紫陽花の咲く頃
      片岡&成瀬


        第九話




「どうする?」
そんな視線に気づかないふりをしてもう一度聞く。
「―――早く挿れろよ…」
「何?」
とぼけてみると、今度はやけっぱちの大きな返事がかえってきた。
「挿れろっつってんだ!一緒にキモチよくなるんだろうが!」
これ以上じらすとろくなことはない。
片岡は成瀬とともに起き上がり、自身を固定すると、その上に腰を下ろさせた。
向かい合って抱きあったまま、成瀬はゆっくり片岡を自身の中へと導いていく。
「んんんっ…」
ぎゅっと目を閉じ、片岡の膝の上に腰を落としていく成瀬はこれ以上になく色っぽかった。
「はぁぁ〜」
片岡自身を全部のみこむと、成瀬は大きく息を吐いた。
セックスのために、オンナの器官のように一筋縄ではいかない場所に、違和感や苦痛に耐えながら自分を受け入れてくれる成瀬が愛しくて、片岡は成瀬にキスをする。
「亮の中は、いっつも熱くて、こうしてるだけでもキモチいい」
セックスの相性もあうのだろうか、成瀬の中は締め付け度や擦れ度が最高によく、ずっと繋がっていたくなる。
成瀬は問いかけに答えず、無言で片岡にキスを返した。
繋がったまま、動きもせず、ただ抱き合っているだけでも、満たされるようだ。
だけど、人間たるもの、もっと先に快感があるのなら、それを求めずにはいられなくなる。
「―――そろそろ動けば?」
成瀬はそう言うと、片岡にギュッとしがみついた。
「おまえも動けよ?」
片岡は下から突き上げた。
「…っん…んあっ……」
突き上げるたびに、ぎゅっと結ばれた成瀬の口から快感の声が洩れる。
最初は、片岡の動きに任せていたのに、自分のイイ場所に片岡のモノが当たるように腰を揺らし始めた。
「…ふっ……んくっ…」
身体を揺すられ、中を擦られ、前を扱かれ、成瀬は髪を振り乱して片岡に応える。
「亮…愛してる……」
耳元で囁き耳朶を甘噛みする。
くちびるを重ね、舌を絡める。
時折、胸の尖りも愛撫する。
片岡は成瀬に最高の快感を与えたかった。
キモチよくなって欲しかった。
「亮、キモチいい…?」
突き上げ、揺さぶり、扱きながら、首筋に舌を這わして尋ねる。
「イ…イイ……峻哉っ」
いつもは頷くくらいしか示さない感情を声に出して伝えた成瀬に、どうしようもない愛おしい感情がわきあがる。
さらに激しさを増す突き上げが、成瀬のいちばんのポイントをイヤというほど擦り上げ、もう限界が見えてきた。
「峻…もう…ダメ……」
成瀬が感じるたびに、内部のモノをぎゅっと締めつけられ、堪えていた片岡にも限界が来ていた。
「おれも…」
快感を求めて、一段と激しくなった律動に、成瀬が精を吐き出すと、その瞬間に、ぎゅっと内壁が絞り込まれ、片岡も成瀬の中に精を吐き出した。<
荒い息が響く中を、汗と体液でべたつく身体もかまわずに、ふたりはしばらく抱き合っていた。
身も心も絶頂に達した、幸せの瞬間を共有したふたりは、視線が合うと、くちびるを重ねた。













馴れ合うことは、悪いことではない。無言でもわかりあえる関係は理想である。
でも、身体を重ねるだけでは通じ合わないこともある。
好きだとか、愛してるだとか、言葉だけでも満たされないだろう。
セックスは、大事だと思うし、いちばんの愛情表現だとも思う。
排泄器官にくちづけるなんて、愛していないとできない行為だと思うから。
「今日の成瀬は、素直でかわいかったぞ?」
内風呂に浸かりながら、片岡は成瀬に笑いかけた。
「おれも、今日のセックスはすげえ感じた。やっぱ素直になるって大事なんだよな」
湯をぱしゃぱしゃさせながら、自分に言い聞かせるように成瀬は口を開いた。
「な〜んか優くんに教えられちゃったよな。大事なことを。つうか、あいつら帰ってこなくて良かったよな」
ほっとしている成瀬に思わず目尻が下がる。
「なあ、あいつら、付き合ってんのかなぁ。でもおれらみたいな関係のヤツがそういるわけもないよな?共学出身だって言ってたしなぁ。お似合いなんだけどなぁ……」
そのとき、玄関の音がした。
「あっ、帰ってきた!風呂に誘おっと!」
立ち上がり、能天気に喜ぶ成瀬の背中に声をかけた。
「呼んできてもいいけれど、おまえのその身体の赤い斑点はどう説明するんだ?」
あいつらに成瀬のハダカを見せたくないなんていう、片岡のコドモっぽい独占欲の跡が、成瀬の身体中にちりばめられていた。




END

 





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