新型インフルエンザと関倉の対応


大型連休明けの7日。カミさんが発熱して約3日間、寝込んだ。本人いわく10年ぶりの高熱(39度)だという。まるっきり寝たきりだわけではないけど、相当しんどかったようだ。

4日に録音機を買いに行った電器店のトイレで直前に使っていた人が相当咳き込んでいたのだが、混雑していたのでそのブースを使わざるを得ず、なんだか厭な気分で、きっとそれで感染したと言っていた。そうだとしたら潜伏期間3日。

実は、その日、亮佑は朝起きることができないほどしんどくて、学校を休むといいだした。連休中の宿題をやり終えていないから、サボりたいのだということはすぐに察しがついた。

朝から体調が悪くて亮佑を起こすだけの体力ないから、ということで、遅刻しないように無理矢理起こすのは諦めて、私が学校まで送っていくことになった。その日の予定は午後出勤でよかったので明け方まで仕事しててまだ2~3時間しか寝ていない。実のところ、こちらもしんどい状態。

というわけで、連休明に関倉で新型インフルエンザが流行する大騒ぎになる予兆は、我が家にもあったということ。

カミさんは病院に行かずに自宅療養。この時期に、インフルエンザかもしれないなんて思わなかったし、まして渡航歴もないのに新型インフルエンザ感染なんてこれっぽちも疑わなかった。

しかし、風邪をひいてもしかたがないかなと思ったのは、連休前に3月並みの気温になったり、急に暑くなったりしたうえに、電車やビル内は早々と冷房していたりして、体調を崩しやすい気候状況にあったからだ。

WHOが警戒レベルを引き上げたのうけて機内検疫を開始したのは4月28日から。まだ水際での検疫が開始さればかりで、この検疫に感染者が明らかになるのは5月9日のこと。7日時点では、渡航歴のない感染者について、本人も医者も保健所も新型ウイルスを疑う状況ではなかった。

9日の時点でも検疫をスルーしていた濃厚接触者がいるし、先日の洗足学園の高校生は発熱していてもウイルスを検出できなかったという例をみても分かるように、検疫していても100パーセント安全ではない。それでも、検疫が十分に行なわれているというのが一般的な認識だった。

そういう時期に、正確には連休明けの翌週の11日から関倉では高2生でインフルエンザが流行していると判断して13日から15日まで学年閉鎖になった。きわめて順当な対応だった。学級閉鎖ではなく学年閉鎖だった。

その学年閉鎖が解けた16日、神戸で渡航歴のない高校生が新型インフルエンザに感染してたことが判明した。あわてたのは関倉ではなくて、茨木保健所のようだ。関倉で発熱している生徒たちに簡易検査を行い新型インフルエンザ陽性であることが判明した。関倉はそれを受けて、16日午後には1週間の全校休校を決めている。

関倉の対応を非難する声があちこちで聞こえるが、関倉の対応は適切だった。

にもかかわらず風評だけで関倉を非難する人たちがいる。学校だけでなく、生徒にまで被害が及んでいる。かなしい国だ。



5月17日付けの産経ニュース《【新型インフル】「渡航歴なし」で新型見過ごし、感染拡大か》によると、13日に関倉は茨木保健所に報告しているにもかかわらず「保健所は新型を疑わず、所管の府私学課も学校側には「経過観察の継続」を指示しただけだった。」としている。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/090517/dst0905172104008-n1.htm

その後、大阪府知事は関連自治体に休校要請をするが、実は、こうした初期段階での(行政の)失態からの信用回復のためだったのかもしれない。しかし理由はなんであれ、週明けの18日から府下全域に緊急体制を布いたのは正解だった。この段階での感染拡大を防止できた成果は大きい。

また、国立感染症研究所が厚生労働省:新型インフルエンザの大阪府下の2つの学校における臨床像 という報告書を出している(5月21日時点における調査結果報告)。あくまでも臨床像ということで、症状などの報告が主体。事例の経緯はほぼ産経ニュースに沿って発症者数が報告されているものの、高2の学年閉鎖の時点で新型の検査をしてないことについては詳しくふれられていない。


以下は、産経ニュースと国立感染症研究所より引用(いずれリンク先がなくなるので…)
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【新型インフル】「渡航歴なし」で新型見過ごし、感染拡大か
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2009.5.17 21:02 産経ニュース
 新型インフルエンザの集団感染はなぜ見過ごされたのか。生徒らの感染が確認された大阪府茨木市の私立関西大倉高校は最初に季節外れの集団発生に気づいた際、大阪府に状況を報告したが、地元保健所は「新型」を疑わず、詳細(PCR)検査もしていなかった。大阪府は発生国への「渡航歴なし」が盲点になったとの見解だが、専門家からは行政側の対応の遅れが感染拡大を招いたと指摘する声も出ている。
 「言い訳もできないし、批判も真摯(しんし)に受け止める」。大阪府の橋下徹知事は17日、庁内で開かれた対策会議後の記者会見で、学校から集団発生の報告を受けながら新型を疑わなかったことについて陳謝した。
 府や学校側の説明によると、学校から最初に地元の茨木保健所に集団発生の報告が入ったのは今月13日。しかし、保健所はこの時点で新型を疑わず、所管の府私学課も学校側には「経過観察の継続」を指示しただけだった。
 厚生労働省が定めた症例定義には「渡航歴がある」と明記されているが、症状を訴えた生徒はいずれも発生国への渡航歴がなく、感染が疑われる患者との接触もなかったことから、「季節性」と判断したという。
 学校側も生徒や保護者から「医療機関で季節性と判断された」と連絡を受けており、「もしや新型ではとの思いもあったが、最終的には通常のインフルエンザと判断した」(学校関係者)という。
 ただ集団感染の舞台となった学校は、欧米でも新型流行の引き金になっている。しかも日本国内で5月にインフルエンザが集団発生することは珍しい。東京慈恵会医大の浦島充佳准教授(公衆衛生学)は「国内では人から人への感染はないという先入観が対応の遅れにつながった恐れもある。異変に気づいて報告した学校側の対応を非難するのは酷で、むしろPCR検査を勧めなかった行政側の対応に疑問がある」と指摘する。
 一般的に通常の医療機関の診察では、簡易検査しか行わない。国内発生が確認されていない段階では、PCR検査も渡航歴のある人が優先される。ただ神戸市のケースでは、時節柄「念のため」とPCR検査を市に要請した医師の機転が感染発覚のきっかけとなった。
 浦島准教授は「国内でも封じ込め期を過ぎて蔓延(まんえん)期に入った。疫学調査による感染源の特定は難しく、今後は感染拡大と患者の重症化をいかに防ぐかが重要だ」と話している。
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新型インフルエンザの大阪府下の2つの学校における臨床像
国立感染症研究所感染症情報センター、大阪府
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[A中学・高等学校の調査結果]
1.調査対象・方法:
A中学・高等学校の生徒1934名、職員143名において、2009年5月19日までに新型インフルエンザと確定診断された64名に対して調査を行った。
生徒61名(高校生59名、中学生2名)、教職員3名
男性49名、女性15名
平均年齢16歳(13-53歳)
全員に2009年4月以降の海外渡航歴はなし
18名の入院患者には入院先の病院にて対面調査を行い、46名の自宅療養患者には学校側の協力を得て、調査票に基づいて担当教員による電話での聞き取り調査を行った。

2.A中学・高等学校の特徴:
A中学・高等学校は大阪府茨木市内に位置する私立学校であり、中学校、高等学校を合わせると1900名以上の生徒が存在している。生徒は北大阪地区、兵庫県西部等広範な地域から登校している。各学年によって校舎が分かれているが、食堂が高校・中学校共通であり、また大半の生徒が利用しているスクールバスは、学年を区別することはせず満員の状態で運行されていた。

3.事例経過:
ゴールデンウイークの翌週の2009年5月11日月曜日より、A中学・高等学校において高校2年生を中心に発熱者が目立つようになった。翌12日には2年生全体で20名の欠席者となった。翌13日には36名の欠席者となり、またインフルエンザA型に罹患している者が増加しているとの情報により、同学年は5月13~15日の3日間に渡って学年閉鎖となった。5月15日になって、神戸市内の高校生が日本国内で初めて新型インフルエンザ患者発生例として報告されたことを受けて、5月16日にインフルエンザA型と診断されていた生徒への新型インフルエンザウイルスに関するRT-PCR検査の依頼が大阪府立公衆衛生研究所に対してなされ、同日、同研究所の検査結果が陽性であることが判明し、国立感染症研究所にて行われた確認検査でも陽性と確認された。

4.臨床像について:
入院か自宅療養かの区別は、臨床症状によるものではなく、主として、患者数の増加に呼応して途中から入院措置を必ずしも行わないこととした対応方針の転換に起因する。このため、入院患者18名、自宅療養患者46名の計64名をまとめて、その臨床像を示す。38℃以上の発熱は82.8%、咳は81.0%、熱感71.2%、咽頭痛65.1%、鼻汁・鼻閉60.3%、全身倦怠感58.1%、頭痛50.0%、下痢12.9%、腹痛10.3%、嘔吐6.5%であった(表1)。発熱および急性呼吸器症状のうちの咳、熱感・悪寒の割合は比較的高い。また、今回の調査においては、下痢、腹痛、嘔吐等の腹部症状は、これまで他で報告されていたものよりは低い印象がある。ほとんどすべての症例が季節性インフルエンザに類似した臨床像を呈しており、重篤な状態となった患者はなかった。また、インフルエンザの典型的な症状である突然の高熱で発症する例が多いものの、急性呼吸器症状や嘔吐等の症状が先行し、数日後に38℃以上の高熱を発する例も認められた。
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土 - 5 月 23, 2009   04:42 午後