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ライデン(LEIDEN)

2003年9月21日、オランダのライデン(LEIDEN)の街を訪れた。ライデンは、アムステルダム・スキポール(Schiphol)空港から電車で20分の距離で、人口12万人ほどの街である。この街の特色は、何と言っても、14〜15世紀の街並みが保存されている歴史と文化の街である。しかし、最近では、ヨーロッパにおけるバイオ産業の集積する街としても有名である。

ライデン駅から旧市街地に向かって歩くと、すぐ運河に出会う。市のホームページによれば、1960年代に多くの運河が埋められたが、その後、元通りに復元され、今では、跳ね橋をくぐり、観光ボートが運河を行き来している。
今日は日曜日の午前中とあって、人通りが少ない。飼い猫が街路樹で爪研ぎをし、走り去った。穏やかな日差しの中、ゆっくりと運河沿いの街並みを散策した。水の流れはほとんどなく、きれいとは言いがたいが、水面に映る白い跳ね橋やレンガ造りのファサード。オランダ一日目の印象としては美しかった。

運河沿いの散策で、オランダの空気を吸い、太陽を浴びて満足したので、まず、国立民族学博物館(Rijksmuseum voor Volkenkunde)を訪れた。
ここのJapan-Koreaのエリアには、あの長崎出島の商館医師シーボルトが、1820年代に日本から持ち帰った江戸時代の工芸品が展示されている。鎖国日本から、はるばる海を渡って行った品々だ。ライデンは、江戸時代から日本とつながりのある縁の深い街であることを知った。液晶パネルをタッチすると、英語で説明が聞ける。

博物館を出て、簡単な昼食をカフェテリアで取っていると、アイスクリームを買ってきた若い制服姿の女性警官2人が、パトカーの中で楽しそうに食べ始めた。日本では、すぐに「勤務中に飲食、不謹慎」と投書されかねない。しかし、ここオランダでは、そのような視線は感じない。日本人の杓子定規な考え方が、今の日本を窒息させているのかも知れない。そんなことを考えていると、2人の女性警官の乗った車は、どこかへ行ってしまった。

続いて、市立風車博物館(Molenmuseum De Valk)を訪れた。風車は思っていた以上に大きく、7階建てで、20世紀中頃まで実際に粉ひきに使われていたのを、市が買い取って博物館にしたそうだ。内部に入ると、当時の石臼や作業道具、製粉袋などが無造作に展示されていた。見学者用の細い木製階段を登って行くと、中段のテラスの出る。さほど高くはないが、もともと平地なので見晴らしがよい。それ以上に、吹き抜ける爽やかな風が心地よかった。

再び、市庁舎の前を通り、400年以上の歴史を持つライデン大学本部付近を散策していると、芭蕉「荒海や佐渡に横たふ天の河」の句が目に入った。建物の壁面に大きく描かれた日本文字の真意がわからない。
さらに進むと、古い建物のファサードを残しながら、内部改修をしている工事現場に出会った。歴史を大切に保存しようとする気持ちが伝わってきた。そう言えば、私が泊まった運河沿いのホテルも17世紀の建物だ。

翌22日は、ヨーロッパ一と言われるアールスメール生花市場(Bloemenveiling Aalsmeer、VBA)を見学した。
競り市は朝早いので、6時半にホテルを出て、列車でスキポール空港まで戻った。サマータイム中なので、7時を過ぎでもまだ薄暗い。空港前のバスターミナルから198番の路線バスに乗りこんだ。行き方は、前日、空港のインフォで聞いていたので迷うことはない。バスは、途中、団地の中を周りながら8時前に市場の正門前に着いた。まだ朝早いとあって、見学者は、私を入れて数名であった。

しかし、場内は、休日明けの月曜日とあって、活気に満ち溢れていた。次から次へと、台車に積まれた切花が運ばれ、競にかけられて行く。その量の多さに圧倒される。競の方法は、写真の電光時計盤で行われ、ランプが高い方から安い方へ周って行き、ボタンを押して時計盤のランプを止めたバイヤーが買い手となる。競り市は4箇所で行われており、何れの席もバイヤーで一杯だった。このほか、見学コースには入っていないが、鉢物の競り市の建物もある。
9時半頃になると、団体の見学者が入ってきた。その頃になると、従業員も休憩に入るのか、花を積んだ台車の動きが少なくなった。やはり早く行って正解だった。

空港からアールスメール生花市場までは、路線バスで35分かかったが、トラックだと20分くらいだろう。立地条件のよさもあるが、信号が変わる度に、大型トラックが次から次へと搬入し、搬出して行く。それもそのはず、ここで競り落とされた花は、その日の内に、トラックで、あるいは飛行機で、ヨーロッパ各地や世界に運ばれて行くそうだ。
受付でもらったリーフレットによると、ここで取り引される切り花の数は、一日1700万本、その80%以上が輸出される。また、ここで働く従業員は1,800人余り、バイヤー等を入れると12,000人が働き、毎日平均2,000台のトラックが出入りするという。アールスメール生花市場は、まさにヨーロッパ最大の花市場だ。

午後には、ライデンに戻り、バイオ・サイエンス・パーク(Bio Science Park)に向かって歩いた。ライデンは、オランダ最大のバイオテクノロジーの集積地として、生命科学の分野で先進的な活動をしていることで知られている。
ライデン駅を南側に出ると旧市街地だが、北側に出ると、ライデン大学メディカル・センター(Leids Universitair Medisch Centrum/LUMC)の巨大な建物が目に飛び込んできた。メディカルセンターの内部はまだ工事をしているようで、仮設の出入口から中に入った。エントランスは吹き抜けで、明るく、多くの市民が院内を行き来していた。

メディカルセンターの隣では、研究棟(Onderzoeksgebouw LUMC)を建設するための基礎工事も進んでいた。周辺にはまだ空き地が多いが、水路が流れ、牧草地も残っており、のどかな風景だ。多くの学生は、自転車で専用レーンを走って行くが、歩く学生は、メディカルセンターの敷地内を通るほうが近道なようで、後を付いて行くと、ライデン大学に行きついた。

ライデン大学は、ヨーロッパにおける生命科学分野のトップを占めるそうだ。キャンパスには、若い学生達のエネルギーが満ち溢れていた。また、大学の隣の敷地では、研究棟の建設工事も進んでおり、バイオ・サイエンス・パークの中にあって、研究環境の整備も着々と進んでいるようだ。

ここバイオ・サイエンス・パークは、16年ほど前に計画され、今ではオランダの最も成功したサイエンス・パークの一つと言われている。ライデン大学、ライデン大学メディカル・センターをはじめ、大学と企業を結びつけるアカデミック・ビジネスセンター(Academic Business Center)やインキュベーション施設としてのバイオパートナー・センター(BioPartner Center)などがあり、バイオテクノロジーやメディカルテクノロジーの企業も既に50社が進出しているそうだ。まさに、大学、病院、企業が一体となって、恵まれた自然環境の中で、新しい産業が育まれている。

ハッセルト(HASSELT)

9月23日、今日は、オランダからベルギーのハッセルト(Hasselt)へ行く。ライデンからローカル列車でデン・ハーグ(Den Haag)へ出て、そこからICに乗り、ロッテルダムを経由してベルギーのアントワープ(Antwerpen)へと向かった。そこからは、また、ローカル列車で、ベルギーの田舎の田園風景を車窓に見ながら、ハッセルトに到着した。途中、列車が遅れたため、乗り継ぎがうまく行かず、4時間ほど時間がかかってしまった。

ハッセルトは、人口7万人ほどの小さな街であるが、近年はファッションの街として有名になっている。
早速、早めにホテルのチェックインを済ませ、旧市街地に向かった。さほど大きな街ではなく、旧市街地を取り巻くように外周道路が走っている。市役所の隣がインフォで、シティマップをもらったが、幾つもの小道が不規則に通っており、路地を抜けると方向がわからなくなったこともしばしば。
街の中心は、聖クインティヌス聖堂(St. Quintinuskathedraal)横のグローテ・マルクト(Grote Markt)だ。この広場にはカフェが軒を連ね、多くの買い物客がひと時の憩いを楽しんでいた。

また、周辺には、有名ブティックや高級ブランド店が、緩やかな勾配の坂道に沿って建ち並んでいる。店舗の建物は古くなく、近年に建てられたもののようだ。
また、ショッピングストリートは、平日とはいえ、多くの買い物客で賑わっていた。団体の観光客が来るような街ではないので、人通りのほとんどがショッピング目当てだと思われる。

この小さなハッセルトの街が、ベルギーで4番目と言われるほど集客力を持つ元気な街になったのは、ファッション関係の産業振興を図っていることだろう。そのためには、市街地を周回するバスの料金を無料にして、市街地に流入する車を規制し、買い物客が安心してショッピングができるよう配慮している。また、日経の海外レポートでは、空き店舗の所有者に対して、条例で罰金制度を設け、街の活性化を図っているという。

ところで、旧市街地の一角に、不釣合いな工事中の高層ビルが2棟並んで建っている。このビルは、鉄骨が建ちあがった状態で工事が中断され、長年放置されていたTT-wilk(TT center)ビルである。最近、工事が再開されたと市のホームページには出ていたが、確かに、低層階では工事が真っ最中で、将来、ショッピング街やオフィス、そしてホテルに生まれ変わるという。

今日は、旅行の中盤とあって、やや疲れ気味。明日、ドイツに向かう国際列車タリス(THALYS)の切符を予約し、早めにホテルで休むことにした。
翌朝、朝食を済ませ、朝の散歩に出かけた。旧市街地は、昨日の様子とは異なり、通学する子供、お店に出勤する店員、商品を搬入するトラック、清掃車など、日中のにぎやかさとは違った生活感のある活気を、冷えた空気の中で感じた。

ミュンスター(MUENSTER)

9月24日、今日は、ドイツのミュンスター(Muenster)へ移動する。ハッセルト駅でリエージェ(Liege)行きの列車を時刻表で確認したが、表記がLuik(リュイク)となっている。どうやら、Liegeはフランス語で、Luikはオランダ語のようだ。そう言えば、昨日、検札に来た車掌は、オランダ語で「Dank u wel」(Thank you)と言っていたのを思い出した。ベルギーは、フランス語とオランダ語の両方が使われている国だが、旅する者にとっては一苦労。
リエージェの駅で国際列車タリスの時間待ちをした。ホームは改築中で、停車位置の案内表示もない。長いホームの何処で待てばよいのやら。 さほどスピードも速くないタリスでケルンに到着し、ケルンからはICでデュッセルドルフを経由して、昼頃にミュンスター(Muenster)に到着した。

ミュンスターの街は、人口28万人、ルール地方の北側に位置し、オランダにも近い。
駅を出ると、目の前には、最近完成したガラス張りの地下式自転車駐輪場(Radstation)が目に入る。 ミュンスターは、環境対策として、自転車重視の街づくりをしていることで知られており、1997年には、ドイツ環境首都にも選ばれている。

オランダでもそうであったが、自転車に乗っている人は、手信号で右折左折をしている。そういえば、昔、小学校で手信号の交通ルールを教わったことがある。今ではすっかり忘れ、日本ではお目にかかることはないが、自転車王国と言われるオランダやドイツでは励行されている。自転車の種類も豊富で、子供用の自転車を連結してこぐお父さん、子供用の幌つき車を連結してこぐお母さん。坂道のない街ならではの光景である。

さて、駅前から旧市街地に向かって歩くと、すぐに旧市街地を取り囲むように整備されている自転車専用道に出会う。両脇には菩提樹(リンデンバウム)がうっそうと茂り、木漏れ日の中、自転車が走り去って行く。それを横切ると、旧市街地である。

市庁舎(Rahthaus)横にあるインフォに立ち寄り、Stadtplan(市街地図)をもらった。ついでに、このミュンスターで生まれ育ったフランカ・ポテンテ(Franka Potente)が主演する映画「Blueprint」が、今年秋に封切りとの情報があったので聞いてみたが、インフォではわからなかった。しかし、地元とあって、彼女の名前は、ハリウッドで成功した女優としてよく知られていた。

市庁舎の斜め向かいでは、大規模な掘削工事が行われていた。工事囲いの一部がガラス張りになっており、工事風景を見ることができる。工事案内板をみると、DIE MUENSTER ARKADEN(ミュンスター・アーケード)の建設工事で、説明文では、「市庁舎が建つプリンツィパルマルクト(Prinzzipalmarkt)とモダン建築が調和した、今までにないショッピングと体験ができるゾーンが、もうすぐ街の中心部に出現する。」と書かれていた。
このあたりはショッピング街で、いつも買い物客と観光客で溢れている。 さらに進むと、13世紀に造られたゴシック建築の大聖堂(Dom)があり、内部では、天文時計を見ることができた。

翌25日は、終日、ミュンスターの街で休暇を過ごした。遅い朝食をとった後、旧市街地を抜け、まず、城館(Schloss)の方へ歩いて行った。その背後にある植物園(Botanischer Garten)を散策した後、アー湖(Aasee)へと向かった。
夏のシーズンも終わり、ヨットは出ていなかったが、天候もよく、湖畔を散歩するにはもってこいの気候であった。遊歩道では、犬を散歩させる人、ジョギングする人、子供を遊ばせる人、各人各様に楽しんでいるようだ。

午後からは、旧市街地に戻ってショッピングを楽しんだ。むしろ、悩んだというほうが正しい。昨日、街中を歩いているので、様子はわかっている。しかし、本やCDをはじめ、土産物を買うとなると、結構時間がかかり、疲れた。
ところで、泊まったホテルは、インターネットで予約したibis Muensterだが、新築でしかも駅から近く、リーズナブルな料金であった。17世紀の建物を使った小ホテルも良かったが、どちらかと言えば、シンプルで機能的な方が好みだ。

ケルン(KOELN)

9月26日は、日本に戻るため、フランクフルト空港まで行くが、夕方の飛行機なので半日時間が余る。旅のおまけに、ケルン(Koeln)で途中下車をした。
ケルンは、人口100万人の大都市だ。駅を出ると、目の前に大聖堂(Dom)がそびえ立っている。とてもカメラで収まる高さではない。ミラノのドウオモ(Doumo)を越す高さだ。
大聖堂の内に入り、南側の塔に登った。エレベータはなく、500段のラセン階段を上がるしかない。しかも上り下りが一緒の双方通行でかなり狭い。ようやく登り詰め、ケルンの街並みを見渡すことができたが、周囲は金網で囲われ、やや期待はずれの眺望であった。
大聖堂の塔を降りて、インフォでスポーツ用品店の場所を聞いた。大都市とあって、ショッピング街に4店舗あるという。地図にチェックを入れてもらい、さっそく買い物に出かけた。

ところで、ケルン駅のコインローッカーは最新式のオートマチックで、初めてお目にかかった。使い方がわからず、隣のドイツ人女性に尋ねると、私もわからないので係員に聞くという。一緒に教えてもらったのだが、要するに、投入口に入れた荷物はベルトコンベアで収納庫に運ばれ、出す時は、預け入れ時のカードを挿入すれば自分の荷物が投入口まで運ばれてくる。料金は、2ユーロだ。
スポーツ用品も買い、ケルンからICEで空港に向かった。やはりICEは満席状態で、予約をしておいて正解だった。

今回の旅行では、ライデン、ハッセルト、ミュンスターと、3都市を巡ったが、街の大小の違いはあれ、いずれの街も、それぞれ特色を持った街であった。ライデンはバイオ産業の街、ハッセルトはショッピングの街、ミュンスターは環境にやさしい自転車の街。付け加えれば、ヨーロッパ一の生花市場を持つアールスメール。サスティナブルな、持続可能な社会を目指すヨーロッパの中にあって、元気な街に出会えたことに感謝する。