第3回 社会問題シリーズA「職業活動と失業問題」
日時:2005年6月25日(土)15:00〜16:30
場所:兵庫学校厚生会館
講師:駐日ドイツ大使館労働・社会課長 Dr.ヴェルナー・カンペーター(Werner Kamppeter)
通訳:柳原初樹(NPO法人神戸日独協会専務理事・甲南大学助教授)
Dr.ヴェルナー・カンペーター氏のプロフィールを拝見すると、ハイデルベルク大学及びロンドン経済大学で経済学・社会学を専攻され、メキシコに長く滞在された後、フリードリヒ・エーベルト財団学術研究員を経て、1990年に日本に来られた。日本では、青山学院大学で国際政治・経済学部客員教授を勤められたあと、2001年より、在日ドイツ大使館の労働・社会課長をされている。日常の日本語は支障なく話されるが、講演には専門用語が多いため、柳原先生が通訳をされた。以下は、その講演の要旨である
(1) ドイツの年間労働時間は1400時間(ちなみに、日本は1800時間)。時間当たりの生産性の高さは、ドイツ労働者の高収入と長期休暇(年30日の有給休暇)を生み出した。
しかし、ドイツには、黒い雲(die dunkle Wolke)が2つある。一つは、失業率の高さ、もう一つは、高齢化社会である。
(2) 失業率をみると、旧西ドイツ地区の失業率は10.4%であるのに対し、旧東ドイツ地区では20.7%。その最大の要因は、ドイツ経済の不景気にあり、その原因として、次の4点が挙げられる。
(3) 一点目は、若者の雇用を創出するため、早期退職が奨励されたこと。年金生活では購買力が低下し、需要が落ち込み、その結果、企業は投資ができず、雇用の創出もできないという悪循環に陥っている。高齢化社会では長期雇用が求められるのに、ドイツでは反対のことをしてきた。
(4) 二点目は、この悪循環に拍車をかけた企業の賃金カット。ワークシェアリングにより一人でも多くの雇用を創出しようとしたが、これがさらに需要を落ち込ませた。日本では労働分配率が増加しているのに、ドイツでは減少している。
(5) 三点目は、60年代70年代では、企業は収益の8割を設備投資にまわしたが、今は8割をマネーに投資し、残りの2割を設備投資に向けている。ドイツでは、隠れたバブルが進行している。
(6) 四点目は、国家の財政政策が、緊縮財政を取っていること。ヨーロッパ中央銀行は、通貨安定とインフレ回避にのみ関心があり、失業問題に関心がない。
(7) シュレーダー首相は、構造改革プラン「アジェンダ2010」を発表し、年金改革等の社会保障制度の見直しを掲げた。
(8) もう一方の高齢化の問題では、少子化と高齢者の就業率が課題である。
(9) 出生率は、日本が1.28、ドイツが1.29。原因として、女性の高学歴化、職場進出、晩婚化などが挙げられるが、若者の失業も原因の一つ。というのも、子供を生み、育てていくには安定した職業が必要であるが、特に若者の失業率が高い旧東ドイツ地区では、家庭を持つことを断念する風潮すら現れている。
(10) また、ドイツでは、55歳以上の失業率が突出している。彼らは就業していないから社会保険料等の経済負担をせず、年金を受給するだけなので、就業者の負担によって支えられている。
60〜64歳の就業者は、日本では62%あるのに対しドイツでは22%でしかない。これからは、高齢者の就業率を高める経済政策が必要といえる。
<講演を聞いて>
(1) 日本人がドイツの労働者と聞いて思い浮かべるのは、1か月の長期休暇ではないだろうか。隣国のイタリアなどでゆっくりと休暇を過ごす、そんなイメージである。事実、ドイツの自家用車の後部には、キャンピングカーを牽引するための装置(ヒッチメンバー)が付いているのをよく見かけた。
(2) ドイツ経済の落ち込みは、講演を聞いて、改めて認識し直した。景気後退の原因の一つは、ドイツ統合とユーロ導入にあると思う。このことは、日本銀行の海外レポート「ドイツにおける構造問題と構造改革に向けた動き」(2004年1月9日)で紹介されているが、ドイツ経済の回復には、旧東ドイツ地区の経済復興と失業率低下が大きな鍵だと言える。