christmas serenade

甘い夜







第一話






ドアを開けると、暖房もつけっぱなしで飛び出した部屋からは、暖かな空気が流れてきた。
玄関で凛のコートを脱がせ、自分もコートを脱ぎ捨てると、隆弘は溜まらず凛を抱きしめた。
普段から少し体温の低い凛の身体は冷え切っていて、少しでも温まるようにと隆弘は背中を撫でさする。
特に冷たい空気に晒されていた頬は、紅潮しているのに反して氷のように冷たい。
このまま寝室に傾れこみたい衝動をグッとおさえ、隆弘は凛から身体を離した。
「とりあえず温まろう。身体が冷え切っている」
凛の手を引きキッチンを抜け、リビングでも一番エアコンの効きが良い場所に凛を座らせると、何か暖かい飲み物でも淹れようと再びキッチンへと立った隆弘に、今度は凛が後ろから抱きついた。
「隆弘さんっ・・・」
腰に回された手に触れるとまだまだ冷たい。
こんなにそばにいるのに一体何が不安なのか、切羽詰ったような声でギュッとしがみつく凛に愛しさが込み上げる。
「凛の好きなココア作ってやるから」
宥めるようにその手をさすり、そして離そうとすると、ますます腕に力が込められた。
「いらない・・・」
「凛・・・?」
「ココア、いらない」
らしくなく拒否する凛。
「でも身体温めないと。ほら、まだこんなに手も冷たいし、身体も冷え切ってる」
強引に身体を翻すと凛に向き直り、その顔を覗き込んだ。
目元を赤くしているのは寒さのせいだろうか、やけに艶を含んだ潤んだ瞳に、隆弘は息を飲んだ。
「ココアなんていらないから・・・・・・」
凛はギュッとくちびるを噛んで俯いた後、覚悟を決めたように顔を上げると隆弘を真っ直ぐに見つめた。
「隆弘さんが暖めてよ。ココアの温かさも、エアコンの温かさもいらないから、隆弘さんのぬくもりがほしい」
恥ずかしそうに、それでいてはっきりと凛は隆弘を求めた。
「凛・・・・・・」
腕を引き寄せ凛を抱き寄せた。
湧き上がる気持ちを力に変えて骨が軋むほど強く抱きしめる。
「凛・・・凛・・・・・・」
「隆弘さん・・・・・・」
どうして凛に言わせてしまったのだろう。
抱きたいのは、欲しいのは、隆弘のほうなのに。
下心ありありで今日という日を迎えながら、寸でのところでストップをかけているのは隆弘自身だ。
ドライヤーで髪を乾かしてやった時も、さっき玄関で抱き合ったときも。
思い返せばクリスマスの日も、凛は隆弘を求めていた。
凛は恋愛に慣れてはいない。だからこそ自分の気持ちに正直だ。
今までかけひきばかりの恋愛をしてきた隆弘にはない素直さを、そのままぶつけてくる。
一途な想いを向けられることは苦手だったのに、凛だけは特別だ。
凛の言葉には偽りがなく、ただ真実だけを含んでいるから。
凛の言葉にはなにひとつ嘘なんてないのだから。
凛のことが愛しくてたまならい。
隆弘は自分を抑えることをやめた。
愛しいいう気持ちを、凛にぶつけたい。伝えたい。
「いいよ、おれが暖めてやる。ドロドロに溶かしてやるよ」


















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