親父の本棚


子どもの頃、親父の本棚に並んでいた本をずっと目にしながら育った。親父は昔、大阪文学学校に通っていた文学青年だった。

貧乏だった親父が買うのは古本だったようだ。それでも、並んでいる本は立派な箱入りのハードカバー。河出書房という耳慣れない出版社を小学校のころから知っていたのは、親父の本棚のおかげだ。

「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」「戦争と平和」「アンナ・カレーニア」「どん底」「赤と黒」「異邦人」「ペスト」「ユリシーズ」「存在と無」「風と共に去りぬ」「誰がために鐘は鳴る」などを覚えている。ロシア文学が多い。

「世界の歴史」全集は、中央公論の緑色の表紙。最後の2巻くらいは新刊されたときに追加されたように思う。

「日本の歴史」全集は小学館だったけ? 本棚に並んでいるところに、マジックインキのマーカーで横一直線の落書きをしたようだ。たぶん、えらく叱られたにちがいない。背表紙には黒い線が残ったままになっている。

もちろん、文庫本がたくさんあった。硫酸紙のカバーがついただけの状態でならんでいた。硫酸紙が茶色くなって背表紙の文字が読み辛かった。カバーをはずすと、新品のようだったのに驚いた。しかし中の紙は外側から茶色く変色し始めている。

いくつか親父の本を読んだ。もうどれを読んだか覚えていないが、ハードカバーの本はどれもこれも挫折した。文庫本が、興味深かった。使用している漢字が、いわゆる当用漢字ではなく、正字といわれる古い書体。ひょっとしたら、古典的なかづかいだったかもしれない(そこまでふるくないか)。

ずううと前に新訳が出た「ユリシーズ」を読みたくなったのは、そんな親父の本棚のせいだった。

最近、新訳が出た「カラマーゾフの兄弟」も同様だ。「ユリシーズ」はまだちょっと難解。さきに「カラマーゾフの兄弟」を読み始めている。


金 - 9 月 7, 2007   11:55 午後