大切なものは・・・



<7>




「おれこそ、ごめん・・・イヤなこと思い出させて・・・・・・」
「いや、いつかは話そうと思っていたから・・・おれのことも知ってほしいし・・・・・・」
さっきの双子のお兄さんのことを語った時の、片岡の悲しそうな顔が頭から離れなかった。
「なあ・・・あんたもたまにはおれのこと頼ってみてよね?」
「成瀬・・・」
「あんたにとっちゃ頼りないかも知れないけど、おれだって、好きな人の安らげる場所になりたい」
おれは、身体を離して、今度は、おれの胸に片岡を抱きしめた。
「ほら・・・安心しない?気持ちよくない?」
「そうだな・・・こういうのもいいかもな・・・・・・」
片岡の髪に指を埋め、優しく梳いてみた。
いつもしてくれるように・・・
優しい時間が流れていく。
あんなに離れていた心が、今はこんなに近くにある。
しばらくして片岡は身体を起こし、おれの頬をふわりと撫でた。
「痛かったか?」
「ううん、平気・・・」
見つめあい、どちらからともなくくちづけを交わす。
ふれていなかった二週間分を取り戻すかのように、何度も何度も。
どんどん深くなるくちづけに、濡れた音だけが車内に響く。
息が苦しくてたまらないのに、名残惜しくてくちびるを離せない。
貪りあうようなキスは、全てを忘れさせるくらいにおれを甘い世界へを誘う。
これ以上続けると、どうしようもなくなるというところで、おれは片岡から離れた。
帰りたくない・・・けれど、弟たちが待っている。
「悪い・・・時間が・・・・・・」
「そうだな」
片岡は静かに車を発車させた。
家に着くまで、おれはずっと考えていた。
言うべきか、どうしようか・・・
家のそばで片岡は車を停めた。
「じゃあ、早く帰ってやれよ・・・」
「なあ、おれ・・・」
「会う回数減らそうか」
おれが言う前に片岡が口を開いた。
「先生・・・」
「おれにもおまえが必要だけど、弟さんたちにも必要だろ?おればっかり独占するわけにはいかねえからな」
大きな掌がおれの髪をくしゃくしゃとなでる。
「おれも、気になってたんだ。そのかわり、会える時は思いっきりいちゃいちゃするぞ?」
恋人同士が会う回数を減らすなんて悲しい話題なのに、明るく話してくれる片岡に、おれもいつもの調子でお返しした。「このエロオヤジ!」
「次会うとき覚悟しとけ!たまってる分、払ってもらうからな!泊まりだ泊まり!」
「セクハラ教師!しまいにゃ捕まるぞ?」
「おまえとヤッてて捕まるなら本望だな!」
おれ・・・あんたを好きになってよかったよ!
心の中で囁いてから、最後にキスをしてやった。
「また明日な、担任!」
キリがないから、ドアをあけて車から降りた。
ドアを閉めるとき、まだ言えてなかった一言を、捨て台詞のように投げかけた。
「つまんないことで怒って・・・悪かった。ごめん」
片岡は笑顔で手を上げ、車を走らせた。
見えなくなるまで、おれは見送った。
明日早速・・・放課後に訪ねよう。
バイトもないから、たっぷり過ごせるな?
あれ?この時点でもう弟たちより片岡を選んでしまってるのかな?
そうじゃない、おれにとってはどっちも大切な宝物なんだ・・・・・・
どっちも失くしたくない、永遠の宝物なんだ・・・・・・


 

〜Fin〜

                                                                       





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