香りのお話
		                     
      世界のあらゆる宗教において、香りは重要な役目を果たします。それは神仏の供養
		のため、献花や香木である樒を飾ることや焼香など、また、礼拝者の体臭を除き、身を
		清浄にすることなどであります。しかし、日本人にはその必要性がなかったのか、日本
		の神道は香りを用いない世界的に珍しい唯一の宗教でもあります。釈迦の遺骸も香木で
		火葬されたと言われております。
                
       それに、拍手を打つのも日本の神道だけです。
                  
                                                 
      西洋料理でも中国料理でも、容器に盛りつけられたものは大体すべて食べられますが、日本料理は例えば椿の葉、紅葉などで飾りをつけるのも見た目を大切にするからであり
		ましょう。
                    
                              
      また、見た目を大切にするのは、昔から日本では鼻で感じるのを「香り」、目で感
		じるのを「におふ」と言ったことからも、日本人の好みは“さわやか”で“マイルド”
		なものだったのかもしれません。
                    
                                                 
      これが原因かどうかは分かりませんが、日本では、華道はずっと栄えていますが、香
		道は地道な活動になっております。例えば、日本と西洋の飲食を見た場合、洋酒は香り
		が強く、ブランデーなど匂いを嗅ぎながら飲むのに比べて、日本酒は香りでなく,菊の
		花などを浮かべて舌と目で味わいます。それと同じことで、コーヒーには強い香りがあ
		るのに、日本茶はかすかな香りであります。それに同じ緑茶でも、摘んだ後すぐ、中国
		では炒るのに対して日本では蒸すのでそれだけ、味は良くなるが、香りは少なくなります。
                    
      ケーキと和菓子も同じであり、鼻での香りよりも、視覚的な感覚の「におふ」を大切に
		して、器や盛り付けをその都度変えたりするのであります。その昔「におふ」とは色の
		一種だったようです。これも我が国では、良質の軟水が豊富に得られたため“におい”
		を気にしないで良かったことも一因があるのでしょう。また、鼻の臭覚がおかしいと思
		えば、昔の人は、「聞香」の会などで鼻の機能を回復させるために、大根の漬物が良い
		と言って食べました。それで、沢庵のことを香々(こうこう)と言います。
 
        食事の際、「香香」などの漬物が漬物皿に「二切れ」載っているのは、「一切れ」で
		は「人斬れ」、「三切れ」では「身切れ」に通じるので験(げん)をかついだものです。
 
        
        
       余談ですが、                                
      乾杯の英語は「トースト」であります。皆さんご存知のように、トー
		ストとはパンを焼いて,消化を良くするのと、香りをつけるためです。
       
      昔、欧米では、乾杯酒に香りをつけるため、トーストの小片をいれたことから、乾杯の
		ことを「トースト」と言うようになりました。
                  
                                                  
      とはいえ、昨今の香りの強い洋風の食事の影響か、または、ストレス社会の解決策と
		して辛い食べ物が好まれたりする影響かどうかは分かりませんが、日本人も体に直接香
		りをつけるようになりました。西洋人と同じように、体臭が感じられるようになったのか、オーデコロン、さらには、ポアゾンという個性の強い香水が使われるようになって
		おります。また、トイレにも香りの強い芳香剤が用いられたりして、日本人の香りに対
		する考えが激変してきたのも事実であります。花卉も淡泊な色から濃厚な色のものが愛
		されるように変わってきているようです。