猪名川町を分布限界とする植物

牛島 清春・牛島 富子

 兵庫県を分布限界とする植物については、1960年代以降数々の報告がなされてきたが、近年更に自然への関心が高まり、分布の調査研究が進展して分布情報が蓄積されてきた。小林禧樹氏・黒崎史平氏は、これらの標本や文献を調査検討し、整理確認され、兵庫県を分布限界とする植物が現在68種であると発表されている。(小林・黒崎 2005 兵庫県を分布限界とする植物の標本と文献 兵庫の植物 (15) 338猪名川町には、東限の植物1種と南限の植物種が記録されている。ほかに分布限界に近い植物が3種生育していることをこの文献を基に確認した。これらの植物は何れも絶滅危惧種に指定されているもので大切に守り次世代に確実に引き継いでいかなければならない。下記に植物の概要を記す。

◎ 日本の東限の植物

 カンザシギボウシ(ユリ科)渓流沿いの崖に生える多年草。<分布域> 本州(兵庫県〜中国地方)・四国・九州・朝鮮。<証拠標本> 猪名川町 K&T.Ushijima 標本番号83882002.6.15 標本庫 頌栄短期大学)。1976年頃は、本州の中国地方以西に分布するとされていて、1950年に六甲山で採集されているがそれは逸出とされていた。その後、淡路島北部、西播磨(上郡町)、西宮市(武庫川)で採られ、比較的広い範囲から生育地が見つかり、自然分布であることが明らかとなり、西宮市が東限と考えられていたが、猪名川町の採集報告でここが東限と確認された。町内の渓流沿いの崖に見事な群落をつくっている。

◎ 日本の南限の植物

 ホソバカンスゲ(カヤツリグサ科)渓流の林縁に生える多年草。<分布域> 本州(兵庫県以北の日本海側)。日本固有。<証拠標本> 猪名川町 K&T.Ushijima 標本番号75782001.5.1 標本庫 頌栄短期大学)近畿北部に分布の中心がある典型的な日本海要素のスゲで、北は秋田県の鳥海山から新潟県弥彦山、佐渡島の金北山を経て福井県から急に多産し京都府に非常に多いが兵庫県に入ると急に少なくなり海岸から離れた内陸の中心部に分布する。この特異な分布が注目され研究されている。県内では姫路市雪彦山、多可町加美区、猪名川町で標本採集され雪彦山が西限で猪名川町が南限である。

◎ 日本の西限に近い植物

 アリマグミ(グミ科)落葉小低木。日本固有種。 淡路島が西限と南限とされる。キヨスミギボウシ(ユリ科)林縁に生える多年草。日本固有種。丹波市が西限とされる。ムロウマムシグサ
サトイモ科林床に生える多年草。日本固有種。神戸市北区帝釈山が西限とされる。


                
                Hosta capitata (Koidz.) Nakai
                カンザシギボウシ 猪名川町が日本の東限
                絶滅危惧種

               
               Carex morrowii Boott var.temnolepis (Franch.) Ohwi
               ホソバカンスゲ  猪名川町が日本の南限
               絶滅危惧種