は じ め に
1. 猪名川町の植物調査のきっかけ
私どもは子供の頃から自然が大好きで、山歩きや名所史跡を訪ねて楽しんでいました。住居も北摂奥、猪名川の里山に惹かれて移り住み、自然を満喫していましたが、いつの間にか猪名川町にどれだけの植物の種が生育しているだろうかと興味を持つようになり、植物の勉強がライフワ−クの一環となってしまいました。
植物の観察に歩いていると、過去に見たことのない珍しい草花や樹木との出会い、希少な植物の発見、名前の判らない植物の同定の苦労などが、その喜びや感動と充実感を与えてくれ、また、ハッチョウトンボ、ミヤマアカネ、ジャコウアゲハ、チョウトンボ、クワガタ、カブトムシ、タマムシなどの昆虫類、カワセミ、オオルリ、オシドリ、キジなどの野鳥類、サル、キツネ、タヌキ、シカ、イノシシ、リスなどの動物、その他多くの生物との出会いや、地域の人々、昆虫調査・野鳥観察・地質鉱物調査・きのこ観察の人達との出会いで色々な文化や専門的な話に接する機会もあり、豊かな気持ちでいっぱいになりました。
2. 植物誌のねらい
自然について考えると、生物は多様な自然環境の変化に、それぞれ適応して進化を遂げ、それは40億年近くにもなる長い歴史を秘めていると言われており、自然の一員である人間は、その多様な生物と共生し、また、活用し生活していますが、これら生物はみな連鎖しており、生態系が崩れることは種の滅亡に繋がると考えられています。そのため人と自然の調和のある共存が大切です。日本列島は南北に細長く、およそ三千qにおよび、島の数も多く、植物のうえでは、亜寒帯から温帯、暖帯、亜熱帯にわたり、豊かな植物相を有し、その数は、シダ植物と種子植物を合わせ六千種近くが生育し、その内、約千八百種が日本固有の植物と言われ、うち数十種が既に絶滅したと発表されています。
これらのことを考えながら、猪名川の豊かな自然に接することが、植物に親しみ、植物を知り、植物を愛し、植物を大切にする心が育まれ、健康で豊かな楽しい生活が生まれてくるものと思います。そこで私どもは、この猪名川の里山に生育している植物を調査し多くの方々に現状を知って頂き、次の世代に正確に伝えるため、および研究の資料になればと考え、その調査に1998年より本格的に取り組んできましたが、この度それをまとめて発表する運びとなりました。
この植物誌が、猪名川町始め都市近郊周辺地域の自然環境保全のための基礎資料となり、また、身近な植物に親しむための手引きとなって、豊かな自然が次世代に確実に引き継がれることを願っています。
3. 植物誌作成にご指導・ご協力戴いた方々
本植物誌の発表にあたり、頌栄短期大学の黒崎史平先生に、総ての面について長きにわたり懇切なご指導を戴き、更に、注目すべき植物および植物目録の監修を戴きました。兵庫県立人と自然の博物館の藤井俊夫先生、兵庫県生物学会会長の白岩卓巳先生、兵庫県植物誌研究会代表の小林禧樹先生にそれぞれご指導戴きました。
また、地元地域の多くの方々にもご協力を戴きました。
ここに記して深謝の気持ちを表します。
なお、植物の証拠標本は兵庫県立人と自然の博物館(HYO)および、頌栄短期大学(SHO)へ納めさせて戴きました。
牛島清春
牛島富子
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