坂の上の雲


司馬遼太郎、文春文庫。学生が卒業制作に松山城周辺を題材に選んだが、何をどうしたら良いのかわからないと言い出したので、だったら松山市がその観光の拠り所としている「坂の上の雲」を読めと薦めた。

以前に読んだのはいつか忘れた。内容もほとんど忘れた。薦めた手前、再読をはじめた。もう退職された田原先生が、おもしろいと評していたときには、すでに読んでいたから、十年くらい前に読んだのは確かだ。第一巻の奥付をみると1986年の印刷だった。えっ、そんなに昔か?

日露戦争に向かって行く明治維新後の日本のすがたを松山出身の秋山兄弟と正岡子規に焦点をあてて描いている。二百三高地の悲劇も司馬遼太郎の解釈が印象深く残っており、大胆な戦略を嫌って小出しに物事をすすめると失敗する事例として引用してきた。

日本海海戦のとき「本日天気晴朗なれども波高し」と言った秋山真之については、島田謹二「アメリカにおける秋山真之」(朝日選書)も購入しているので、よほど惚れ込んだんだと思う。ただし、こちらの本は読んでいない。司馬遼太郎の独特の歴史小説の文体に慣れた後には、面白味のない文章に思えて読みすすむことができなかった。

兄の秋山好古については義経、信長と並ぶ騎兵戦略家として、とても凛々しい姿が印象として残っている。これから読み進むうちにまたその姿が登場すると思うと楽しみだ。

若い頃、司馬遼太郎の小説の書き方はあまり好きでなかった。物語として映画的イメージで読み進んで行きたいのに、とつぜん史料にあたって、その詳細を書いていたりする。ドラマがCMで中断されたような印象だ。しかし、それがかえって真実のような気がして、読み終えると歴史を目の当たりにしたように思ってしまう。登場人物の会話さえ史実のように思ってしまう。司馬遼太郎の歴史小説にはそういう魔力があった。

そして、この歳になって司馬遼太郎を読み直してみると、むかし好きでなかった書き方も、まるで違和感なく読み進むことができる。


木 - 10 月 27, 2005   01:05 午前