帰還(ゲド戦記 最後の書)


ゲド戦記第3巻「さいはての島へ」から18年度に発表された続編。「さいはての島へ」を亮佑が借りてきた週はとても忙しくて、半分くらい読んだところで返却されてしまった。

というわけで「さいはての島へ」の結末を知らないまま読むことになった最後の書。最後の書といってもゲド戦記は外伝も含めて全6巻ある。帰還はそのなかで4巻目。当初は3巻で完結する筈だったのかもしれないが、あとから追加されたこの最後の書は、「こわれた腕輪」同様にゲドがなかなか登場しない。内容もテナーの物語といっていい。しかし、テナーを通して語られているのは、ゲドのその後の物語ではなく、いまこの本を読んでいるこのときに現実に起きている様々な社会問題である。それはこの本が発表された1990年から何も変わっていない。
帰還

ゲドは英雄として帰還するのではなく、魔法の力を失ったただの男として戻ってくる。そして魔法の力がなくなったことにおびえ続けるのだ。あの大賢人のゲドが、である。「さいはての島へ」でどんなことがあったか知らないので、このゲドの変わり果てた姿はショックだった。しかしそれを迎えるテナーはたくましい。

しかしそんなことより作者は、女性の地位の問題、差別問題、貧困問題、ドメスティックバイオレンス問題などをテナーの周りにちりばめ、恋愛論や男女共生社会論を論じているのだ。それらは、単語としては一回しか表れないことでも、内容的にはずっと重くのしかかってくる。

ああ、それにしても竜とのつながりがこんなにも重要だとは、気づかなかった。残りページが少なくなってきたのに、この展開はどういうことだ、と不安に思っていた自分がはずかしい。


月 - 2 月 13, 2006   11:04 午後