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<最終話>






はあはあと荒い息が部屋にこだましている。
余韻を味わうかのようなキスを交わすと、崎山はおれの中から出ていき、つけていたゴムを処分していた。
おれは身体を動かすのも億劫で、それを視線だけで追っていた。
思ったよりも、セックスという行為は疲れるらしい。
こんなの、何回も連続なんて無理だ・・・
小説に出てくる、抜かずの6発なんて言葉は、絶対ウソだと思った。
ひとつだけ小説どおりだったのは・・・受ける側のほうが負担が大きいということ。意識を失くしたり、動けなくて風呂に抱かれて運ばれたりしているけれど、あれは大袈裟ではないようだ。
身体はだるいけど、満足感いっぱいで、このままゆっくり眠りたいと思っていると、崎山が濡れたタオルで身体を拭いてくれた。
自分のもので汚した腹まではよかったが、さすがに股間に手が伸びたときは黙ってられなかった。
「いいよ。そんなとこ、自分でする・・・っつう・・・」
起き上がりタオルを奪おうとしたけれど、下半身に痛みがはしり、そのまま布団に倒れこんだ。
「いいからいいから。おれにやらして?」
そりゃいまさら恥ずかしがることもないけれど、それでもやはり・・・素に戻ると恥ずかしいのだ。
なんて思いながらも、甘やかされるのはキライじゃないと自覚しているから、いい気分でもあったりするところが、おれの素直じゃないところなのだろう。
「シャワーする?」
「うん・・・でもこのまま眠りたいかも・・・家には泊まるって行ってきたから」
崎山が隅から隅まで懇切丁寧に身体を拭いてくれたから、気持ち悪さはなかった。
「じゃあ、シーツとりかえよな」
重い身体を引きずって布団からでると、新之助は押入れから客用らしい布団を取り出して隣りに敷いた。
「友樹はこっちで寝て?」
「あんたは・・・?」
「おれは、こっちに新しいシーツかけるから」
当然のように乱れた布団を指し示し、シーツを変えると、その上に寝転んだ。
仕方なく、おれも新しく延べられた布団に横たわると、明かりが消された。
どうしてそんなことを言うのかと考え、ふと思い出す。
以前に、寝るときは広い場所でゆっくり寝るのが好きだと言ったことがあったのだ。
まさか・・・それを覚えてる・・・?
もちろんそれはウソではない。
だから、家の自室のベッドのシングルでなくセミダブルを使っているし、大の字になって寝るのはたまらなく気持ちよく、いつまでだって眠れたりする。
でも・・・今日はそうじゃないだろ?
「なあ・・・」
「なに?」
名前を呼ぶと、即座に返事が帰ってくる。
「そっち・・・行ってもいい?」
勇気を出して聞いてみた。
「でも、そっちのほうがふかふかのええ布団やし・・・」
そういえば、客用らしいこの布団は、敷布団が厚くて気持ちがよかった。きちんと干しておいてくれたらしい。
「なら新之助がこっちに来てよ・・・」
うわっと思いながらも誘いをかけた。
一瞬息を飲むような静けさに包まれたけれど、崎山は隣りからゴロゴロと転がってこちらにやってきて、掛け布団のかわりのタオルケットの中に入ってきた。
そして当然のように抱き寄せられ、抱き枕のように抱きしめられた。
終わった後、身体が火照っていたから、少し強められたエアコンのおかげで空気が冷えていて、崎山の身体がほどよく温かくてとても心地よい。
「新之助は・・・満足した?」
気になっていたことを口にする。
結局1回しか射精していないのだ。
果たしてよかったのか?
「友樹は満足してへんの?」
いつもの調子で意地悪な質問をしてくる。
やっぱ聞かない方がよかったと、落胆した。恥を忍んでの言葉を冗談でかわされるなんて悲しすぎる。
「もういい・・・」
言い合う気力もなかったから、おれは反対をむこうと身体を捩ったけれど、さらにきつく抱き返された。
「友樹、やっぱかわいい〜」
「かわいい言うなって!」
話をはぐらかされた感が拭えず、身を捩って突き放した。
「ごめん。意地悪やったなおれ。今日は初めてやし、ええねんこれで。負担大きいのわかってるし。徐々に楽しんでいこう・・・な?」
あやすように髪を優しく撫でられた。
今日はそれだけのことで許してしまえる・・・そんな気分。
楽しむ・・・か・・・・・・
頭が固いと言われるかもしれないが、セックスという行為は、やはり愛し合うものどうしが行ってこそ、最高の快感を得られるものだと思う。まだ一回しか経験してないんだけど、その一回で、おれはそう思った。
身体だけでなく、心もひとつにならないと、キモチよくないはずだ。
愛しているという、形にみえないものを表現するのには、きっといい手段なのだろうと思う。
だから、それを楽しむなんて、ちょっと軽い感じがして違和感があったのだ。
でも・・・
もっと崎山が感じてくれたら・・・もっとキモチよくなってくれたら・・・おれはうれしい。
きっとおれも感じるし、おれもキモチいいはずだ。
それを考えると、心がウキウキしてきた。
これが楽しむってことなのかな・・・?
それなら、もっともっと勉強して、いろいろ試してみたい。
相手が崎山だから、こんな気持ちになれるのだ。
やっぱおれって・・・かなりえっちかもしれない・・・
そんなことを考えながら、おれは初めての夜を、崎山の腕の中で過ごした。






おわり




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