大切なものは・・・



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外はまだまだ暑い9月ではあるが、この明倫館は金持ちボンボンの通う高校だけあって、設備もととのっているため、教室の中は極楽状態だ。
おれにっとっては、家にいるより涼しさを満喫できる。
「なあ、どうよ峻と。相変わらずのラブラブか?」
おれの唯一の親友二ノ宮がおれを茶化す。
おれがうろたえるのを待っているんだと解っているから言ってやった。
「ああ。もう一時も離れたくないほどラブラブ全開だぜ?この暑さもおれたちのせいかもな!」
二ノ宮は唖然とおれを見た・・・
ん?視線がおれを通りこしてないか?
「な〜にがラブラブだって?」
聞き覚えのある声・・・振り返るまでもないが振り返ってみた。
今度はおれが唖然とする番だ。
「あんた・・・何やってんの?」
ここは3年の教室が並ぶ廊下。
始業式後の時間、担任を持たない片岡に用事はない場所のはずだ。
にやっと意味深な笑みを浮かべて持っていた出席簿でおれの頭をコツンと叩いた。
「さあ、席について。ほら、二ノ宮も!」
促されて後ろのドアから教室に入ると、片岡は前のドアから教室に入ってきた。
同時にガタガタと机や椅子が揺れ、みんなが席に着く。
「担任の山下先生が、夏休みに入院されました」
に、入院?
担任の山下は、図体もデカくて神経も図太くて、病気なんかと縁がないようなやつだ。
なんだ?
みんなそう思っているのだろう。教室がざわざわと落ち着きなく揺れる。
「で、退院されるまで、おれがE組の担任をすることになった」
な、なんだって〜〜〜?
後ろから二ノ宮が椅子を蹴る。
「成瀬、おまえ聞いてたのかよ?」
「し、知らねえよ。そんなこと一言も―――」
「ほらそこっ!ブツブツ言わないっ!」
注意されたおれはどきっとした。
げっ、ブツブツって・・・
「という訳だ。よろしく。それでは―――」
これは・・・うれしい展開なのか?
数学の授業時だけでなくて、HRも一緒だなんて・・・
山下の入院が長引けば長引くほど、片岡といる時間が増える。
もちろん、プライベートでは出きるだけ共有する時間を作るつもりだけれど、それと学校生活とはまた違う。
たいして好きでもない学校だけれど、この卒業の年、学校生活もなんだか大事に思えてきた。
一生に一度っきりの高校生活だから。
二学期は行事も多いし、何か楽しみだな・・・・・・
連絡事項を伝える片岡の話なんて、全然耳に入っていなかった。

                                                                       





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