トロイアの黒い船団


ローズマリー・サトクリフ著、副題として「ギリシャ神話の物語・上」。下は「オデュッセウスの冒険」。昨年、わが家でのギリシャ神話ブームのときにその存在を知ったのだが、初版が2001年という比較的新しい本だった。

どうしてだか、昨年末に亮佑が「オデュッセウスの冒険」を借りてきた。冬休み明けに返却らしいが、亮佑が読む前にパパが読み始めた。読み出すと止まらない。青少年向けに物語として書かれていて、美しい挿絵とともに、どんどん読み進むことができる。「オデュッセウスの冒険」では、イタケ島に戻ってきてからの物語が詳細で、楽しめた。感想を亮佑に話したら、今度は上巻を借りてきた。



「トロイアの黒い船団」では面白い記述がいくつかある。アキレウスが女装して兵役を逃れていたのは母テティスの策略だが、「こんなたくらみになぜアキレウスが唯々諾々と従ったのか、それは誰にもわからない。たぶん、母親が息子を愛するあまり、何か魔法をかけたのではなかろうか。それはともかくとして…」とある。語り部としての責任放棄のようにも思う。もうすこし神話らしく書いてもいいのに。

トロイアに到着した直後のことを書いた後は、一気に9年間が過ぎている。そのとき「彼らには、城を包囲して戦うということがどういうことか、ほとんどわかっていなかった。彼らは城市のまわりに塹壕を掘ろうともせず、街道に見張りを立てて、敵の同盟国からの食糧や兵士の補給を断とうともしなかった。また門をくずしたり、高い城壁によじのぼろうということも考えなかった。」と、トロイア戦争が長引いた理由を書いている。なんか嘘っぽいけど、この頃の戦争とはそういうのだったのだろうか?

そのほか、戦闘描写が結構残酷なことに気づいた。戦死した武将の鎧をはぎ取ろうとする敵と遺骸を陣地まで持ち帰ろうとする味方の描写が何度か出てくるが、戦利品として鎧をはぎとるのは当然、と書いてある。また、戦車が戦死者に乗り上げてどんどん進んで行く様子などもあって、戦場の残酷さをよく描いている。トロイア陥落後も「ヘクトルの幼い息子は、城壁の下に、死んでころがっていた」と描写。武勇伝というよりは反戦的描写の印象が強い。

ところが、神話として登場するギリシャの神々は、とてもきまぐれ。すでに神々の性格を知っていないと、物語が理解できない。トロイア戦争以前にギリシャ神話の予習が必要であろう。

木馬の件は、あっさりとアテナがオッデュセウスに教えて提案したことになっている。そして巨大な木馬の意義は、中に兵士が入っていることも重要だが、トロイアの城門を崩さないと中に入れることができないのも重要だったはず。それが挿絵でしか表現されていない。ラオコーンがなぜ海から現れた大蛇に教われたのかも、人々の推測として書かれているだけ。

なんだか、最後のところでしっくりこないところがあるものの、全体としてはとても面白い。子供の頃に読んでおくべき本。


月 - 1 月 23, 2006   03:39 午前