根来の鐘 1      (20130723
(20140219追記★部分)



   「ねんね根来のよう鳴る鐘は 一里聞こえて二里響く・・・」(根来の子守唄)

 低周波音被害研究の第一人者である汐見文隆氏を和歌山市にお訪ねした時、氏はこの一節を引用して、低周波音を説明された。
 「一里鳴き、二里響き、三里渡る」と例えられるように、梵鐘の音には荘厳な響きと余韻があり、重厚で迫力ある音は低周波空気振動として減衰することなく、人里から周囲の野や山へ二里、三里と広がっていく。

 汐見文隆氏は和歌山赤十字病院を経て、和歌山市内で内科医院を開業されていたが、1974年にメリヤス工場近隣住民の健康被害に遭遇し、それが氏の長年にわたる低周波音研究の端緒となった。
 また、1980年に提訴となった西名阪道路公害裁判にも関わり、証人としても参加されたが、この裁判は8年という長い闘いの結果、道路公団はついに被害を認め、被害民家の買収や移転・賠償金支払いに応じ、被害者同盟は勝利的和解を勝ち取った。しかし、低周波音公害の存在自体は認められることはなく、現在も低周波音被害は典型7公害に含まれてはいない。
 その後も、氏は、横浜市営地下鉄低周波音被害をはじめ、各地の低周波音問題に向き合い、世に警鐘を鳴らし続けてこられた。しかし、残念なことに、低周波音の蔓延が一層憂慮される状況となっている。

 近年は科学技術が発達し、以前なら工場にしかなかったような機器が住宅地域にも普及し、ミニ工場さながらエアコンや給湯器など多くの機器が深夜の住宅地で稼働している。また、政府は分散型エネルギーを推進し、太陽光発電や燃料電池を具備したスマートハウスのみならず、スマートタウンが各地で大規模に開発されつつある。 高断熱・高機密住宅の周囲に多くの屋外機を連ね、機械に依存する生活様式が持続可能で「エコ」なのだろうか。そして、蔓延する(超)低周波音の中で、思考力の衰えや不眠等を訝りながら、生活の質の低下を受け入れていくのだろうか。

 ひとたび低周波音被害に遭えば、日常生活が根本から乱され、深刻な状況に陥るが、誰にも手を差し伸べてはもらえない。低周波音には法規制はなく、警察にも事件性はないと相談に応じてもらえず、行政も民民不介入、あるいは「参照値」以下で問題とされず、被害から逃れる術は無い。また、避難しようとしても、一旦、低周波音に過敏になると、安心して生活する場所を見つけるのが困難となり、転居を繰り返さざるを得ない被害者も続出している。

 汐見文隆氏はこのような事態を憂い、次のように仰っている。
「予想されるこの悲惨な国の未来、さらには低周波音地獄化するであろうこの地球の未来を防げる者は、不幸な先駆者である低周波音被害者しかありません。それは低周波音被害者になった者に与えられた人間としての使命です。堂々と自分の感覚を正直に主張することは自分のためだけではなく、人類の幸福をまもることになります。 同時にそれは自分の不幸を理解してもらう唯一の手段でもあります。」

   2011年9月11日 「低周波音過敏症(低周波音被害)」からhttp://island.geocities.jp/antiforinfrasound/siomi_110911_teishuhakabin.pdf    

 「不幸な先駆者」である我々被害者の前には、茨の道が立ちはだかる。失意のうちに世を去った被害者もいる。 しかし、続く我々被害者は、先に斃れた被害者の無念をはらし、加害者に懺悔をさせるために、また、我々自身の平穏な生活を取り戻すために低周波音問題の周知を目指したい。それが、汐見文隆氏の仰る人類の幸福につながることを信じて。

--20140219追記--
 氏は「多くの被害現場では、"自分は専門家だ"、"被害者は素人だ"などという権威主義のようなものが、被害の正確な把握と理解を困難にしているケースが多々ある。」(*1)そして、被害者自身が「堂々と自分の感覚を正直に主張」(上記)すべきであると仰っている訳で、自分の判断・直観によって自らを「低周波音被害者」であると名乗る事を推奨されています。
 そのような被害者に対して「なりすまし」「風車被害虚言者」などと毒づく不遜な被害者団体もあるようで、被害者の結束を妨げていると言わざるを得ません。
 低周波音被害者の皆様は被害を自覚した時、最初の相談先に御注意ください。

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(*1)”「聞こえない」騒音を追う”(2013年10月末某業界紙特集)の中の氏の発言より

 
汐見文隆 公式サイト
より引用

この国に明るい未来はあるのか?
 低周波音被害は外因性疾患の典型です。原因を明らかにしてそれを無くせば、病気は治癒します。原因をそのままにして対症療法をいくらやっても、効果がないというのがその原則です。音源が停止すれ被害がなくなる。あるいは音源の影響しない遠くへ逃げ出せば被害がないというのは、誰にも理解される外因性の証明です。しかし、それがなかなか通用しません。

「低周波音過敏症(低周波音被害)」から

 世界、特に日本国内において、近年各種の低周波音発生機器の増加に連れて、低周波音の被害者が着々と増加しておりますが、この国では長年その被害を無視し続けて今日に至っております。
 昔から騒音を低下させるためには、
(1)騒音のエネルギーを下げる
(2)周波数を下げる、この二つの方法が知られていましたが、近年(1)に比べて(2)が技術的に容易となったため、周波数を下げるという方法が普遍化してきました。…