「さらしなそば」と「やぶそば」


「さらしなとやぶの違いは何かしっているか?」とTさんに聞かれた。じつは「やぶそば」を知らないので、違いはわからない。でもきっと「さらしな」は白いそばで、「やぶ」が黒いそば、だと答えた。

「それがちがうんだなあ。つゆの違いだそうだ」と、落語家が言っていたという話をしてくれた。

なんか、しっくり来ないので、その場で調べてみた。

さらしなは「更科」、やぶは「薮」と書くが、実はのれん(ブランド)、屋号のことだった。さらに「砂場(すなば)」を足して、蕎屋の「のれん御三家 」というらしい(江戸そばの源流 )。そばは大好きだが、全然知らなかった。

そういえば東京のそばはうまい。東京では、うどんを喰う気がしないので、蕎しか食べない。いつぞや、讃岐うどんの店にはいったら、真っ黒なおつゆに驚いたきり、うどんは食べない。各のれんの蕎屋情報はこちら にあった。のれんの歴史はこっち にも。

江戸蕎の御三家のうち「薮」も「砂場」も、大阪ではまったく聞かない。大阪は「更科」だらけ。しかし、御三家のうちで最古参の「砂場」は大阪出身だというから、ややこしい。どうして大阪に「砂場」はないのだろう。「薮」については、近年、大阪帝国ホテル近くに「やぶそば」がオープンしたらしい。

特徴的なのは、大阪には「更科」を名乗るそば屋が多い。新世界・通天閣本通りの「総本家更科」は明治40年の創業というから浪速のそば屋としては老舗であるが、東京の「更科」とは異なる庶民的な雰囲気とイメージが強く、大阪の「更科」各店に総じて共通する大衆・庶民的イメージであると思われる。

どうも大阪の更科は東京の更科とは別物で、庶民的らしい(江戸そばの源流 )。つまり大阪には東京の暖簾はないが、そばの代名詞として更科を使ったということだろうか。

これは、ひょっとして、上方で田楽を味わった江戸のお方が、あちらで「おでん」と称していろいろ煮たものを出したところ、上方の人が味わって「関東炊き」と呼んだ奥ゆかしさといっしょかな。

「更科」は、さらしな粉をつかった白い蕎が売り物だったそうだから、更科=白い蕎というのはまんざら間違いでもないようだ。そば粉の種類とそばの種類の対応図 があった(そばの色のちがいの写真もある)。

しかし、この3つの屋号の違いは、やっぱりおつゆにあるらしい。「一般的な表現をすると『薮の辛つゆ』『更科の甘いつゆ』『砂場はその中間』などともいわれる」そうだ(江戸そばの源流 )。

落語では、蕎の食べ方は、箸にとった蕎の先をおつゆにちょっとだけ浸して一気にすするのが粋、だそうだ。しかしその講釈をたれた本人は死ぬ間際になって、しっかりおつゆをつけて食べたかった告白するらしい。なんていう噺だろう。

おゆつにたっぷり浸すか、少しだけつけるかの違いは、おつゆのカラさ(濃さではない)にもよるだろう。そのあと、一気にすすって呑み込むか、モグモグ噛むかという違いもあろう。

ボクは田舎もんだから、田舎そばが大好きで、更科系の白いそばはあまり好きではない。ひょっとしたら一気にすするのは白い更科そばの食べ方かもしれない。


火 - 2 月 26, 2008   11:58 午後