仏陀の生涯ー5
 

 1は白象がマーヤー夫人の右脇から胎内に
  入る場面 
 2は太子誕生の場面
 3は2龍が灌水する場面
 4は出城する場面
 5は剃髪する場面
 6は苦行と瞑想する場面
 7は降魔印でありますゆえ降魔成道の場面
  8は台座に法輪と2頭の鹿が刻まれており
  ますゆえ初転法輪の場面
 
 1の白象ですがインドでは象はそのまま表
されますがガンダーラでは象は円形内に表さ
れます。これはインドでは夢の中でなく現実
に象が兜率天から降下したと考えられたとも
言われておりますが定かではありません。ま
た、マーヤー夫人が右脇を下にしているのも
珍しくこれでは象は右脇から胎内に入るのに
苦労したことでしょう。
 2の太子にはもう既に光背が付いており太
子を受け取るのはインドラでしょう。
 4では龍王が合掌して太子の出城を祝福し
ております。

 

 

  1は太子の前世は兜率天の菩薩で天上の神々が太子に白象となって地上界に降下する
  ことを懇請している場面
 2は輿に乗った白象(青矢印)を担ぎ神々は歓喜し楽隊を引き連れ賑やかに行進してお
  ります。
 3は不鮮明ですが白象(青矢印)が降下してマーヤー夫人の胎内に入る場面ですが夫人
  は気がついて白象の方を見ているように見えます。

 これらの図の特徴は手足が細く表現されていることです。

 

   白象(青矢印)を円盤内で表すのはガンダーラの特徴です。

 

  これからはインドの「サーンチー」について記述いたします。しかし、すべてではな
くほんの一部であります。サーンチーはインド国立野外博物館と言えるものです。紀
元1世紀前後の作品を今は見ることが出来ますが、近い将来はレプリカに代わるか覆
屋で被され、青空の下で古代の作品が満喫出来なくなるかも知れません。現物がサー
ンチー博物館での展示となれば写真撮影は禁止です。インドを訪れましても
サーンチーまで足を延ばされる方はまれです。考えられることは交通の便が悪いのと
塔といえば高層建築を見慣れております我が国では土饅頭の塔では魅力がないのかも
しれません。2回目の訪問では5時間留まっておりましたら前述の野生の孔雀が迎え
てくれました。


      サーンチー第一塔(北側)


     北門の裏側

  サーンチーには第一塔から第三塔まであります。塔については次回に記載いたしま
す。黒っぽく汚れた感じでしたが現在はきれいに化粧直しが終わっております。それ
と左右の木が塔を遮っていたのが刈り込まれており今回の写真となりました。

 

  ヴェッサンタラ本生


              ヴェッサンタラ本生 全体図

   ヴェッサンタラ本生は現在の正門・北門(当初は南門が正門)にありしかも本生
譚・547話の最後に出てきますのでそれだけ重要視されているということでしょう。
この本生は布施、布施と続き布施行の重要さを表しております。しかし、我々凡人に
は理解できない内容で、ヴェッサンタラ王子はいくら布施が好きだと言っても動物や
物を与えるのは理解できますが奥さんやかわいい子供まで与えるというものです。


                ヴェッサンタラ本生
  

  左側の下段から始まり右側で上段に反転します。水差しを持った王子(青矢印)がバ
ラモンに霊験あらたかな
象(赤矢印)を布施してしまうのであります。この布施行で
父王だけでなく国民の反感を買い城外へ追放の憂き目となります。
父王に見送れなが
ら四頭立ての馬車に乗り城外へ出てゆく王子と
その家族。上段では今乗って来た馬車
までをバラモンに与えたのです。ですから、バラモンは空車となった馬車を引いてお
ります。左端の水(緑矢印)を差し上げる行為はバラモンに馬車の施しを約束する証で
す。
 割愛しておりますが図の左側では王子が一人の子供の手を引きもう一人の子供を妃
が抱っこしながらとぼとぼと村の中へと入っていくところの風景があります。 


    ヴェッサンタラ本生 部分図

  王子が一人の子供の手を引き王妃は
一人の子供を抱いております。次の左
の展開では王子家族が座って団欒をし
てしばしささやかな幸せを味わってお
ります。

 山中でのヴェッサンタラ王子家族の
幸せもつかの間で妃が留守の時にバラ
モンが訪ねてきて子供が欲しいと願う
のでした。
 下図に続く。

 


           
ヴェッサンタラ本生 全体図


        
ヴェッサンタラ本生 部分図

  食料品を調達に出かけた妃(青矢印)は子供たちに異変が起こったのでないかと胸騒ぎ
がして急いで子供の許へ帰ろうとしますが獅子などに行く手を阻まれ立ち往生していま
す。案の定王子は可愛い二人の子供(赤矢印)をバラモンに布施してしまいます。その左
はバラモンが棒を振りかざし子供たちを追い立てて連れて行きます。
 王子はついにはバラモンに愛妻(緑矢印)まで布施してしまいます。
 この物語はインドラがバラモンに姿を変えて王子の布施行の真摯度を調べたというこ
とで最後は王子の家族4人が再会してハッピーエンドとなります。インドラといえば法
隆寺の玉虫厨子の施身聞偈図ではインドラが羅刹に身を変えて太子の修行を試しました。
インドラは仏陀の護法神なのに仏陀を調べるとはおこがましいことですが仏陀の前世に
おいてはインドラは護法神ではなく天界の最高神だったからでしょう。

 

  カピラヴァストゥへの帰郷

  仏陀は王舎城から故国のカピラヴ
ァストゥへ帰還され父王と再会され
ます。
 仏陀は空中遊歩
の奇跡を見せて父
王を驚かせます。菩提樹、聖台の上
に仏陀の象徴たる経行石が仏陀の浮
遊を表しております。
 中央の人物は仏陀の神通力に驚き
慌てて合掌する父王です。
 右上の鳥人は何でしょうか。


 カピラヴァストゥへの帰郷

 

  竹林園での説法


    
竹林園での説法

 

 「竹林園」はビムビサーラ王が寄進した
王舎城の中にありました。
 竹林園は
仏陀が好まれ長期滞留された
ところです。
 
女性たち竹林園で仏陀の説法を聴聞
するところです。
 左右に見える植物が竹林です。

 

  デーブァ夫妻の接待


   デーブァ夫妻の接待

  

 デーブァ夫妻(中央に見える)による仏陀
を接待する風景です。
 水を汲む者、汲み上げた水を天秤で運ぶ
者、穀物を篩に掛ける者、杵と臼で穀物を
挽く者、穀粉を捏ねる者など食事の準備風
景が表れております。
 これは仏陀に食事を差し上げた善行によ
り金持となるお話です。富裕となったこと
を左上の以前の住まいと右上の現在の住ま
いの違いで表しております。

 

 

 

 帰郷説法

 

 最上段は仏陀の前世は兜率天に居られその兜率
天で説法される仏陀を表しております。

 


 その仏陀が白象に姿を変えてマーヤー夫人の右
脇から胎内に入るところです。前世の仏陀が生母
の胎内に入りそして仏陀が誕生する「托胎霊夢」で
仏陀の故郷を表現しているのでしょう。
 上段中央には白象(緑矢印)が見え、その下には
マーヤー夫人が横たわっております。

 中段は仏陀がカピラヴァストゥへ帰郷の際父王
は榕樹林まで向かいに行きました。
 
  再下段は空中に浮かぶブッダ(経行石で象徴)、
それを見て驚く父王。釈迦族の人々は仏陀の神通
力はたいしたものではないと甘く見ておりました。
ところが、空中遊泳の神通力を目の当たりにして
釈迦族の国民は驚嘆して仏陀を厚く敬うようにな
りました。

 仏陀の帰郷に父王、仏陀妃の喜びは大変だった
と思われるのに
実子のラーフラ(羅睺羅)、異母弟
のナンダ(難陀)、従兄弟のアーナンダ(阿難陀)や
釈迦族の多くの衆生までも出家させてしまいます。
今回の出家者たちから十大弟子が4人も出ており
ます。
 



    帰 郷 説 法

 

  サーマ本生


     サーマ本生

 親孝行なサーマ少年の物語です。めくらに
なった両親のため少年が水を汲みに行ったあ
る時(中央で水甕を肩まで持ち上げている少
年)、王が少年を鹿と見誤って矢を放つと矢
が当たった少年は河に落ちて死んでしまいま
す(左下の部分)。王は少年の遺体を両親の許
まで運び丁重に詫びましたがおさまりそうも
ない両親の嘆き悲しみが天上の神に届き、そ
の神がこの話に感動して不憫な少年を生きか
えさせるだけでなく両親の眼が見えるように
回復させました。
 左の後景は少年と眼が見えるようになった
両親の幸せな様子です。
 少年は前世の仏陀であります。
 これらは素材の石に象牙細工の職人が彫っ
たというだけに精細な伝統工芸が極めた作品
です。

 

                              画 中西 雅子