mean










<第一話>






あ〜何やってんだか・・・
受験生たるおれの悩みは、もちろん受験・・・てなことはあるはずもなく、恥ずかしながら恋の悩みなのだ。しかもオトコ相手の。
記念すべき18歳の誕生日に、おれは密かに想っていた相手から告白された。
崎山新之助。
親友麻野優のコイビトである三上先輩の親友。
すっきり坊ちゃん風のルックスとは対象的に、関西弁丸出しのコテコテ関西人である。
晴れて両思いになったおれたちは、先日初デートと初キッスを済ませた、順風満帆なカップル・・・なんだろう。
なのに、重いため息が自然と漏れる。
ほんとおれってヤツは・・・・・・
話は数日前に遡る。










***   ***   ***










夏祭りの夜の出来事は、おれたちの距離をグンと縮めるのには十分だった。
相変わらず、ほぼ毎日夏期講習はあったけれど、その後に崎山のマンションに寄るのがおれの日常となった。
通い始めて二日目、突然のバイトの延長に、おれが玄関前で待ちぼうけを食ったことがあり、その時にカギのありかを教えてくれた。ドアの隣りの小窓から手を突っ込んだところなんていうベタな隠し方には驚いたが、どうぜ泥棒に入られても取られるものは何もないからと本人はいたって暢気だ。どうやら三上先輩もこの隠し場所を知っているらしい。
訪ねたところでバイトを掛け持ちしている崎山がいるとは限らないけれど、それまで時給がいいからと夜遅くまで入れていたシフトを早め上がりのものに変更してくれたようで、毎日数時間は一緒に過ごすことができた。
おれの方も、リカが味方になってくれたおかげで、優の家で受験勉強をしていることになっていた。おれの両親の優への信頼はかなり大きいものだから、遅くなっても何も言われないのである。
毎日一緒に夕飯を摂ることになっていたが、おれが帰ってくる崎山のためにメシを作っておくことはまずない。
料理が嫌いなわけではない。
むしろ好きなほうで、だいたいのものは作る自信がある。
けれど、それをしてしまうと、帰りを待つ健気なオンナのようで抵抗があったのだ。一度だけ、それについて聞いてみたことがあるが、崎山にそんなヒマがあったら単語のひとつでも覚えておけと言われた。
だから、ほとんどの夕食はコンビニ弁当や、スーパーの惣菜、レトルト食品で済ませていた。ひとりで食べると味気ないそんなものでも、ふたりだとおいしく感じるのだから、人の味覚なんてあてにならない。
メシが終わると、崎山の家庭教師の時間だ。
考えれば崎山も先輩と同様この街の国立大学に通う大学生なのである。理路整然と解き方のコツを教えてくれるし、わかりやすかった。
しかし、やはりおれは崎山のことが好きだから。
目の前の参考書に集中しようとしても、隣りの崎山を意識してしまう。
問題集を指し示す、オトコにしては細くてしなやかな指や、参考書を覗き込んだ時に微かにふれる髪や、ほんのり漂う煙草とコロンの交じり合う香り。
おれの煙草嫌いを知っているから、絶対目の前では吸わない。
きっと外で吸っているんだろうな〜なんて考えると、愛されてるなぁなんて顔がにやけてしまう。部屋にも煙草のイヤなにおいは染み付いておらず、趣味だという上品なお香の匂いがしたりする。しかも本格的なお香セットまであるから驚きだ。
一生懸命説明してくれている最中に、おれの邪な視線を感じると、「集中しろ」と頭をはたくけれど、その時間が終われば必ず優しいキスをくれる。
だから、おれは飽きもせず崎山のマンションに通う。
もちろん・・・キス以上のことも期待したりもしている。
以前、おれが抱かれる側なんだろうなんて考えて悩んだこともあったけれど、今ではそれでもいいと思っている。
部屋で交わした数回のキスには、その前触れとも思われるような深いキスもあった。
何も考えられなくなって、身体が蕩けるようにふにゃふにゃになるような、熱いキス。
そのキスをされると、何もかもがもうどうでもいいような感覚に襲われた。
そして、数日前のある日。その日はやってきたのである。
いつものように崎山のプチ講義を受け、ふ〜っと一息ついたときだった。
「友樹・・・何かコロンみたいなのつけてる?」
突然問いかけられ視線をあげると、至近距離に熱い眼差しの崎山の顔。睫毛の長い、切れ長のきれいな目にドキドキして慌てて視線を逸らした。
「あ〜リカから誕生日プレゼントに貰ったんだ・・・変かな?」
コロンに興味がなくて貰いっぱなしだったんだけど、今日は一度家に帰ったときにシャワー浴びるヒマがなかったから、汗を消す代わりに少しばかりつけてみたのだ。
あまりつけたことがないから、量の加減がわからなくてつけすぎたのかと、腕をくんくん匂いでみた。
すると、顎に手をかけられ上をむかされた途端、くちづけられた。
いつもはじゃれあいのような小さなキスから始まる甘い時間が、今日は最初から濃密な時間に変わろうとしている。
あまりに突然の深いくちづけに、一瞬思考が飛びそうになったが、倒れそうな身体を支えるために畳についた手に重ねられた手は、いつもの崎山のぬくもりで、おれは心を開放し、そのくちづけに答えた。
しかし、その日はいつまで経ってもくちびるを解放してくれない。何度も何度も角度を変えられて、口腔をいいように崎山の舌が動き回り、おれの舌を追いかける。
もしこれが本当にディープキスと言うのなら、今までかわしていたキスは何だったのだろう。深いと思っていたキスは、ただの挨拶程度のものだったのだろうか。
さすがに苦しくなり顔をそむけようとすれば、後頭部を固定するように抱きしめられ、逃げることができない。
いつの間にか、小さなテーブルは端に追いやられ、そこには十分なほどのスペースができていた。
くちづけられたまま、体重をかけられ押し倒された。いささか乱暴であったが、畳に頭をぶつけないように、ご丁寧に座布団を敷いてくれたようだ。
「友樹・・・」
熱を帯びた声を耳元で囁かれて、身体がか〜っと熱くなった。







back next novels top top