リドリーだけが理解した


ブレードランナー・ファイナルカットのDVD、本編のおまけの美術スタッフの音声解説に興味深いところがあった。おそらく美術担当のローレンス・G・ポールの声で次のように語っていた(字幕)。

プリスを殺したあと、デッカードがロイに追われはじめるシーンあたり。ほぼ一人で語り始める。
セットの模型はない。
デザイン画は描くが模型はなし。
でもこの映画の後から、模型を作るようになった。
いろんな監督と仕事をしてみて、デザイン画だけで判るのは、リドリーだけだと気づいた。
絵のとおりにね。
彼は立面図を理解できる。
ほかの監督にはその能力がないんだ。
だから我々は毎回模型を作るようになった。
私の生徒にもそうさせている。
デザイン画を描いてから模型を作り、監督に見せる。
模型やデザイン画の出来は大切だ。
相手に希望と違うと思われたら使ってもらえない。
今はどの監督にもスケッチ画と細部を動かせる模型を見せる。
立面図を詳しく描いても、照明担当にしか役に立たない。
立面図は難しい。
だが、25年前、この映画を撮った時、リドリーは簡単に理解した。

この話からだと、映画監督といえども空間把握能力に長けた人は少ないということがわかる。

監督のリドリー・スコットは、大学でグラフィックデザインや絵画、舞台美術を学び、BBCにセット・デザイナーとして入社した。セットデザイナーということは、つまり立体構成能力があるということ。だからイメージスケッチで立体空間を想像できる。

住居設計の指導をしていていると、つい誰もが図面から空間を想像できると錯覚してしまうが、学生はまだまだ図面を読むことに慣れていない。なかには自分が描いている図面からどのような空間が生まれるのか分らない学生もいる。本末転倒といえばそうかもしれない。図面は頭のなかの三次元空間を平面に落とし込む作業だからだ。図面から空間を想像するのは、その逆の作業。

いずれにしても、設計課題の模型を作ることはとても重要なことだということ。

模型の威力はいかにすごいか、この音声解説で理解できる。

ただ模型には、その中に入って内部空間を体験することはできない。それをするなら実物大の模型をつくるしかない。だから、それをCGで実現する。模型もCGも必要。


土 - 6 月 21, 2008   04:22 午後