ふたつのこころ


<1>


夏休み、片岡と一泊旅行をし、おれは・・・バックバージンてやつを失ってしまった。
もちろん、そうなることはわかってて旅行したわけだし・・・嫌じゃなかった。
おまけに、おれはかなり感じてしまった・・・しかもケツで!
なかなか後ろではイケないと雑誌で読んだけれど、おれはすぐに慣れてしまった。
片岡がうまいのか、おれの身体が淫乱なのかはわからないけれど、とにかくキモチよくなってしまったのだ。

残りの夏休み、片岡は毎日でも部屋へ来いと言った。勉強を見てやるからと。
夏休み中のバイトは明るいうちに変更してもらっていたから、おれはバイトが終わると片岡のマンションへ直行という日々を送っている。
冷房の効いた部屋で、片岡は二学期の準備をし、おれは受験参考書を広げる。
最初の頃は、片岡の弾くパソコンのキーボードの音とおれの筆音が、やけに大きく聞こえてなかなか集中できなかったけれど、身体を重ねてから変な緊張がなくなり、室内がやわらかい空間と化していた。
たまに盗み見る片岡の真剣な眼差しと端正な横顔に、ドキドキすることはあるけれど・・・・・・
「―――休憩でもするか?」
気が付けば、ベランダから差し込む日差しがオレンジに染まっていた。
すくっと立ち上がり、キッチンに消えた片岡は、いつものようにおれのお気に入りの『夏みかんジュース100%』を氷いっぱいのグラスに注いで、おれの前に置いてくれた。
数週間前ネットで見つけ、試しに購入したものがかなりおいしかったので、片岡に正直に伝えたら、あれから定期的に購入しているらしく、冷蔵庫の隣りの棚にたくさんのビンを見つけた。
その他、リンゴ、もも、ブドウ、など数種類のジュースと一緒に。

「あんたは?」
「おれの一服はコレ」
マルボロに火をつけ、ふーっと息を吐く。
「おまえ、吸わねえの?」
生徒に喫煙を勧める教師・・・いいのか?
「うまくねえもん。そんなんただの煙りじゃん」
「―――おまえには似あわねえな」
カチンときた。何だよコドモ扱いかよって!
片岡の吸ってた煙草をさっと掠め取り、吸ってみたけれど、案の定、咳き込んでしまった。
「ほらほら」
おれの背中をさすってくれる。
おれ・・・情けねえよ〜煙草1本もフカせないなんて〜〜〜
「こんなの吸ったらヤニ臭くなるから吸わないほうがいい」
けど、おれ、こいつの身体にしみついた煙草のニオイ、結構好きなんだ。
片岡はおれの手から煙草を取り上げ、灰皿に押しつけた。
煙りを吸い込んだからか、のどがイガイガしたおれはジュースに手を伸ばした。
よく冷えたこの夏みかんジュースは、甘すぎず酸っぱすぎず、のど越しがさわやかで、口当たりも良い。

飲み干すと、氷を口に含む。
これはなぜか昔からの習慣でやめられない。
噛んだりせずに、口の中で溶かす。

すると、片岡がくちびるを寄せてきた。
「氷ちょうだい?」
返事するまでもなく、くちびるが重ねられ、おれは目を閉じる。
舌が侵入してきて倍になった熱が氷を溶かしていく。
いつもより大きく響く水音に耳から刺激され、身体が疼いてくる。
おれののどの奥から漏れる呻き声と、鼻から抜ける色を含んだ声にも動じることをなく、片岡は角度を変えてはおれの口腔を侵し続けた。

「なにすんだっ!エロジジイ!」
これはおれの口ぐせのようになってきた。
「刺激的でいいじゃん。それにイヤじゃないだろ?」
うっと顔が赤くなるのがわかった。そうなんだ、実はイヤじゃなくてキモチよかったりして・・・
でもおれには腑に落ちないことがあった。
あの旅行から一週間。
おれはほぼ毎日この部屋にやってきている。
そして、こんな風にちょっと濃厚なキスをかわすんだけど・・・いつもそこまで。
毎日でもやってやるなんていってたくせに、全然手を出してこない片岡。
そりゃ毎日ヤルのはどうかとは思うけれど、おれだって17歳の健康男子。
体力はありあまるほどに備わっている。

でも・・・ぜってーおれから抱いてくれなんていえね〜〜!死んでもいえね〜〜〜!
夜にひとり性欲処理をしたって、あの時のキモチよさを思い出すと、全然物足りない。
旅行の翌日、土産を渡しがてら久しぶりにあった二ノ宮に、あっという間にバレてしまい、昨日会った時だって、「ヤリまくって受験に失敗すんなよ」なんてからかい半分に釘を刺されたけれど、そんな心配なんてくそくらえた!
ヤリまくりもくそも・・・ヤってないっつうの!!!
「―――そろそろ送る」
立ち上がり、車のキーをジャリっと鳴らした片岡の背中に、淋しさを覚えた。
「おれっ」
立ち上がろうとしないおれを振り返った片岡に、ええいとぶちまけた。
「オフクロが休暇で帰ってきてるから・・・遅くなってもいいんだ」
これで、おれの心内をわかれよなっ!
「でっ?」
でっ?ってなんだよ!みなまで言わせる気かよ!
おれはすくっと立ち上がって、おれより若干上にある片岡の瞳を見た。
「あんた、カレー好き?」
突然、何を言うんだという表情の片岡がおかしかった。
「うまいカレー食わしてやる」





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