愛するキモチ



<10>



朝、目が覚めると、おれはきれいなほうの布団に寝かされていた。
片岡が・・・いない。

おまけに、寝巻き着せられてるし・・・
起き上がろうとして、下半身に痛みが走った。
「っつう・・・・」
そういや、昨日、ヤラれまくったんだっけ・・・
記憶が甦ってくると、恥ずかしさで顔から火がでそうだった。
おれ・・・片岡に抱かれちまった・・・突っ込まれちまった・・・しかも、すっげー感じた・・・ケツで感じた・・・・・・
ガタンとドアの開く音がして、おれは布団を頭までかぶった。
顔をあわせるのが恥ずかしい。

足元に立っている気配がする。
おれは起きているのを悟られないように息を殺した。

突然布団に片岡がもぐりこんできて、おれをぐっと抱き寄せる。
「なにすんだよ!」
「やっぱ起きてんじゃん。おまえ、狸寝入り下手な。布団がかすかに揺れてるっつうの」
からかう片岡のほうを向くと、おれの隣りに寝転がって、片肘をついておれを眺めてた。
「おはよう、成瀬」
風呂に入ってきたのだろう、髪が濡れていい感じになっていて、ふわりと石鹸のにおいがする。
「おはよう・・・」
いつも学校でかわす挨拶なんかとまるで違う。
朝いちばんの挨拶を、好きな人と交わす。しかも愛し合った後で・・・なんてくすぐったいんだ!
「おまえ、身体動かないだろ?」
「んなことね―――いっ・・・」
今回ばかりは強がりも無駄な努力だ。
「昨日、かなり無理させたからな。おまえ初めてなのにさ」
「そうだよ、あんたヤリすぎだっつうの。そんなにたまってたのか?」
「おまえがかわいすぎるからだろ?1回目はまだしも、2回目3回目なんて、もっととか何とか言ってたじゃんか!好きなやつにもっとなんて言われりゃ目一杯ヤラなきゃオトコじゃねえだろうが!」
「も、もっとって―――」
「言わなかったとは言わせないぞ?な?言ったよな?」
意地悪く瞳を覗き込まれ、おれはまたまた墓穴を掘ったことに気がついた。
いつか・・・いつかぜってー打ち負かしてやる!
「まあ、何も感じないヤツよりよっぽどいいよ。おれもオトコ初めてだったし。もっと頑張って研究するから、楽しみにしてろよな」
「エロオヤジ!」
「ああ、おれはエロいさ。何とでも言ってくれ」
「あっ、開き直りやがった!だいたい―――」
ふさがれた柔らかなくちびるに、おれは自分から舌を差し出した。

―――おれは、ほんとこいつのキスに弱いよな・・・・・・
「マジ、すっげーうれしかったから・・・」
おれを抱き寄せるこの腕も好きなんだよな・・・・・・
「まだ早いから・・・もう少し眠ろ・・・・・・?」
フローラルの石鹸のにおいに包まれて、おれはすぐに眠りにおちていった。





しばらく眠ると、今度は目の前に片岡の顔があって安心した。
おれは、起きた時に好きなヤツが隣りに眠っているのに憧れてたんだ。
そおっと髪にふれてみる。
「なあ、成瀬」
突然の声に、おれは手を引っ込めた。
「んだよ、起きてるなら目ぇ開けとけよな」
われながら、なんて減らず口なんだと思うけれど、口から出てしまう。
「どうして、おれの名前呼んでくれなかった・・・?」
ぐっ、そう来たか・・・・・・
「おれ、呼んでやったじゃん、亮って・・・」
呼ばれてドキリとした。
「―――なんて呼べってんだ?」
「峻でいいけど?」
それって二ノ宮と同じじゃんよ!
「いやなら峻哉でもいいぜ?」
峻哉・・・峻哉・・・む、無理だって!
「い、いつか呼んでやるよ!」
しばらく片岡は黙っていた。目を閉じたまま・・・
おれ・・・やっぱ酷いヤツなのかなぁ。恋人の名前も呼ばないなんてな・・・
けど、片岡は目を開くとおれをじっと見て言った。
「じゃ、楽しみにしてるわ、その日を」
おれ・・・こいつを好きになってよかった・・・・・・
普通なら、こんな偏屈、一日だって付き合うのイヤだと思う。
なのに、何も言わず、しかも、おれを理解してくれている。
おれというヤツを分かった上で、好きだ、愛してると言ってくれる。
いつだって甘えてこいと言ってくれる。

「成瀬、もし立てるようなら、風呂入ってこい」
おれは、ゆっくり立ち上がった。うん、大丈夫そうだ。
「部屋の風呂にしとけよ」
「なんで?せっかくの露天風呂なのに」
「おまえのハダカ、おれのキスマークだらけだからさ。その肌、人に見せられるなら行ってこいよ」
か〜っと顔が赤くなった。
「風呂、お湯張ってあるから。ゆっくり入ってこい」





風呂から出ると、布団は片付けられ、朝食が用意されていた。
これまた、朝っぱらから豪華な食事だ。
「なあ・・・」
おれは気になっていたことを聞いてみた。
「布団さ・・・汚れてなかった?」
「そんなこと、気にしてんの?」
くすりと片岡は笑った。
「だって、気になるじゃんか!オトコふたりで泊まって、布団カピカピにしてたらさ!」
「大丈夫だって。おれ、ゴムつけてたしな」
「それなら・・・えっ?じゃあ、おれのは?」
おれ・・・昨日かなりイカされたぞ?
「おれが始末したから大丈夫だって。おまえ、疲れてすぐ寝ちまうから。ちゃんと拭いてやったし、寝巻きも着せてやったろ?」
おれは言葉が出なかった・・・こいつにそんなことまでさせたのか・・・・・・
「・・・おれ・・・・・・」
「いいってば。おれ、キモチよくしてもらったんだし、当たり前だろ?気にすんなって」
「けど・・・」
おれ、今のでかなりヘコんだ・・・
「成瀬、もう言うな。おまえにそんな顔されたら、もうできなくなっちまうだろ?」
ほら、これも食えと、皿をおれに差し出す。
「―――成瀬、おれになんか気を使うな。おれの前ではわがままでいいから。言いたいこと言っていいから。おれに甘えてくれ。わかったか?」
テーブルの向こうから手が伸びてきて、おれの濡れた髪をくしゃくしゃとなでた。
「また来ような?」
「せんせ・・・」
「とりあえず帰ったら、受験勉強だな。バイト終わったらおれん家来いよ」
「んなこと言ったら毎日行くぜ?」
「いいぜ。そのかわり、夏休みは毎日抱かせろよ」
「んだよ!エロジジイがっ!今度はおれが突っ込んでやるよ!」
「無理無理。おまえは後ろでも感じるカラダなんだから!」
げっ!こっこいつは・・・・・・
やっぱこいつには勝てないかもしれない・・・・・・
おれを、元気づけるために、下ネタ連発するようなヤツだからな・・・・・・
けど・・・おれは、やっぱ抱かれるほうが好き・・・かな?
って、おれってやっぱ快楽至上主義・・・か?
いや、愛があるから抱かれるんだよな!


〜おしまい〜






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