「クラッシャージョウさんで?」 ふいに後ろから走ってきたエアタクシーから運転手が顔をだしてきた。 ジョウの凄まじい剣幕に恐れをなして数メートル後方を歩いていたタロスたちは、ジョウがタクシーの運転手と何か話しているのを見て、首を傾げながら駆け寄ってきた。 「どうしたんです、ジョウ?」 「みんな、後ろに乗れ。只で乗っけてくれるそうだ」 「はあ?」 三人は目を丸くしながら、ジョウを見る。 いったいどういうことなのかわからないが、とりあえず彼等はジョウに言われた通りタクシーの後部へ乗り込んだ。 エアタクシーは滑るように走り出す。 方向はポリスボックスとは反対だ。 助手席に座ったジョウは、腕を組んだまま無言で前を睨んでいる。 タクシーが止まったのは、130階建ての高層ビルの地下に造られた個人専用の映画館内だった。 普通、映画は大勢が同じものを見て楽しむものだが、ここでは車に乗ったまま個人の好みで映画が上映される。 勿論個室であるから他には誰もいないし、持ち込みのフィルムも映せるようになっている。 乗っていたタクシーの屋根が開き彼等の前にスクリーンが表れると、そこに一人の男の顔が映しだされた。 年は50才前後という所か。 短く刈り込んだ茶色の髪に、同色の口ひげを綺麗に整えた恰幅のよい紳士だった。 上体だけが映っている男の視線は、まっすぐジョウに向けられていた。 「君がクラッシャージョウかね?思っていたより若いな」 ジョウは、ジロリとスクリーンの男を睨みつける。 「俺の怒りが限界を超える前に、さっさと用件を言いな」 両腕をシートの後ろに回したジョウは、感情を押し殺した低い声で男に答える。 内容次第では、只ですますつもりはなかった。 二人のこのやりとりで、ようやくタロス達もスクリーンの男が今回の依頼主であることに気がついた。 まったく、こんなバカげた依頼の仕方はない。 約束をすっぽかした上に、依頼主はスクリーンの中ときてるのだから。 さすがにタロスも気分が悪いが、それ以上にジョウが怒りを爆発させはしないかという心配の方が先にたった。 なにしろ、ジョウは怒ると相手が誰であろうと容赦がないときているのだから。 「君が怒るのは当然だ。すまなかった。しかし・・・こちらにも訳があって、こんな形でなければ君と会うことができなかったのだ」 「前置きはいい!聞きたくもねえぜ!俺たちも暇じゃねえんだ。さっさと本題に入ってもらおうか」 怒りを抑えているジョウの迫力は、大男のタロスでさえ身がすくむ。 それをまともに向けられた男は冷や汗どころではないだろう。 だが、意外にもスクリーンの男の顔にはなんの動揺も表れていなかった。 肝が太いのか、それともニブイのか。 タロスは、まるでロボットのような男の顔に、何か嫌なものを感じた。 「わかった。では単刀直入に言おう。クラッシャージョウ、君に依頼したいのは、ある女性の捜索だ」 「え?」 ジョウの顔が、瞬間キョトンとしたものに変わる。 こんな手間のかかる方法をとるくらいだ。いったい、どんなやっかいな依頼かと思っていた所が、人捜し? 気が抜けてもう怒る気もしなかった。 「そいつあクラッシャーの仕事じゃねえぜ。人捜しなら、なにも俺たちに頼まなくとも、ポリスか興信所があるだろうが」 「それができないから君たちに頼むのだ。探してもらいたい女性の名前はアンヌ。残念ながらフルネームはわかっていない。年は17か18になっているはずだ。詳しいことは、ステーションで“ヒュウ”という男から聞いてもらいたい」 「おい、帰るぜ」 「ま!待てっ、クラシャージョウ!」 ジョウはジロリとスクリーンの男を睨む。 「あんた、クラッシャーの規定を知らねえのか?俺たちは依頼されればどんな仕事もひきうけるが、訳のわかんねえ、仕事はやらねえんだよ!互いに信頼の持てねえ仕事なんざ、ゴメンだぜ!」 「わかった・・私が悪かった。全て君に話そう」 よし、とうなずくと、ジョウはシートに座り直した。 クラッシャーを、単に金を出せばどんなことでもやるゴロツキのように考えていたろう男には、ジョウの強気と潔癖さは意外だったに違いない。 しかし、その慌てた口調のわりに、男の表情に変化は見られない。 それが、タロスの目には奇妙に映った。 (な〜んか、嫌な感じだぜ・・) 3に続く