銀のいす(ナルニア国物語)


『ライオンと魔女』『カスピアン王子のつのぶえ』『朝びらき丸 東の海へ』に続く「ナルニア国ものがたり」第4巻。

『プルートゥ』の感想で「ナルニア国物語」はマンガ的と書いたけど、悪い意味じゃない。こっちの世界(現実)とあっちの世界(ナルニア)との行き来が各物語の冒頭に突如として起こり、読者は一気にナルニア国に引き込まれて、非日常的体験を主人公たちと共有する。そこではとてもわかりやすい勧善懲悪のドラマが待ち受けているが、一筋縄ではいかないのは、主人公たちがただの子どもだからで、実に子どもらしい失敗をするからだ。それがおもしろくて、ハラハラドキドキしながらも、どんどん読み進む。そしてちょっと泣けるハッピーエンド。それをマンガ的(ドラえもん的? 映画版クレヨンしんちゃん的?)と評している。

『カスピアン王子のつのぶえ』では、もいちどペベンシー兄弟姉妹たちをナルニアに行かせてあげたいという気持ちに見事に応えてくれて、しかも彼らが訪れたナルニアは以前来たときから数百年も経っていたというお話。ところがナルニアでの彼らは子どもの姿のまま。それでもかつてナルニアの王であった記憶が蘇るし、その威厳さえも備わっていくのだ。ナルニア国からみるとピーターたちは伝説の王である。それが数百年の時を経て子供の姿で復活する。彼らはナルニアにとってアスラン同様に神そのものなのだ。いいなあ、こんな世界。

『朝びらき丸 東の海へ』では初めてナルニアに来たユースチス(ペベンシー兄弟のいとこ)が失敗をやらかすが、苦難を乗り越えて人間的に成長する。ひたすら東に向かう船は、オデッセウスの冒険か、ゲドとアレンのさいはての島への旅か? 光にあふれる東のはては、ウルトラマンの星か? 

ユースチスの成長は現実世界にも反映されている。『銀のいす』は、夏の間になぜか精神的に成長したユースチスが女友達ジルとともにナルニアに行く。そこでのユースチスが『朝びらき丸 東の海へ』と大違いなのに驚き、頼もしくさえ思う。いっぽう初めてナルニアに来たジルは、いろいろと失敗をやらかすが、読者はすでにナルニアを知る者として優越感に浸りながら、やさしく見守ることができるのだ。ユースチスにもジルを思いやる心がいつしか芽生えている。読者はジルの気持ちとして、それを感じることができるが、いちばんやさしくなっているのは読者自身のハズだ。当然ジルも成長していく。

それにしても、泥足にがえもんがとてもいい。その名前からして、いい。のび太をささえるドラえもんのように、ふたりの子どもを支えるひょうきん者。ドラえもんほど信頼されてはいないけどね。アスランは最後の頼みだが、泥足にがえもんは日常的にサポートしてくれる。子どもたちが一所懸命の頑張るためには、泥足にがえもん的存在が必要なのだということがよくわかる。

アスランは最後の頼み、と書いて思ったが、ぎりぎりまでがんばったあとに助けに現れるアスランこそ、やはりウルトラマンなのだ。彼は光の国からやってくる。



月 - 5 月 8, 2006   11:39 午後