりは常に賑やかで個性的な人間ばかり集まるので、それが結構楽しみになってきている。 ライナスは偽りだが婚約した美女の肩を抱くとその白い頬にキスをした。 「ありがとう、シン。本当に助かったよ」 「元気でな、ライナス」 続けて彼は快斗を抱いてやはり頬にキスした。 「悪かったなカイ。忙しいのに飛んでこさせて」 「いいさ。ついでもあったし。それに、オレに頼みたいのはこれからだろ?」 快斗が言うと、ライナスは苦笑した。 「さすがだなあ。しっかりバレてるか」 当然、と快斗はニヤリと笑う。 「? ?」 この場にいて何が何やらさっぱり理解できていないのは、殆ど強引にここまで連れてこられたジョルジュ・ベルモンド一人だった。 ライナスは最後にジョルジュの方を向いた。 「前にジョシュアから聞いたんだけど、君、カメラをやるんだって?学生の頃、何度か賞も取ってるんだってね」 「え・・まあ」 ジョルジュが頷くと、ライナスはポンと彼の肩に手を置いた。 「実は腕のいい助手を探してたんだ。一緒に来てくれると嬉しいんだけどなあ」 へ?と唐突にそんなことを言われた彼はキョトンと目を丸くした。 「オ・・オレは仕事が・・・」 「仕事って、まだ雑用だろ?向こうにはちゃんと話をつけるから頼むよ!」 これから朝までゆっくりそのことについて話そうじゃないかとライナスは言い、茫然としているジョルジュ・ベルモンドを部屋まで引っ張っていった。 「相変わらず強引ね、彼」 「パリにいたあいつをここまで連れてきたオレたちに、それは言えないんじゃない哀ちゃん?」 「無理やりじゃなかったわよ」 そうかなあ・・・と快斗は苦笑いをもらす。 「おい、話は中でしようぜ」 いつまでもlこんな恰好はしていたくない、とチャイナドレスの美女はさっさと持っていたカードキーで部屋の中へ入っていった。 部屋は超豪華なスィートルーム。 一泊数十万するという部屋だ。 リビングと応接室、寝室があり、小さいがカウンターバーまである。 快斗と哀が入った時にはもう美女は長い黒髪の鬘をソファの上に投げ出しバスルームに向かっていた。 「ええ〜〜もう女装解いちゃうの、新一!」 もったいない! 「こんなカッコいつまでもできるかよ」 新一ははき捨てるように言うとバスルームに消えた。 ちぇ〜〜 まあパーティの間、目の保養が出来たんだからいいか。 「だいたい想像はつくんだけどさ、哀ちゃん。今回の茶番、簡単に説明してくれる?」 豪華なソファにゆったりと腰を下ろした快斗が、やはりソファに座った哀に訊く。 「クルーガー氏がいつまでもフラフラしてる息子にしびれをきらして縁談をもってきたのよ。相手はアメリカの大富豪の娘。ハーバード大学出身の才女で、モデルもやっていたという美女。しかも金持ちなら文句なんかいえないわよね」 「うん・・そうだね」 「でも父親に言われるまま結婚しちゃったらカメラなんて続けられないでしょ?でも断るには父親を納得させられるだけの理由が必要ってわけ」 「で、李家の姫の登場ってわけね。確かに頭脳も美貌も後ろ盾も極上だけどさあ」 「喜んでたわよ。まさか、道楽息子が李家の姫君を捕まえてるなんて想像もしなかったでしょうからね」 「だからってすぐに婚約ってのもなあ。先月会った時、なんにも言ってなかったじゃん」 「ホントに急だったのよ」 「ミスター李は了解済み?」 「当たり前でしょ。でなければ、クルーガー氏が信じるわけないじゃない」 まあね。 「それにしても、よく新一が女装を引き受けたよな。昔は相当嫌がってさあ、大変だったんだぜ」 「彼も大人になったってことよ。貸しはね、作っておくと後々便利なのよ」 「・・・・・・なるほど」 頷いてから快斗は、うわっと声を上げた。 バスルームから新一が出てくるのを見た快斗が、慌ててソファから立ち上がり駆け寄っていった。 「ちょっと新ちゃん!髪、ちゃんと拭いて出てきてよ!」 ああ、滴ボタボタ・・! 快斗はバスルームの前で新一のぬれた髪をタオルで拭った。 タオルで水気を取ると、快斗はドライヤーで新一の髪をかわかし始めた。 甲斐甲斐しく世話をやく快斗と、文句を言いつつされるままになっている新一を哀は苦笑を浮かべながら眺めていた。 なんとなく幸せな気分が胸に湧き上がるのはこんな時だ。 今度いつまた3人が揃ってこんな時間を持つことができるのかわからないからこそ、一分でも大事にしたいと思う。 本当はどこか静かでのんびりとした場所でひっそり暮らしていけたら・・と思っている。 あの二人も同じ気持ちだろう。 だが、まだそれはできない。 彼らにはそれぞれどうしてもやらなければならないことがあるから。 ノックの音で今度は哀が立ち上がる。 ドアを開けると、ボーイがルームサービスを運んできた。 哀は彼にチップを渡すと、それをテーブルのところまで運んだ。 「あ、ケーキv」 「黒羽くんのバースディケーキよ。時間が時間だから、シャンパンと軽いスナックだけ頼んでおいたの」 「んじゃ、今度はオレが37本ろうそく立ててやるぜ」 言って新一はテーブルの上のデコレーションケーキにろうそくを立てていった。 快斗が新一の誕生日に用意したケーキとほぼ同じ大きさだ。 あの時のケーキはさすがに新一と哀はもてあましたが、快斗は嬉々として全部たいらげた。 今回も快斗が殆ど片付けてくれるだろう。 「オッケー、いいぜ」 ケーキの上で37本のろうそくが小さく炎を揺らす。 午前0時の時報と共に快斗は大きく息を吸い、一気にろうそくの火を吹き消した。 おめでとう、と新一と哀がお祝いの言葉を口にすると、快斗は嬉しそうに笑った。 「なんかプレゼント用意したかったんだけど、ずっと慌しかったもんでわりぃな」 「そんなのいいよ。だって、今日からしばらくデートしてくれるんだろ?」 快斗が楽しそうに言うと、新一は苦笑して肩をすくめた。 快斗と新一ではなく、ライナスと麗花という婚約したばかりの二人で、ということになるが。 つまりは、今回の茶番のアフターサービスだ。 それでも一緒に観光できるのだから、快斗に文句があろう筈はない。 快斗にとっては十分楽しい時間だ。 勿論ホテルの中では素顔でいられるし。 「哀ちゃんも一緒に行こうぜv」 「残念だけど、わたしはロンドンに戻るわ。博士と会う約束もあるし」 「阿笠博士?あの人元気?」 元気よ、と哀は微笑う。 彼は今も哀の保護者だ。 「じゃあ、一緒にいられる今夜はおおいに楽しもうぜv」 なんたって、オレの誕生日! 快斗は新一と哀の肩に手を回すと、チュッvチュッvと交互に二人の頬にキスを送った。 新一は慣れているから平気だが、哀はちょっとびっくりしたように瞳を瞬かし、でも嫌そうな顔はせず苦笑するにとどめた。 END |