霧の城
二人座れるソファに一人で座っていたイコは背もたれに背を預け、空を見る。空は一面青の世界に所々純白の雲が漂っていて、その雲の隙間から太陽が姿を現しイコに日光をこれでもかというくらい与えてくれた。辺りを見回せば地面は土が見えないほど緑で埋め尽くされており、八つのかがり火が火を灯す事なくただそこにあった。そんな自然が溢れるこの場所でそれでも違和感を覚えさしてくれるのは、その八つのかがり火の先にある城、イコが生贄として連れてこられた場所だ。
イコがここにくるまでは、もちろん自分の頭に何故角が生えているかなど隠さず教えてくれた人がいるので城の事も知っていた。その時から連れてこられるまでの道のりまで、どんな所なのだろうと考えを巡らせて予想していた城は薄暗く、日の光は届かずいつも闇に包まれて自然など縁のない城だと思っていた。しかし今もう一度城を見てみると全く予想に反し、自分が生贄としてここに来た事など忘れてしまうかの様な城である。しかしそれでも思い出してこの城に恐怖を感じるのは、こんなに大きな城なのにここには自分ともう一人――ヨルダ、そしてヨルダを闇に引き込もうとする影に黒い女性しかいないのだ。こんな広い城の中、二人でいるのは心強いがヨルダは何もせずただ後をついてくるだけ、そんな彼女を沢山の影から守りきらないといけないのである。
イコの目的はただ一つ、この城から脱出する事。しかし……。
城に向けていた視線を全く反対の方に向け、固く閉ざされた門を見詰める。先程まで開いていた門はこの通り閉まってしまい、城から今のところ唯一出られるところを失ってしまったのである。なのでイコは今こうやってソファに座り、何も考えずただ白い鳥を追いかけたりウロウロしたりしているヨルダを目で追っていた。いつでも影から助け出せる様に。しかしそれでも近くにずっといなくソファから見詰めているのは、何となくここには出てこない様な気がしていたからである。
ふう、と小さく溜息をつく。常にその部屋に影がいないかと慎重に行動しなければいけないので普段の倍は疲れてしまった。しかし、ずっとあの籠の中にいたのならヨルダの方が疲れているだろうし、それに手を繋いでいるとあちらこちらに連れまわされて自分の意思で進む方向を決められないのでイコよりももっと疲れるだろう。そんな理由もあって今こうやって二人はのんびりとしているのである。城の中では安心ができず、やはり城の外の方がいいだろうしもしかしたら新しい発見ができるかもしれない。そんな理由でここを選んだのであった。
まるで靴を履いているかの様に裸足でも普通に歩いていたヨルダは唐突に足を止めると、ソファの近くにある火が灯っていないかがり火を見詰め始めた。正面から横から後ろから、そして視線は地面へと移動している。イコもヨルダの見詰めている方を見てみると、そこにはかがり火の下にある柱が丁度はまりそうなくぼみがあった。ぶらぶらと宙で動かしていた足を地面につけ立ち上がり柱をくぼみの方へと動かしてみたら、案の定くぼみの中に柱は入ったのである。それならとイコはヨルダに教えてもらった事を他の七つにも試してみようとさっそく行動に移してみた。
最後の一つをくぼみの中に入れてみると同時に今まで火が灯っていなかったかがり火にいっせいに火が灯り、動かせない他のかがり火にも火はちゃんと灯ったのである。
もしかしてヨルダはこの城の仕組みを知っているのだろうか。肩越しに振り返り火が灯ったかがり火を見詰めているヨルダの横顔を見てみるがその表情は相変わらずで何も読み取れなかったが、
「……ヨルダ」
名を呼ぶとヨルダは弾ける様にイコの方を向き、急いでこちらにやってきた。手を差し出すとしっかり握り返してくれて、この白い手からでは想像できないほどの温もりが手から伝わってくる。
それでもヨルダを守ってこの城から脱出する目的は同じだ。ヨルダがそれを望んでいるのかそうでないのかは分からないが、それでも彼女を守らずにはいられなかった。影に引き込まれていったら取り返しのつかない事になってしまうような気がして。
『伝わる温もり』の続きのような…そうでないような…。続きとしてとらえてもいいですし、読まずにこちらだけ読んでも分かる内容ですので大丈夫です。
イコは書いていて楽しいです。会話文がないと言っていいほど少ないですが(ってか名前呼んだだけ;)文章だけで二人の気持ちをどれだけ表せる事ができるか。
うろ覚えで所々違う所あり;;全く、ちっとも、全然ダメだね。
04年11月13日