第4回 社会問題シリーズB「年金と介護制度」
日時:2005年7月23日(土)15:00〜16:30
場所:兵庫学校厚生会館
講師:ドイツ・日本研究所 学術研究員 Dr.ハラルト・コンラット(Harald Conrad)
Dr.ハラルト・コンラット氏は、ケルン大学経済学部在学中から日本に留学された経験があり、ケルン大学で「日本の公的年金制度の改革と問題点」をテーマに博士号を取得。2000年から、ドイツ・日本研究所(東京)で学術研究員として、日本の年金制度をはじめとする社会保障制度について研究されている。そのため、日本語に堪能で、講演は通訳なしで日本語で行われた。以下は、その講演の要旨である
(1) ドイツの公的年金制度は、1889年、ビスマルク宰相によって導入された。ドイツでは、ほとんどの国民が年金制度に加入しており、保険料率は、19.5%(2004年)で、労使折半となっている。種類としては、老齢年金、遺族年金、障害年金で、財政方式は賦課方式を採用している。
(2) ドイツの総人口は約8000万人。労働者年金保険と職員年金保険の被保険者は約5100万人に対し、年金受給者は約1950万人。つまり、国民2.5人で1人の年金生活者を支えていることになる。
(3) ドイツにおける年金改革の方向は、保険料率を、2020年までは20%以下に、2030年までは22%以下に抑えることを目指している。そのためには、年金給付算定に持続可能性要素(Nachhaltigkaitsfaktor)を取り入れ、年金の代替率(手取り賃金に対する年金受給の率)を、現行の70%から2030年までに58.5%へと削減する計画である。ちなみに、日本の年金の代替率は62%である。
(4) ドイツ経済の低迷が続くと失業者が増え、保険料を払う人数がさらに少なくなるので、保険料率の目標達成は難しくなるだろう。そうなると、年金の代替率を下げる必要性が出てきて、年金額と生活保護費の格差がなくなるおそれがある。
(5) 公的年金削減の穴埋めをするため、2000年、リースター労相により新たに個人年金制度(Risterプラン)が導入されたが、あまり普及していない。
(6) ドイツの介護保険制度は、1994年に成立し、保険料率は1.7%(2004年)で、労使折半となっている。財政方式は賦課方式を採用している。
(7) ドイツでは、家族介護を維持するために現金給付の制度が導入されているが、日本では、家族の負担が軽減されないとして導入されなかった。また、介護保険給付が介護コストの約50%しかなく、自己負担も多い。この点、日本では介護コストの90%までカバーしている。
(8) 在宅介護と施設介護の割合をみると、ドイツでは、在宅介護72%、施設介護27%に対し、日本では、在宅介護74%、施設介護26%と、ほぼ同じ比率となっている。
認知症患者の介護では、ドイツでは在宅介護76%、施設介護28%であるのに対し、日本では在宅介護49%、施設介護51%となっており、介護施設における介護件数のうち、認知症患者の割合は、ドイツ50〜70%、日本81%と、日本の方が施設で介護する傾向にある。
※ 社会保険料率の比較 ( )は事業主負担割合
Japan | Deutschland | |
年金保険 | 13.85 (50%) | 19.1 (50%) |
医療保険 | 8.5 (50%) | 13.5 (50%) |
失業保険 | 1.4 (50%) und 0.35(100%) | 6.5 (50%) |
介護保険 | 1.07 (50%) | 1.7 (50%) |
<講演を聞いて>
(1) 昨年は、国民年金の未納問題で日本中が話題騒然となったが、日本でも、年金制度改革は大きな政治問題でもある。厚生年金と共済年金は、保険料が労使折半で、給与所得も捕捉されているのに対し、国民年金は、保険料は加入者負担で、所得捕捉も完全でなく、未加入者も多い。これらの要因が、年金制度一元化の大きな障害になっているが、そもそも異なる年金制度を一元化しようとするところに無理があるのではないかと思う。
(2) 日本の介護保険制度が2000年にスタートしてはや5年が経過したが、これからの高齢者社会の到来を考えると、現在の保険料支払年齢40歳以上が引き下げられる可能性が大きいのではないかと思う。