蒼い夜






<5>








「な、何・・・?」
「濡らさないとマズイだろ?」
「い、挿れるのかよ・・・?」
驚いて振り返る成瀬に、おれはニヤリと笑った。
「たまにはこんなシチュエーションもいいだろ?もうすぐ卒業だし。思い出づくりってことで」
「こんな思い出なんていらねえって!」
「往生際の悪い。諦めろ」
なんだかんだいいつつ、おれも校内という場所に興奮していた。
おまけに成瀬は制服だ・・・半分おれの手で剥かれてしまっているが。
成瀬によって舐めしゃぶられた指で、後ろの入口を撫でてみるも、夜の空気ですでに乾いてしまっていた。
仕方ない・・・か・・・・・・
「な、何・・・?や、そんなとこ、や、アァッ・・・・・・」
入口に顔を近づける気配に気付いてうろたえる成瀬を無視して、指で広げると、窄まり舌を伸ばした。
「や、そん・・・やめ、・・・ぁ・・・アッ・・・・・・」
成瀬にとっても、おれにとっても、それは初めての行為だった。
排泄器官だとか、だから不潔な場所だとか、そんなことはまったく思い浮かばなかった。
フェラの延長・・・そんな感じだった。
襞を丹念に舌全体で舐め、唾液を乗せて窄まりの奥へと舌先を伸ばす。
「キモチ・・・イイか・・・?」
「わっ、わかんねぇよ!」
「そうか、じゃあわからせてやらないとな」
指先で広げ、届く限りの奥の方で上下左右に舌を蠢かすと、ピクピクと入口が震えた。
「やぁ・・・・だっ、も・・・は・・・ぁぅ・・・・・・」
さらに指を使って、舌じゃ届かない部分まで擦り上げれば、成瀬の腰が揺れ始めた。
くちゅくちゅと水音をたてて、そこはどんどん蕩けてゆく。
時折成瀬の好きな部分を指が掠めるのだろう、その度にため息のような甘い吐息がおれを煽り立てる。
成瀬の背中に圧し掛かると、片手を前に回して胸を撫で上げ、突起をつまんでクリクリと刺激してやった。
「や・・・ぁ・・・アッ、そ・・・んな・・・同時はダメだ――あっ、あぁ・・・」
「まだイクなよ・・・?ほら、自分で握ってろ」
「も・・・も、いいから・・・・・・」
そういうと、後ろに手を伸ばしておれの股間を探ろうとする。
「そんなの、どこで覚えてきたんだ・・・?」
「し、知らない、知らないけどっ・・・あんたのに、おれも触りたい」
「なら、手なんかじゃなくて別の場所で触れさせてやるよ」
指を引き抜くと、ベルトを外し、全く触れられていないのにすっかり臨戦態勢の整った雄を取り出した。
そこでやっとゴムがないことに気付いた。
机の引き出しにひとつでも忍ばせておけばよかったと後悔したが、今さら止めるわけにはいかない。
「悪い。ゴムがないからナマで挿れるぞ」
もちろん中で出すつもりはない。さすがのおれもそこまで考えなしではない。
返事も聞かないまま成瀬の後ろにいきり立った雄をあてがうと、一気に貫いた。








「いっ―――あっ、あぁ・・・・・・」
薄いゴム一枚ないだけでこんなに違うものなのか。纏わりつく粘膜は恐ろしく熱く、そして柔らかい。
その感触はいつもの比ではなかった。
「おまえん中・・・おれを待ってたんだな」
「う、うるさいっ―――恥ずかしいこと言うなっ!」
「ほんとのことだろ。おれを締め付けて離さな―――」
「いいからっ!とっとと動けよ!!!」
慣れるのを待っててやったというのに、この言われよう・・・でもこういう生意気なところも可愛いし、とにかく惚れているのだから仕方がない。
「あぁっ、あっ、あっ、ア―――ンっ・・・・」
ふたりとも立ったままの、加えて後ろからの体位は初めてで、当たる場所が違うのだろう、いつもとは違う成瀬の反応に、おれは気を良くして腰を動かした。
「ココは・・・?どう・・・感じる・・・?キモチイイ・・・?」
「ふぁ・・・アッ、イ――イイッ、な、んか、違っ」
「おまえん中にはまだまだ未知の部分があるんだ。いいから、感じとけ」
成瀬越しに見えるのは、常夜灯でぼんやりとしか認めることができないが、見慣れたグランド。
数日前に臨席の非常勤講師が買ってきた、ブルーのダストボックスが、視界を掠める。
目に見えるものすべてが日常を思い出させ、ここが一日で最も長い時間を過ごす学校であることを意識させる。
おれにとっては職場であり、成瀬にとっては学び舎となるこの場所で、獣じみた行動を行っているおれたち。
そのシチュエーションイ興奮しているおれは、頭のネジが緩んでいるのかもしれない。
緩んでいるどころか、すっかり外れているのかもしれないが。
この場所から見つめ続けること2年。
手のひらに感じるぬくもりを、耳にこだまする吐息まじりの嬌声を、まさか手に入れることができるとは。
「亮・・・好きだ・・・・・・」
耳元で囁けば、それに応えるかのようにおれを包み込んでいる熱い内壁が絡みつき、おれを高みへと連れていこうとする。
「ンッ・・・・・・おれ、もっ・・・・・・」
『好きだ』とはっきり言わないまでも、成瀬の返事に満足したおれは、そろそろラストスパートをかけることにした。
「亮・・・イクぞ」
「え?あっ、あ・・・っ、なっ・・・いっ―――」
容赦なく抜き差しを開始すれば、成瀬もそれに合わせて腰を前後に動かし始めた。
「ふ――ぁ、あぁ・・・イ、イイ――もっと、強、く・・・・・・」
快楽を追及することに素直な成瀬の身体は、おれに要求をつきつける。
後ろで快感を追う素質もあるが、やはり物足りないのか、股間に手を伸ばそうとするその手をおれは払いのけた。
「え・・・やっ―――」
「おれが弄ってやるから。ちゃんとキモチよくイカしてやる」
後ろへの抽挿のリズムに合わせて扱いてやれば、すっかり濡れそぼった幹が、手のひらと擦れてヌチュヌチュと音をたてた。
張り出したエラに指を這わせてみれば、身体を震わし背中をしならせる。
「そろそろイクか・・・・・・?」
「う、ンッ・・・あ、あっ―――あ、はぁっ、あぁ・・・・・・」
ため息のような声と同時に手のひらの成瀬が震え、先端からビュッビュッと白い液体を拭き上げ、勢いよく壁にあたりピチャっと音をたてた。
「―――クゥっ・・・・・・」
射精の快感でギュッと締め付けられ、そのまま中出ししそうになったのを懸命にこらえ成瀬から引き抜いた瞬間、ビュクビュクと先端から放たれた白濁が、成瀬の双丘を汚した。
さすがにゴムなしでは中で出すのも躊躇われたし、何よりもこんな場所では後始末ができないのだから。
「アッ・・・・・・」
放埓の余韻に浸っていた成瀬が振り返った。
手すりにつかまり身体を折り曲げおれに尻を突き出したままの成瀬の腰を引き寄せると、整わない呼吸で薄く開いたままのくちびるに齧り付いた。
「尻・・・・・・」
「さすがに中で出すのはマズイだろ?床に出すつもりだったんだが・・・悪い、ちょっと間に合わなかった」
こういうのって『尻射』っていうのだろうか、そんなことが頭を過ぎったが、口に出すのはやめておいた。
「べ、べつによかったのに・・・・・・」





あんたになら何されてもかまわない・・・・・・





聞こえないくらに小さな声でそう囁いた成瀬は、視線を逸らすと窓の外を見下ろした。
「ここで過ごすのもあと少しなんだな・・・・・・」
その声音が一抹の寂寥感を含んでいるように聞こえて、おれはその身体を強く優しく抱き締めた。
「だけどおれと過ごす時間はこれからまだたっぷりとあるぞ?」
言葉に含まれた淋しさを振り払うように、弾んだ声で答えれば、成瀬がフッと笑ったような・・・気がした。
この薄暗がりでははっきりと見えなかったのだが。
「さ、帰ろうぜ」
気持ちを切り替えるようにおれから身体を離した成瀬の身体を、デスクにしまってあったタオルで拭き清めてやる。
「おまえ、身体大丈夫か・・・?」
「今さら何言ってんだよ。気遣うくらいならこんなとこでサカるな!」
「でも、おまえいつだってヤった後はぐったりだし」
「それはっ、あんたが何回も何回もしつこくねちっこくするからだろ?!」
「おまえだって最後はねだるくせ―――イテッ!」
おれの頭を拳固で小突き、さっさと身だしなみを整えると、成瀬は掃除用具庫の中から雑巾を取り出し、投げてよこした。
「あ、あんたみたいな恥ずかしいヤツ、もう知らねぇ!そこ、ちゃんと掃除して帰れよな!絶対の絶対に形跡を残しておくんじゃないぞ!」
そう言い捨てると、プンスカと頬を膨らませて、薄暗闇の廊下へと出て行ってしまった。
さっきまでの甘い雰囲気は何処へやら、濃密なセックスの余韻でいっぱいの部屋にひとり残されたおれは、しばらく呆然としてしまったが、クックッと込み上げてきた笑いを押し留めると、言われたとおりに後始末にとりかかった。
雑巾で、放たれた白濁を拭き取りながら思う。





きっと・・・きっと成瀬は・・・・・・





案の定、カタンと小さな音がして、引き返してきた成瀬の気配を背後に感じ、おれは言った。
「さ、一緒に帰ろう。雲隠れしていた月も顔を出したみたいだし」
バツの悪そうな表情をしている成瀬の手を強引に引くと、準備室を後にした。
心身ともに満足感でいっぱいにしながら。

おしまい





                                                                       





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