総務省「ちょうせい」掲載のトンデモ記事  その2  (20130611


 すなわち、低周波音苦情の対応は地方自治体の責務であり、その対応が円滑にいくように、「低周波音問題対応の手引書」が作成され、測定法に関しても講習会が開かれている。そして統一化された測定法をもって的確に実態を把握することが低周波音対策の推進の一歩となる、と環境省低周波音対策検討委員会委員瀬林伝氏は主張している。実際、松戸市は市民から苦情対応を受け、職員が計測を行ない、その報告書を元に給湯器所有者や業者に説明し、給湯器の移設を実現させた。また、某自治体でも給湯器の発生する低周波音が健康被害の原因であると計測により断定し、大阪府でも、同様な計測を行なっている。
 しかし、このように地方自治体からの要請があったがゆえに、低周波音問題対応の手引書が作成されたにも関わらず、横浜市のように民民不介入で苦情対応しない自治体が何と多いことか。しかも、講習会に参加するだけで、その習得した計測技術を現場職員に伝達することなく、人事異動があれば、計測技術は継承されず、途絶えてしまう自治体もあるようだ。

C低周波音問題対応の手引き書における参照値の取扱について (平成20年4月 事務連絡)
 心身に係る苦情に関する参照値は、低周波音に関する感覚については個人差が大きいことを考慮し、大部分の被 験者が許容できる音圧レベルを設定したものである。なお、参照値は低周波音の聴感特性に関する実験の集積 結果であるが、低周波音に関する感覚については個人差が大きく、参照値以下であっても、低周波音を許容できないレベルである可能性が10%程度ではあるが残されているので、個人差があることも考慮し判断することが極めて重要である。
 
 このように参照値以下なら問題無しと言い切ることはできないのであるが、実際はその誤用が目に余るということで、上記事務連絡が行われている。しかし、この通達は浸透せず、今だにほぼすべての現場で参照値が切り捨てのラインに使用されているようだ。
 糖尿病の罹患率が2030年には10%になると予測されており、糖尿病予防のための啓蒙活動が盛んであるが、この糖尿病予備軍とほぼ同数の人々に影響がある可能性を残して、参照値は策定されている。10%の人々、すなわち1300万人である。2020年、エコキュート1000万台、2030年エネファーム570万台の普及が見込まれるが、どれほどの被害者が出るだろうか。家族の一人に被害症状が出たとしても、それは家族全員の生活を脅かすものとなる。そして、社会に低周波音が蔓延し、暴露が続けば、人は過敏となり、低い音圧でも発症していく。花粉症は1980年代に入ってから急激に患者数が増加し、日本で初めての花粉症報告から約50年たった現在、患者数は国民の10〜20%までに達し、まさに“日本の国民病”と呼ばれるようになっているが、低周波音被害も同様の道を辿るのではないだろうか。

 横浜市環境局渡邊氏の寄稿文は2012年の8月に掲載されたが、2011年に提訴された高崎裁判やその後、相次いだ各地でのエコキュート訴訟は(おそらく)参照値以下のものである。そのような状況で、「参照値以下では問題なし。民民不介入」と今だに主張していることに驚く。横浜市民が参照値以下の数字で自殺に追い込まれた事実や参照値以下の数値で各地で訴訟がおこっている事実をもって、参照値の見直しの必要性をまともな職員であるならば感じるはずだ。
 寄稿文最後尾に渡邊氏はこう記している。「裁判所に仮処分申請等を訴え、判決を得て苦情解決する方法があるが、騒音レベルの測定や立証、弁護士費用も必要となり、お金のない方は裁判所を利用することは難しい」(管理人要約)。低周波音被害者は、市県民税や固定資産税などを納めながら、自宅で穏やかに暮らす権利を侵されているが、自治体には見捨てられ、仕方なく裁判に訴える。ある被害者の「生活を切りつめても裁判をします」という言葉を自治体職員に聞かせたい。
      
 市民の生活を守るのは自治体である。民民不介入といわず、参照値以下で被害が生じるという事実を自治体が積み重ねていけば、参照値の再考につながる貴重な機会となっていたはずだ。市民の苦情にしっかりと向き合い、低周波音の苦情がどのような環境で、どのような条件でおこるのかをまず究明してほしい。そのためには、瀬林氏の主張にもあるように、まずは統一化された計測法で、データ集積に励むべきであろう。そして、得られた知見により、トラブルがおこらぬよう、市民自身が自分の所有する機器を管理し、適切な場所に設置するように啓蒙すべきである。


                         
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