守護霊達の事情(4)
音楽室に近づくに連れてピアノの音がした。
少し流れては止まり、暫くしてまた鳴り始める、同じフレーズだったり新しく進んだり、
そう思えばまた戻る。聴いたことのない曲だが、悪くはない。
どこか硬質てきで、時々柔らかくなる、そんな感じだ。
「ん〜、邪魔しちゃ悪い気がするなあ。」
「こうやって、このままでいるのもどうかと思うが。」
「ふむ、なかなかいい音だ。」
晴明が音を聞きながら感想を述べる、今現在の音楽にあまり興味を示さない晴明にしては珍しい感想だ。
そんなことをやっていると、今度は完全に止まることなくピアノが流れ出した。
やっぱり良い、俺は直感的にそう思う。
誰も何も言わずにその音を聞いていた、そしてピアノの音が終わると同時に俺は拍手した。
「誰かいるのか?」
少しうわずった声がドアの向こうから聞こえた。いきなりの拍手に驚いたらしい。
「あ〜、わりい、無断で聞かせてもらってた。」
ドアを開け、顔を覗かせて俺は苦笑したような笑みを浮かべて謝った。
中にはピアノの前で、立とうと中腰になったままの男子生徒が一人いるだけ・・・いや、奇妙な気配を感じる。
男子生徒はそれには気付いていないのか、すぐに椅子にかけ直し、どこか困ったような笑みを浮かべた。
「いや、聞いてもらうほどのものじゃなかったけど・・・。」
「何という曲だ?」
芦山の問いに男子生徒は気まずそうな顔をあらか様に見せた。感情をあらか様に表す奴だ。
「どうした?」
「あ、いや・・・怒られるかもしれないんだけど・・・芦山さんだよね。」
「ああ。」
覚え切れていない名前を確認するように男子生徒は確認すると、暫く黙っていたが、
やがてあきらめたように口を開いた。
「これ、芦山さんがイメージなんだ。」
「は?」
男子生徒の言葉に芦山が奇妙な声を出した、こいつには珍しいリアクションだが分からなくもない。
「私、が?」
「ああ、勝手なことしちゃってごめんなさい、何となく芦山さん見てたらイメージが湧いちゃって。変な誤解しないでね。」
「いや、別に良いが・・・。」
自分をイメージされて作られた曲、て・・・なんかクサい台詞だよなあ。
こいつじゃかったら、俺速攻関わらなかったぞ。
「あ〜、ところでさ、俺、亜矢部 晴夜つーんだけど。」
「伊月 博人です、よろしく。」
初対面の警戒心なしに伊月はそう名乗った。
「あのさあ、突然でなんだけど、バンドに興味ない?」
「バンド?俺にですか??」
「そ、何か直感的で何だけど、さっきの曲で決めた、もし良かったら組まねえ?」
かなり強引だが、本気でもある。
「う〜ん・・・・・・・。」
「あ、もしかして何かもうクラブとか決めてるとか?」
学校には正式なうブラスバンドもある。ふつうにバンドを組むよりは良いだろう。
「いや、そうじゃないんだ・・・ただ、俺でつとまるのかな、て。俺、変わり者て、よく言われるから。」
「いや、俺らもよく言われる・・・霊感コンビて・・・。」
全く持って嬉しくもない真実の言葉である、まあ、呼んでいる連中は殆ど本気じゃないだろうけど・・・。
「霊感ねえ・・・何か見える?」
「まあ、な・・・現にいるし。」
「へえ。」
「驚かないのか?」
「うん、何となくは俺も感じるから。見えないけど、金縛りとかトラップ音とかなら・・・。」
なら、まだ平和だ。この現状が見えたら嫌だろうよ。
「だから、芦山さんに強烈なイメージを持ったんだけど。」
つまり、道満の気を何となく感じてた、てわけか・・・。
「・・・成る程な。」
不意に晴明が何かを納得した。
「博人やらの守護霊よ、先程の笛の音がおぬしの者なら、姿を見せてはくれまいか。
それとも、もはや俺の事など忘れたか・・・・博雅。」
急に空中に言った晴明の言葉に従うように博人の後ろに一人の半分透けた男が現れた。
平安時代の武官の正装に身を包み、弓を携えた、どこかまじめそうな男だ。
「俺がお前を忘れるわけがないだろ、安倍晴明。」
「久しぶりだな、源博雅殿。」
博雅と呼ばれた男と晴明は互いにそう言うと笑った。
「何?何かあった??」
空気の変化を読みとったのか伊月が俺に尋ねる。
「・・・信じるかどうかはともかくとして、お前の守護霊と俺の守護霊が知り合いで、今、話している。」
うっわ〜、俺が聞く身ならまず信じねえ説明だな。
「ううん。」
伊月もどう反応して良いのか困っている様子だ。
だが、守護霊共はお構いなしに話を進めていく。
「まさかこの姿でお主に会えるとは思わなかったな。」
「俺もだ、しかも道満殿までおるし、二人して俺をからかいに来たのかと思ったぞ。」
「ああ、それも悪くないな。」
博雅の台詞に意地悪く笑みを浮かべ道満が言う。
「ところで、博雅、何故すぐに姿を見せてくれなかった。よもや、誰かに心変わりしたか?」
・・・なあ、最後の台詞、俺の聞き間違いか?
「そ、その様なことはない、ただ、俺は守護霊として守護主を護る使命がある、お前もそうだろ。
・・・それに、そのようなことをすれば、俺だけが騒いでいるようではないか。
この建物の中なら、いずれ会えるであろうとは思っておった。」
そうだよな、普通はそれが本来の守護霊の考えだろうよ・・・・。
この男と晴明との関係が非常に気になる、どう考えてもこの人と晴明が知り合うというの
が結びつかない、晴明と違い、まじめそうでいい人っぽいんだけど。
「お前は、本当に変わっていないのだな。」
「お前も、な。」
あ〜、平和な雰囲気?友情・・・だよな。
「それで、俺への思い、変わっていないと考えて良いのだな?」
「せ、晴明。」
おい、こらちょっと待て、何にじり寄ってるんだよ。
そして何故、博雅さんは顔を赤くしているのかなあ・・・。
「この安倍晴明、一時たりともお前を忘れたことはないぞ。」
紛らわしい台詞をはくな、顔を寄せるな、普段見せない真剣な顔をするな〜!!
「俺も、お前のことを忘れたことなど無い、こうして会えたことすら今だ信じられん。」
あんたもそれを受け入れるな、博雅〜!!
俺は思わず、芦山・道満を見るが、二人とも関わり合いたくないと言った雰囲気をにじみ出し我関せずをしている。
当然、伊月は何が起こっているのか分かっておらず?マークをとばしている。
由利に至っては唖然として現状況を受け入れられずにいた。
完全に二人の世界・・・・・・て、逃避している場合じゃねえだろ、俺!?
「おい、こら、何二人で世界つくってんだ!!」
俺が介入してきたことで心底不本意と言うほど、ありありと不機嫌な顔を浮かべる晴明と、
顔を赤くしたままあわてて晴明から離れる博雅。
「久しく思い人に会ったのだ、少しは気を遣ったらどうだ。」
「せ、晴明、守護主にそのような態度をとるな。晴明の守護主よ申し訳ないな。」
あ〜、やっぱいい人だ、だけどあんたも友達選ぼうよ。
「俺は源博雅、この伊月博人の守護をしている、以後よろしく頼む。」
今更ながらに礼儀正しく挨拶をする姿に、どう対応して良いのか困る。
「ちょっと良いか・・・・・思い人、つーのは。」
「今で言うところのこ「わー!わー!!」という存在だ。」
“こ”何だー!?予想付けて良いのか!?つーか誰か否定しろ〜!!
「晴明!そのようなことをあらか様に言うものではない!!」
そうだ、言ってやれ博雅。
「何故だ?やはり思いは変わったか?」
「そうではないが、もう少し、その・・・何というか・・・。」
でもはっきりとは否定してくれないんだな、あんたも。
「仕方ない、ここではゆっくりと話すことも出来んな。」
そう言うと晴明はおもむろに博雅を肩に担ぎ上げた。
どこにそんな力が・・・て、幽霊には重さは無かったな・・・。
「晴明!?」
「暫し話してくる、先に帰っていて良いぞ。」
「こ、こら、何を勝手なことを言っている、俺もお前も守護霊としての仕事があるだろ!!」
「今はこっちのほうが大事だ。」
お前だけならともかく、勝手に人様の守護霊を連れ去るなー!おい、こら!!
俺の考えなど無視し、二人は消えていった。
「あの、何がどうなっているんでしょうか?」
伊月が俺に尋ねてきたが、俺は正直に真実を話すことは出来ない。
見えなくて幸せなこともある、現に、見える由利は完全に思考を停止している。
芦山も我関せずを早々に決め込み、あさっての方角を見ていた。
「道満、あいつらは何なんだ。」
知らなくて言い真実はある、だが、うやむやなままでいるのは気持ち悪い。
「野暮なことを聞くな、儂はあいつらに関わる気はないぞ。」
・・・決定。
「博雅、苦労するな。」
「何、昔からだ。」
俺は余計かわいそうに感じるぞ。
しかし、だからといって俺がどうにか出来るわけがない。
俺はポンと力なく伊月の肩に手を置いた。
「お前、自分の守護霊に感謝しろよ。」
せめて、普段の仕事だけは幸せであるように。
「う、うん。」
こうして有耶無耶な出会いを俺たちはした。
「いやー!!私の晴明様が〜!!!!!!」
妹よ、あきらめろ。もとよりあいつはお前のものでもないし、あの様子じゃ、
他の連中がどうなろうが知った事ちゃない振る舞いになるだろう。
俺の頭の中では「明日があるさ」がかかっていた。