one summer day



<4>



帰りの車中でも、悶々とした心は晴れない。
せっかくのバーベキュー、おれは何しに行ったんだ?
「先輩、どうしたんすか〜元気ないっすね〜」
能天気に話しかける友樹を一瞥すると「お〜こわ〜」と肩を竦めやがった。
ふたりの姿が頭をぐるぐるとまわる。



もし、マジでふたりがつきあうなんてことになったら・・・・・・
まさかな・・・ふたりともオトコなんだから!
いや・・・でも麻野はオトコでもホレちまうくらいかわいいぞ?
おまけに崎山に好感持ってたよな?
そういえば、崎山って、ルックスもなかなかイケてるし、モテるのに、なんでオンナ作んないんだ?
まさか・・・・・・



「先輩っ、休憩っすよ!降りてくださいっ!」
友樹に、ぐいぐい押されて、おれは仕方なく車から降りた。
「優っ、ジュース買おうぜ!」
友樹が麻野を誘ってコンビニの店内に消えて行ったとき、崎山に声をかけられた。
「よお、なにしけたツラしてんねん?」
にこやかに声をかけてくる崎山から視線を外し、「べつに?」とさりげなく答える。
「おれが一日優くんを取ったから怒ってんの?」
「―――麻野が楽しかったならいいんじゃねえの?」
崎山に嫉妬してるなんて悟られたくないから、なるべく感情を抑えたつもりだった。
―――まさか・・・妬いてんの?」

ドカンと本心をぶち抜かれて、おれは焦った。
「な、なんでおれが妬くんだよ!」
「じゃあ、おれが優くんと付き合ったっていいんや」
「付き合うって、オトコ同士だぞ?おまえわかってるのか?あいつはかわいくたってオトコだぞ?」
おれは、目いっぱいオトコだってところを強調してやった。
「別にええやん。好きなんやったら同性でもかまへんやん。そんなんこだわるほうがおかしいねん」
おれにはズキリとくるセリフ。
おれがこだわっていることを、いともあっさり口に出す崎山に驚きの目を向けた。

「せやろ?好きなんやったら好きって言うたらええねん」
なんだ?こいつ・・・おれに言ってるのか・・・?
「―――崎山?」
「優くんには、好きなヤツがいるんやって!」
「麻野に・・・?」
「だから、おれはフラレ虫やねん。傷心ハートブレイクやねん。慰めの言葉もないんか?それとも安心した?」
「崎山・・・・・・」
「優くんがだれを思ってるのかしらんけど・・・変なことにこだわってたら後悔するで?」
やっぱこいつ、おれの気持ちに気づいてる!
「ひとつだけ、ええこと教えたるわ。優くんもどうも一筋縄ではいかん相手を思ってるらしいわ。おれが今あんたに言うたことと同じこと言うてやったら、心が晴れたって言うてたで」
「今の話・・・?」
「後は自分でよお考え!」
ちょうどみんながコンビニから出てきた。
「三上に優くん返したる!」
崎山はそういうと、「内田っ、送ってったるさかい、こっちの車乗れや。優くんは三上と一緒な!」と指示を出した。
友樹と麻野とおれは、同じ車の後部座席に乗り込んだ。
発車すると同時に、友樹は熟睡体制に入る。
麻野も眠そうな目をこすっている。
おそらく、ずっと助手席にすわっていたから、眠れなかったのだろう。

「麻野も寝ていいよ?」
おれは、小声で言った。
こういう時、同乗者に寝られていちばんつらいのは運転してるヤツだから、聞こえないように。

もたれかかりやすいように、肩を抱くと、こてんと頭をおれに寄せた。
閉じられた瞼を覆う長い睫毛が、夏なのに真っ白な頬が、ぽてんと肉感のあるくちびるが、全てがかわいい。



そういえば、好きなヤツがいるって、崎山言ってたよな・・・・・・



そいつは誰なんだろう?
同級生のオンナの子か?はたまたバイト先のオンナの子か?
麻野の行動範囲からはそれくらいしか思い浮かばない。
おれは、その恋を応援してやれるだろうか・・・?
けど、まてよ?何か崎山意味深なこと言ってたよな?
崎山がおれに話したことと同じことを麻野にも話したとか、それ聞いて麻野の心が晴れたとかどうとか・・・・・・
うんうん考えていると、麻野のくちびるが動いた。
「やっぱり、先輩のそばがいちばんいいな・・・・・・」
聞こえるか聞こえないかくらいの、小さな小さな呟き。
でも、そんな一言で、おれは幸せいっぱいになってしまう。
今日一日の、悶々とした気持ちなんて、吹っ飛んでしまう。
そして、やっぱりおれは麻野が好きでどうしようもなくて・・・・・・
いつかその日が来たら、想いを告げよう。
その前に、麻野に恋の話を聞かされたら・・・おれは協力を惜しまないだろう。
悲しみに襲われた自分の人生を、こんな小さな身体で背負って、一生懸命生きている・・・
麻野には、幸せになってほしいから・・・・・・
できることなら、おれが幸せにしてやりたい。
そんなことも願いながら、麻野の肩をギュッと抱き寄せた。







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