バレエの優美さ


今日はカミさんがレッスンに通っているワクイバレエの30周年記念公演だった。クラシックバレエについては不案内だが、ワクイバレエは世界でも有名なバレエ団(オーランド、キエフ子ども劇場)に教え子を輩出している一流のバレエ団だそうだ。今回は30周年記念公演ということもあって、その教え子たちがゲストを連れて帰国し公演に参加していた。

カミさんが出演したのは2日めの『リーズの結婚』。村娘のひとりを演じた。

有名なソリストたちと一緒になって練習したと自慢するカミさん。ただし練習も終盤になるとそれも楽しむゆとりはなくなり、ちょっと不注意があると名指して叱られたそうだ。それでもめげずに練習を続けたのは、この歳になって叱られながら練習するということに一種の楽しみを感じたようだ。

確かに指導するより指導されるほうが楽でいい。

『リーズの結婚』というのは、着ぐるみのニワトリが出てくるなど全体としてコミカルな物語で、クラシックバレエの演目としてはめずらしいそうだ。カミさんは、自宅でDVDを何度も観ては、子どもたちにストーリーを説明していた。私はあえてそれを聞き流した。とくに、カミさんが担当する役についてはいっさい見ないようにしていた。見てしまうと比較してしまうからだ。

予備知識のない状態で、村娘の中のカミさんに注目すると、同じ村娘でも動きが異なり、彼女のいる列の娘たちはどちらかというとあまりバレエ的な踊りをしないグループだった。もっと本格的にバレエするのかとおもっていたので、ちょっと残念だった。まあどちらかというと素人が、セミプロの人たちにまじって踊るわけだから、ステージの全体の流れにとけ込んでいるだけで素人バレリーナとしては十分なんじゃないだろうか。(いちおう褒めてるつもり)

『リーズの結婚』では、リーズ役が入れ替わったが、3人目のリーズのときに気づいたことがある。きびきびとした動きのなかに、しなやかさがあり、しかもまったく力んでいるように見えない。

このゆとりの表情はいったいどこからくるのか?

うまく言えないが、きっと最高出力の80%くらいの筋力で演技していたように思われる。スピンを止めたり、つま先立ちで止まったりするとき、ピシッと決まってぐらつかないのだが、かといってガチガチになって固まっているのではく、静止していても優雅な気品ある動きを感じるしぐさが残っている。これを筋力の余裕のなせるわざと見た。

続くプログラムのガラコンサートでは、白鳥の湖からの黒鳥の踊りが感動的に美しかった。

やはり、同様に、その動きの中にある優雅さや気品がどこからくるのか?

手先や関節の緊張と脱力の微妙なバランス。指先はピンと伸びているのに肘がバネのように緩い。つま先でピンと立っているのに、脚に緊張感を感じない。筋肉があきらかに張りつめているのに、ガチガチに見えないという不思議。

つねに姿勢の良い状態を維持しつつ、指先まで神経をつかった腕や脚の動き。その一つ一つに優雅な動きとはどういうものかというクラシックバレエの世界で培われたセンスが感じられる。

そして、それを決してがむしゃらに全力疾走して演じるわけではないという「ゆとり」が必要なことを感じた。

これが芸術だ。

なんて表現しようか。試合やコンテストのような競技ではなくて、演技しているという美しさ。

フィギュアスケートの荒川静香が競技を引退して、プロになると言ったとき、そのようなことを言っていたような気がする。


日 - 8 月 17, 2008   11:48 午後