ゲド戦記外伝


アースシー物語の完結編として書かれた『アースシーの風』の刊行にさきがけて、同じ2001年に刊行されたのがこの『ゲド戦記外伝』。日本語版は2004年5月に刊行された。ゲド戦記のなかで語られる伝説や、『帰還』と『アースシーの風』の間を埋める物語が納められている。

第1巻は買ったものの、そのあとの第5巻までは亮佑が小学校の図書館で借りてきてくれたのを読んだ。小学校には「外伝」がなかった。借りて読んだ本は、読み返しができない。映画「ゲド戦記」を観て不審に思ったことを確かめる手だてがなかった。結局、すべての巻を古本で買いなおしたのが10月ごろ、先に『指輪物語』を読み始めたので、ようやくこの「外伝」を読んだ。

その間、ル=グウィン(ハヤカワ文庫での日本語表記はル=グィン)のSF、『闇の左手』『幻影の都市』『辺境の惑星』を読んだ。作者の世界観を知りたかったからだが、読んでいてとても疲れた。それが、若かった作者の気負った物語のせいなのか、翻訳のせいなのかはわからない。が、すくなくとも「外伝」の日本語はこなれていてとても読みやすく、またそれゆにに作者の意図もすんなりと頭にはいってくる。読んでいて、これがル=グウィンの世界、という安堵感がある。ゲド戦記は清水真砂子の訳で本当によかった。


「外伝」は、『帰還』を書いた後に変化した作者の思想、価値観、世界観を埋めるために書きなされたアースシーの歴史といってもいいだろう。『影との戦い』の発表は1968年で、外伝の発表までに33年も経っている。すでに1990年の『帰還』においてさえも1972年の『さいはての島へ』での価値観を修正していたように思う。その修正後の価値観で包括的にアースシーの世界を描きなおしたのが「外伝」であるといってよいだろう。だから、読んでいて、とても安心感がある。

「カワウソ」はロークの魔法使いの学院の設立過程について書かれているが、ローク島がなぜ魔法で守られているかという秘密が明らかにされる。「影との戦い」におけるローク島の人々の暮らしとは何か異なる様な気がしないでもない。またカワウソの意に反して学院が女性を閉め出していく過程は、もっと詳しく記してほしかった。

「地の骨」はオジオンの若かりし頃の物語。ハイタカの若い頃とちがってうちに秘めた力をもつダンマリがダルスに師事したこと自体がダンマリの魔法の力でもあった。師匠は逝って、オジオンはル・アルビに住まう。

「トンボ」は、アイリアンの物語。アイリアンは『アースシーの風』にごく自然に現れる、らしい。が、忘れてしまった。宮崎吾郎版「ゲド戦記」には、竜と人間の間に、この「トンボ」に匹敵するような重みが感じられない。竜になったテヌーをみて、ただあっけにとられるだけだった。

さ、もういちど、はじめからアースシーの物語を読み返して、物語の世界を再構築しよう。


日 - 12 月 24, 2006   12:17 午後