ギリシア神話を知っていますか?


阿刀田高のこの種の本が面白いと中林先生に薦められて、ちょうどギリシア神話づいていたのでさっそく買って読んだ。子供の夏休みの自由研究にも役立つと思った。

買って来たその日に、子供の前で読み聴かせていたら、冒頭アプロディテの説明のところで「アフロディジアといえば性的興奮」なんて書いてあるので、直感的に、これは子供に読み聴かせる本じゃないな、と思ってすぐにやめた。別に内容が卑猥なわけではないが、「ヴィーナス帯といえば貞操帯」と書いてあるのをそのまま読んで「貞操帯って何?」って聞かれても答えに窮する。「愛とは肉体的なものだという考え方はヨーロッパ文化の中では、むしろ支配的である」なんて言われても、子供たちには分かるまい。

昭和59年(1984年)が文庫本の初版。もう20年も前の本なのに内容が新鮮なのに驚いた。文学批評はいつになっても色あせないということだろう。しかし時折その時代を知らないと分からない世評がある。たとえばパリスが三女神を相手に一番の美女を選ぶとき、「どこかの国の総理大臣みないに『アー、ウー』などとうめきながら態度を不明瞭にしておいたほうが賢明」という下りは、すでに故人となった当時の総理大臣を知らない世代にはまったく分からないだろうが、知っている者にはおもしろい。

こうしたくだらないジョークを織り交ぜながら有名なギリシア神話が紹介され、男女の恋愛の悲哀を中心にそれぞれの感情を分析しながら分かりやすく説明してくれている。楽しく読み進んでいくと、ヨーロッパ文化の根底をなすギリシア神話が、どうのように咀嚼されて現代に伝えられて来たかを知ることになる。

「ホメロスの世界」が学術的な考察で男神と女神の役割、ひいては古代ギリシャの理想的市民像の変遷を説明しているのに対して、こちらはもっと世俗的に、男女恋愛論として、主人公たちの感情に立ち入って分析している。内容的には同じことを言ってる気もするが、阿刀田高にかかると、ギリシア神話の主人公たちが活き活きと現代に蘇って来たかのような錯覚に陥る。

20年前にこの本に出会っていたら、人生観、変わったかも。


木 - 9 月 1, 2005   05:49 午前