インセプション


予備知識なしで観たが、久々に良い映画を観た気分。クリストファー・ノーラン監督作品。「ダークナイト」を踏襲した、ハラハラドキドキのアクションの連続で息つく間もない。特別な世界観を理解するのに時間がかかるが、「マトリックス」に似た世界でのアクションに釘付け。ただし、鳴りやまないBGMが邪魔。もっと映像だけに頼ったシーンがほしい。

渡辺謙が良い演技をしていた。ごく自然に映画のなかに溶け込んでいた。ちょっと「バットマンビギンズ」と同じ様な役回しの気もする。つまり演ずる人物が意味不明。航空会社をまるごと買い取ったり、国外逃亡中の犯罪者(冤罪だけど)の犯罪歴を消して入国審査通過ができるようにするのに電話1本ですむほどの権力(財力)をもちながら、ライバル会社の規模拡大を阻止するために、その後継者の潜在意識に会社分裂の意識を植え付けようとすることに執念するのが理解できない。いくらでもやり方はあるだろうに。なんかストーリーの根源部分で説得力がないのが残念。

でもこの映画、そんな細部にこだわっていたら面白くない。映画の中の世界観に浸りきってストーリーを追い、アクションとCGを楽しむのが良い。

冒頭、初めて発せられる言語が日本語なので、吹き替え版? と思ってしまった。そこから30分くらいは、最初のアクションシーンが展開されると同時に世界観の説明。アクションが一段落すると、まだ夢を共有するスキルを持たない学生にその手法を伝授しながら、夢と現実をどのようにして行き来できるかを説明している。夢の中は個人の潜在意識が作り出した世界だが、記憶を取り入れてしまうと、トラブルが発生するというしくみ。

夢と現実と記憶が入り乱れる世界観は、マトリックスそっくりだが、インセプションでは夢の中で死ぬと現実に戻る(起きる)ことになっている。

マトリックスは、コンピュータが支配する夢の世界に生きる人間に、現実世界の人間が夢に侵入して、それが夢だと気づかせることから始まり、コンピュータ支配から人間を解放するために現実の人間として戦う物語。

インセプションは、単に一企業主のいわば私欲を満たすために、主人公の個人的感情(冤罪によって実子と会えないけど、子どもに会いたいという強い気持)を利用しているという設定なので、大義名分がないスパイアクション。

ただそんなことを忘れてしまえば、はじまったドラマの進行は手に汗握るハラハラドキドキもの。とくに、夢と現実の時間進行のズレを利用したアクションは見物だ。車が橋から川面に落下して行くわずかな時間のなかで、夢のまた夢のなかで繰り広げられる二重三重のアクション。

夢の中では時間の流れが現実の時間の10分の1くらいになるという設定で、夢の中でさらに夢をみるとさらに夢の中の時間進行は遅れていくことになり、それを利用すると、夢の中で危機的状況になっても、さらにそこで夢をみることによって時間進行を遅らせることができ、危機回避ができるということになる。

人の潜在意識は夢の中に具体的事象となって現れるので、その夢を共有することによって、夢の中では具体的な窃盗行為を行なうことによって、他人のヒミツを盗むことができるという話。それが出来るのがコプという人物。どうやって夢を共有するかなどはどうでもいいこと。映画の中でも説明していない。

それが前提にあって、渡辺謙が演じるサイトーが、コブに、ライバル企業の社長息子ロバートの潜在意識の植え付け(インセプション)を施術して欲しいという仕事を依頼する。

似ていると思った別の映画:
夢と現実を行き来するのは「マトリックス」「イノセント」
夢の中に自殺した妻が出現するのは「惑星ソラリス」(タルコフスキー)
植え付けられた記憶と現実との区別がつかなくなる(種は感染する)のは「トータルリコール」
本人は自宅に戻って来たと思っている結末は「惑星ソラリス」
主人公が救われたかどうかを視聴者にゆだねるのは「ブレードランナー」
渡辺謙演じるサイトーは「ブラックレイン」のサトウ(松田優作)のことをニック(マイケルダグラス)が間違えて発音した名前


内容に、やや説明過多なところがある。難解さを解消するためかもしれないが、五月蝿いBGMと合わせて、ハリウッド的と言える。たとえば「ブレードランナー」は、配給会社の意向でナレーションが入ったおかげで、1回観ただけで話がよく分かった。が、あとから何回も観るには、ナレーションのない監督オリジナルカットのほうが重宝している。


何度も同じシーンが出てくる。が、それぞれのタイミングでその映像の意味が異なるのは面白い。夢でよくある話。


とりあえず、ここまで。


水 - 9 月 15, 2010   02:08 午前         |