2周年&20万打記念
ふたり×2



        第六話









「でっかい出し巻き、うめぇ〜。な、優くんも早く食べてみな!」
「優、そいつの言うことなんて気にしないでいいから」
朝からハイテンションの成瀬に押され気味の優に助け舟を出しながら、三上は梅干をつまんだ。
昨日とはすっかり違う成瀬に心中では苦笑しつつも、ああいう単純なところが成瀬の良さだとわかっている。気を使わなくていい人間なんてそうそう巡りあえるとも思っていないから、三上は成瀬との付き合いを大事にしていきたいし、そう思うくらいには成瀬のことも気に入っているのだ。
優に対して過剰なスキンシップをとること以外は。
「優くん、フルーツ取りにいこっか。でっかいメロンあったから」
和洋折衷の朝食バイキング。成瀬と優が食後のデザートを物色しにいき、片岡とふたりテーブルに残された三上は、さきほど優が淹れてきてくれたコーヒーをすすった。
「楽しい夜になりましたか?」
「きみたちこそ」
「ひとつ聞きたいんですが」
「なに?」
「成瀬を酔わせたのは、あなたの策略ですか?」
「でないと、部屋割りがとんでもないことになってただろ?それともきみはおれと同じ部屋で寝たかったのか?」
「いや、それに関しては礼をいいます」
あの時『何とかするから』と片岡は言ったし、三上も片岡のその言葉に期待していたのは確かだ。だけどあんな上手くいくとは・・・・・・
おかげで三上も優と素敵な夜を過ごすことができたのだが。
(それにしても昨夜の優はかわいかったなぁ)
向こうの部屋のふたりを意識しまくって、声を我慢して身体を震わせる優に、三上はメロメロになった。メロメロになりすぎて押さえが効かなくなりそうでヤバかったのだ。
(いつもより感じまくってたし)
思い出してふにゃりと顔を緩ませた三上に片岡が呆れた様子で言った。
「成瀬がやっと気付いたようだぞ」
「へっ・・・?」
「きみと優くんの関係」
「へぇ〜あいつ遅いってんだよ・・・って、成瀬が・・・???急になんでまた・・・」気付かない方がおかしいのかもしれないが、三上たちだって極力そういう雰囲気をださないようにはしていたのに。
(成瀬になら別にバレたってかまわないけれど・・・おれたちそんなわかりやすかったっけ?)
「夜中に目覚めて露天に入ろうとして、カバンを取りに和室に行ったらしい」
淡々と語る片岡に、ふ〜んと軽く相槌を打った三上だったが、はたとその言葉の重大さに気付く。
「ってことは・・・・・・」
「きみたちの仲睦まじい声を聞いて、やっと気付いたみたいだ。かなり驚いていたがな」
バレるのはかまわない。かまわないけどアレを聞かれるのは・・・・・・
「なかなか色っぽかったな、優くん」
ボソリと呟かれた言葉に、三上は持っていたカップを落としそうになった。
「あ、あんた・・・・・・っ」
「あ、悪い。優くんだけじゃなく、きみの言葉責めもなかなか―――」
「わ〜〜〜〜〜っ!あ、あんた、バカじゃねえの???そ、そんなことを平気な顔して淡々と!」
「別におかしなことをしていたわけじゃない。恋人同士なんだから当たり前のことだろ」
「そ、そりゃそうだけど」
「せんぱ〜い、メロン食べま・・・あれ?どうかしたんですか?」
「優くん優くん、こっちのお皿のグレープフルーツ・・・っておまえら、どうかしたのか?」
「な、なんでもない。優、悪いけど、コーヒーのお代わり、お願いしてもいいかな?おい、成瀬、片岡さんにもコーヒー」
「じゃあぼくがふたつ淹れてきます」
「いいよ、優。ふたつも持てないだろ?ほら、成瀬っ」
「わかったよ、優くん、もう一回行こうか」












***   ***   ***












(ええいっ!普通に普通に!)
優は自分に言い聞かせていた。
(ふ、普通にしてなきゃ、変に思われちゃう!)
三上はきっといつも通り平静を装っていられると思う。だけど優には自信がなかった。
思っていることが顔に出てるといつも三上に言われてしまう。もちろんそれは優の素直さゆえのことなのだが。
(だけど・・・・・・)
思い出すだけでドキドキして顔が火照ってしまいそうになる。
(まさかあんなことになるなんて・・・)
本当は成瀬と和室で布団に入るはずだったのに、どういうわけか成瀬が酔っ払ってしまって、片岡に引きずられてベッドルームへと引っ込んでしまったのだ。
思いがけず三上と同じ部屋で眠ることになって、ふたりっきりの旅行じゃないんだから、眠りにつくだけだと思っていたのに、はしたなくも抱き合ってしまったのだ。
いつもとは違うシチュエーションと、いつもと同じ三上の優しい愛撫に溺れて、気がつけばセックスに夢中になっていた。
ドロドロになってしまって、せっかく部屋に露天風呂があるのだから汚れを流そうと、三上に抱きかかえられ、微かな常夜灯を頼りにウッドデッキに出て、明かりをつけようとして、固まってしまった。
大きなガラスの向こうで絡み合うふたりの姿に・・・・・・
片岡と成瀬が恋人同士であることには気付いていたけれど、優にはあまり想像できなかったのだ。
男同士だからどちらかが抱かれる側になることになるのだが、ふたりとも背も高ければそれなりにしっかりした身体つきをしており、男性としてカッコイイと思うのだ。
(ぼくと先輩ならどっちが抱かれる側かなんて一目でわかるのに)
だからふたりが付き合っていて恋人同士だと知っても、そういうシーンを想像できなかったし、もしかするとセックス抜きの付き合いじゃないか、あるいは挿入なしのセックスをするんじゃないか、そんなことも思っていたのだ。
(下世話な想像なんだけど)
だけど、優が見たのは・・・片岡にしっかりと抱かれている成瀬の姿。
ガラスの向こうのふたりはこちらに気付く様子もなく、優たちはしばらくその光景から目が離せなかった。
優、と呼ばれて現実の世界に引き戻され、ふたりは静かにその場を後にした。
カーテンくらい閉めとけってんだよな、って苦笑する三上に、優は笑顔を返したけれど、本当は心臓が飛び出るくらいドキドキしていたのだ。
結局三上に濡れタオルで全身をぬぐってもらい、一緒に布団に入ったけれど、あまりにショッキングな出来事になかなか寝付けず、たわいもない会話をしばらく続けながら、眠りについたのは明け方近くになってからだった。
優が見たのは恋人たちの夜のワンシーンであり、優たちだってしていることだ。
だけどやっぱり恥ずかしい。
恥ずかしいけど、見てしまったことを片岡と成瀬に悟られたくない。
三上とも、あれは見なかったことにしようと約束したのだから。
「楽しかったね、優くん」
コポコポとコーヒーをカップに注ぎながら成瀬に問いかけられ、優は頑張って笑みを浮かべた。
「また来ようね、温泉」
鼻歌を歌いながら自分のためのオレンジジュースをグラスに注ぐ成瀬を横目で見ながら、もう4人で温泉にくるのは勘弁してほしいと、らしくないため息をつく優であった。







 





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