堤未果さんの講演「貧困大国アメリカの未来~性別を越えて私たちは進む~」を聞いて


恥ずかしながら、この講演会に参加する直前まで堤未果さんを存じ上げませんでした。堤さんは『ルポ貧困大国アメリカ』(岩波新書)がベストセラーとなり、昨年末には続編の『ルポ貧困大国アメリカII』を出版されています。昨日は、高槻市で講演会があったので参加してきました。

堤さんの講演は、単に反米思想で固まった偏向的な情報発信ではなく、事実の積み上げとして、それがどういう意味をもっているのかを分かりやすく説明してくれるところに好感が持てました。

講演では、昨年12月に発売されたばかりの『ルポ貧困大国アメリカII』の内容を中心にお話いただきました。キーワードは、テロとの闘い、愛国者法、学資ローン地獄、医療改革のすり替え、戦争の民営化、刑務所産業。いわゆる貧困ビジネスを国家戦略として実践している米国の危機ということでした。

911事件前後、ブッシュ政権下において何が起こっていたのか
オバマはなぜブッシュ政権の政策からチェンジできないのか
貧困層を生み出して儲ける会社があるというしくみ
分断された我々はまず何をすべきか、そしてどう進むべきか
とてもわかりやすく、説得力のあるお話でした。

とくに、新たに貧困層を生み出す政策が、既存の差別反対運動の分断化を作り出すためであり、だからこそこれまで差別されていた「打たれ強い」女性が立ち上がるべきだという話には説得力がある。女性のほうが身近な生活の中での変化に敏感だから。

演題と副題の関連性が分からないと行っていた副市長も、きっと納得がいったことでしょう。

国家権力が、その権力への批判をかわすために、格差階層をつくりだし、階層間での闘争を作り出すことは、古くは江戸時代の士農工商エタ非人制度でも実践されていました。エタ非人の事例は日本人なら誰でも知っている歴史的事実で、歴史は客観的に見ることができます。

しかし現実に今起こりつつあることは、なかなか気づかないものです。

きっと、いわゆる中流層の人たちには、自分たちが格差社会の下部構造に追いやられているという事実を認めたくないという意識があるのでしょう。また、それが危険であるということにも気づいていないように思います。気づいて、阻止しないといけない。明日は我が身ということをしっかりと認識しないといけない。そう思うのです。

堤さんの講演で驚いたことのひとつに、米国において起こっていることは対岸の火事ではないから日本でも注意しないいけないという忠告を、インタビューした米国人たちが発しているということでした。そこに、米国における良心への期待が持てます。

堤さんが発信する情報は、個々の人々が注意すれば取得できるものですが、それは、マスメディアが報道しないことでもあります。では、どうすれば報道されない事実を知りうることができるか。

たとえば、国会での議論は衆議院・参議院ともにウェブページに動画のアーカイブがあるから、それを見ること。そしてメディアがその映像のどの部分を使って報道しているか確かめること。数種類のメディアで同じ検証作業をすること。すると各メディアの性格がわかってくる。

政権交代は重要だが、選挙が終わったら政治への関心がなくなるのはよくない。選挙が雄終わってから、政権が何をしているのかを知ることが大切。

政権政党内で議員が自由に発言できているかどうかはとても重要。言論統制のある政党は、最終的には政策として言論統制をしてくることになる。それを崩すのは弱者の声。連帯して声を上げ続けることが必要。議員の事務所にいって、直接会って話をすること。メールやファックスでは通じない。会うことが必要。

このように、具体的に、わかりやすく、これから我々が行動しなければならいないことを提示していました。

これらは、米国でのインタビューを通じて学び取ったことのようですが、911テロを間近で体験したからこそ、このようなことを考えるようになったようです。911直後の報道が明らかに偏向していたということに疑問を感じ、必要な情報をインターネットで探して見つけても、すぐに削除されていったというSFのような状態に、恐怖さえ感じたといいます。

米国での情報操作を身を以て感じ取っていったのは、堤さんにはジャーナリストとしてのセンスの良さが備わっているからだと思われます。

岩波新書の『ルポ貧困大国アメリカII』は、本多勝一の『殺される側の論理』に通じるところがあって、本多勝一を30年前に読んだ時と同じくらい興奮しました。

ジャーナリストとしての堤未果の今後に期待し、応援します。


日 - 2 月 21, 2010   03:24 午後