焼スパゲティ


むかし昔、私がまだ子どものころだから40年ほども前のこと、わが家でスパゲティというと必ずナポリタン・スパゲティだった。すでに茹でた麺を袋詰めにして長期保存可能にしたものを炒め直すタイプのインスタント製品で、粉末のトマトソースもついていたように思う。具材にソーセージやタマネギ、ピーマンなどを刻んで、粉末ソースまたはケチャップと一緒に麺と絡めると出来上がり。手間要らずで、すぐできて便利だった。

たしかママーが出していたように思うけど、定かではない。スパゲティは、ケチャップ味のナポリタンで、フライパンで炒めるもの。ずっとそう思っていた。ミートソースもたまに食べたように思うが、今のようなミートソースではなくて、トマトソースで煮込むというより、ケチャップと混ぜるみたいな感じだったので、ナポリタンのほうがすきだった。おおきなソーセージの薄切りがはいっていて、タマネギにシャリシャリした歯ごたえがのこっているのが美味だった。

しかし、あとになって、スパゲティは茹でるものと知った。あと、っていつくらいかわからないけど。また。当然、ナポリタンとミートソースだけがスパゲティではないことも、知った。そもそもスパゲティをパスタと称するようになったのがおどろきだった。

つまり、子どものころに食べていたのは焼スパゲティだったのだ。

20年ほど前、天満橋の職場近くにあった喫茶店のスパゲティは、あきらかに予め茹でていた麺を炒め直したものだった。しかし、そこのナポリタンやカレースパゲティは、なぜかとてもおいしいかった。よくハンバーグなどを乗せてくる鉄板に盛りつけられ、ジュージューと音を立てながらテーブルにおかれ、ちょっと焦げる感じのアツアツ感がよかった。とても懐かしい感じの味だった。これぞ、喫茶店の定食メニュー!

しかし、世の中は、正統派のパスタが定着しつつある時代。その職場の近くに「スパゲティハウス」なる店がオープンした。今では珍しくも何ともないが、当時はイタリアンスパゲティ専門店は新鮮だった。注文してから、カウンター越しに麺を茹ではじめ、タイマーをセットする。ゆであがった麺にソースを絡めるのも見ることができた。

ある日、どうもはじめて来店したと思われる中年の男性客が、メニューにはないナポリタンを注文し、麺をよく炒めてくれと頼んだ。店員は、茹でたての麺はおいしいですよ、とやんわりと断ったが、頑に炒めてくれと頼んだ。きっと焼スパゲティしか食べたことがなくて、スパゲティといえばナポリタンだったのかもしれない。

なんだかその男がかわいそうに思った。スパゲティ専門店にきて、喫茶店メニューのスパゲティを要求しているから。たぶん、この店では喫茶店のスパゲティの味は出せない。

スパゲティはアルデンテに茹でて、さっと手早くソースと絡めてお皿に盛る。できれば、少し硬めに茹でて、食べる直前にアルデンテになるようにするのがおいしくいただくコツ。

スパゲティを茹でる時に塩を入れるのは、麺にコシを出すため。表面はツルツルでコシがある麺に茹で上がる。アルデンテは、茹で時間。
ミートソース以外はソースを絡めるのが基本。オリーブオイルにゆで汁を少しを混ぜて粘りをだして、ソースが麺に絡み易くする。
今では常識のように思うけど…


今日は焼きスパゲティ・ミートソースだった。焼きスパゲティは、ナポリタンがいい。


火 - 9 月 29, 2009   11:30 午後