伝わった・・・?





 

第一話








もうすぐ・・・もうすぐ会えるんだ・・・・・・







車窓に映っているのは大都会の高層ビル。
まもなく到着のアナウンスに心躍るのを止めることができず、流れる都会の風景に重なり映るどうにも惚けた締まりのない自分の顔に、大志は全く気付いていない。
隣りのサラリーマンが気味悪がって早々に座席を立ったことにも。
ただ、数ヶ月ぶりに会う、大好きなあの人のことばかりが、大志の頭の中を占領していた。







****     *****     *****







大志の想い人は、岬賢悟という、ひとつ年上の先輩だ。
コイビトだと堂々と言い張れないことが、大志の悩みのひとつである。
大志の方はありとあらゆる方法で気持ちを伝えてはいるし、おそらく賢悟のほうも大志に人並以上の感情を抱いてくれているとは思っている。
キスだって許してくれたし・・・
でもそれ以上の進展はなく、それどころか今日の逢瀬が数ヶ月ぶりだったりするのだ。
年上の賢悟は、この春、見事志望大学に合格した。
合格確実と言われていたから当たり前のことだけれど、少しも手を抜くことなく受験勉強に励んでいた賢悟を見ていたから、大志は嬉しかったしそんな賢悟が誇らしくもあった。
ただ問題なのは・・・その大学がふたりの住む街から新幹線で数時間の距離にあるということだ。
さらに問題なのは、それを問題だと思っているのが大志だけだということだ。
ややこしいが・・・つまり、賢悟は大志と離れ離れになることをなんとも思っていないらしいと言うことなのだ。
新幹線で数時間の距離を通学するわけもなく、合格と同時に賢悟が親元を離れひとり暮らしをすることが決定した。
地元の大学も受験していたから、もしかして・・・・・・なんて甘い期待が無きにしも非ずだったけれど、それも万が一の滑り止めのようだった。
賢悟の頑張りが結実したことは嬉しかったが、離れ離れになるのは辛い。
大志は複雑な心境で合格の知らせを聞いた。








大志がその知らせを聞いたのは職員室でのことだ。
すぐに、おめでとうとメールを打ったけれど、返事がきたのは翌日だった。
受験が終わり、やっとゆっくりできると期待していたけれど、賢悟のほうは、やれ引越しの準備だ、入学の準備だと忙しいようで、なかなか時間を作ってくれなかった。
メールでのやりとりでは心もとなくって家におしかけてみれば、4月からの住まいを探しに出かけているという。
どうやら向こうに親戚がいるらしく、数日泊りがけでいろいろと奔走しているようだった。
賢悟のほうはすでに卒業式も済ませているけれども、大志のほうはまだまだ学校がある。
何とか期末試験を乗り越えて、やっとのことで賢悟をつかまえたのは、翌日に旅立ちを控えた夜のことだった。
やっと会えた喜びと、迫りくる別れへの悲しみとで困惑した大志を前に、賢悟はいたって冷静だった。
たいして寂しそうでもないその態度に、キモチの温度差を感じずにはいられなかったけれど、抱きしめれば抵抗することもなく大志の腕の中に納まっていたし、背中に回された腕は優しかった。
見送りに行きたいと言えば断られ、それなら朝から駅で待っていようと考えた瞬間見透かされ、見つけたら絶交だとまで言われた。
今生の別れとは思わないけれど、あまりにもあっけない賢悟の態度に、大志は淋しさと戸惑いを隠せない。
畏まった別れの言葉もなければ、これからの約束の言葉もなかった。
大志に残されたのはたったひとつ。
新居の住所が書かれたメモだけだった。







****     *****     *****







4月から3年になった大志に待っていたのは、想像もしていなかった多忙な毎日だった。
もとより頼られキャラの大志だったが、大志自身も頼られることが嫌いではなく、むしろ頼まれれば断ることができず何でも引き受けてしまう傾向にあった。
すぐにクラス委員に選ばれ、5月に開催される学園祭の準備に追われることとなった。開校以来の歴史を重ねた、地域を巻き込んだかなり大規模なイベントとなるため、土日を問わず忙殺された。もちろんゴールデンウィークなんて関係ない。
3学年は入学してきたばかりの1学年の面倒を見なければならず、忙しさに拍車をかけた。
疲れて帰宅して、ベッドに寝転がって思うのは賢悟のこと。
メールを送ってみても、やっぱり返事が返ってくるのは数日後で。
声が聞きたくてコールしてみても、いっつも味気ない留守電サービスの無機質な応答で。
この間までは、メールの返事が来なくても、ケータイが繋がらなくても、学校に行けば顔を見れたし、強引に家を訪ねることもできたのに、それすら叶わない今の状況をどうすることもできない自分の無力さに落ち込むばかりだった。
それでも明日はやってきて、大志はやるべきことをこなしてゆくしかなかった。本当に損な性格である。
学園祭が終わったら、絶対に絶対に会いに行ってやるんだ・・・
強い思いだけが、大志を動かしていた。









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