2周年&20万打記念
ふたり×2



        第五話









どんどん硬度を増す片岡の肉欲が嬉しくて、奉仕するのに夢中になっていた成瀬は、突然後孔に衝撃を感じた。
(な、なに・・・?)
それが片岡の指だということを理解するのに時間はかからなかった。
こういうシチュエーションで指を挿れられたのは初めてだ。
「ンッ・・・・・・」
思わず肉欲から口を離して、後ろを振り返って・・・・・・成瀬は絶句した。
本来なら露天風呂が見えるガラスに映っているのは、ベッドボードにもたれている片岡と、四つんばいでその片岡の膝に蹲り、その身体の奥に片岡の指を受け入れている無防備な自分の姿。
ランプシェードの明かりが、ガラスを大きな鏡に変え、ふたりを映していた。
(カ、カーテン・・・は?)
そう思ったのも一瞬で、意識はすぐ体内の指へと飛んだ。
「や、やめっ、あ、ぁ・・・・・・」
セックスは嫌いじゃない。
むしろ気持ちいいし、片岡と肌を触れ合わせる時間は濃密で大切な時間だ。

だけど、その行為をあからさまにして、成瀬は混乱した。
そして頭に浮かんできたのは、さっき聞いた三上と優の艶めいた声。
自分もあんな艶かしい声を漏らしているのかと思うと、羞恥心でいっぱいになり、口をふさぐかのように目の前にある欲を含もうとするけれど、後ろを探る指の動きに意識が飛んでしまいそうになる。
大胆に蠢く指は、成瀬の弱いポイントを熟知していて、変幻自在に動き回っては成瀬を悶えさせる。
(恥ずかしいけど・・・気持ちよすぎっ!)
「腰振って、おまえ、誘ってるのか?」
「誘ってねえよっ、あ、あんたがっ、うっ・・・ンンッ・・・・・・」
掠める指を捕らえるように腰を動かせば、時折一番のポイントに指が当たり、成瀬は透明の滴を脱ぎ置かれた浴衣の上に零した。
「そろそろ・・・いいかな」
「アッ・・・・・・」
いいように成瀬を翻弄していた指が引き抜かれ、成瀬はフーッと大きく息を吐いた。と同時にコロンと身体を返されたかと思うと腰を引かれ、四つんばいの態勢を取らされる。
「え、ちょ、な、何すんだよ」
すっかり腑抜けになった身体は片岡にいいように扱われて、抵抗しようとした時には、すでに成瀬の目の前には鏡と化したガラス。
そしてそこに映っているのは、尻を突き出した自分とその自分に後ろから覆いかぶさっている片岡の姿だった。

(う、わ、こ、こんなのっ)
見ていられなくて、成瀬はシーツに着いていた肘の間に顔を伏せた。
挿入の体勢を取らせたにもかかわらず、片岡は成瀬の背中に身体を重ねて、項から背中、腰へと舌を這わせながら、大きな手のひらで優しく胸や腹に触れてくる。
片岡に触られるのは気持ちがいい。
肌を撫でる指先は優しく、愛されていると実感することができる。

だけど、片岡を迎えるためにすっかり慣らされた身体の奥が、もうそれだけでは満足できないと訴えていた。
「な、なぁ」
「ん・・・?」
耳元で囁かれるだけで身体が震えた。
「も、もう―――」
「挿れて欲しい・・・・・・?」
成瀬が頷くと、やけにあっさり片岡はその望みを叶えてくれた。
「う、んんぅ・・・・・・」
片岡にすっかり解されていたソコは、さほど抵抗もなく片岡を迎え入れた。
「動いていいか?」
さんざんいいようにしていたくせに、この時だけはいつも成瀬の了解を取るのだ。
(イヤだっつったらどうするんだろう)
もちろんそんなこと言ったこともないし、言うつもりのないのだが。
そんなことを考えていられるのもその時までで、もう何も考えられなくなる。
揺さぶられる身体はベッドを軋ませ、うねる粘膜は片岡を包み込み、時に締め上げる。成瀬も無意識のうちに。
「・・・・・・クッ、あぁ・・・・・・あぁっ・・・」
頭のどこかに、ここは旅館で、向こうの部屋には三上や優がいて、だから声は我慢しなくてはいけないという意識が残っているのか、成瀬はシーツをグッと噛みしめた。
「どうした・・・?亮・・・良くないか・・・・・・?」
思いがけない問いかけに成瀬はブルブルと首を横に振る。
(良くないわけないじゃんか!)
好きな人と触れ合っていて、良くないわけがない。だけど気になるものは気になるのだ。
「隣り、気にしてるのか?」
片岡の問いに答えずにいると、後ろでクスリと小さな笑い声が聞こえた瞬間、ずっと顔を背けていたあのガラスが成瀬の視界全体を支配したのだ。
「えっ、なに・・・?イ、イヤだ、こ、こんなのっ!」
片岡の膝の上に抱きかかえられた自分。
「おまえが変なことに気を取られて集中できないみたいだからな。ほら、これで隣のことなんか考える余裕はないだろ」
顔を後ろに背ければ、片岡にくちびるを重ねられた。
「んぅ・・・んんっ・・・・・・・」
舌を絡めて唾液を交換しあう。キスしながら太腿を撫でられて、成瀬は背中を片岡の胸に預けた。
「見てみろよ、刺激的だろ?」
言われてゆっくり視線を向ければ、ガラス越しに片岡を視線がぶつかった。
後ろからすっぽり抱きかかえられた自分。普段はさほど体格の差を感じたことがないのに、ガラスに映った自分は片岡を胸の中にすっかり収まっていた。
(ウソ・・・おれってこんなのなんだ・・・・・・)
大きく開かれた足の間からはふたりの結合部分がはっきりと見え、成瀬は羞恥で顔を真っ赤に染めた。
成瀬の肩に顔を乗せて、片岡は視線を逸らさない。
「どういう顔で抱かれてるのか、どんな風にセックスしてるのか、自分の目で確かめてみるんだ」
「峻、で、でもっ」
「恐がるな、ここにはおれとおまえしかいないんだから。そうだろ?おまえを抱いているのはおれで、おれを抱いているのはおまえだ、亮」
再開される律動。揺れるふたりの身体。絡み合う手足。
「あっ、峻・・・いいっ・・・イイ・・・・・・」
「亮・・・おれもイイぞ。おまえの中は・・・・・・」
零れ落ちる甘い声。乱れる呼吸。上気する肌。
成瀬は見ていた。
解放される瞬間まで・・・ガラスに映る己の姿を。









 





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