風力発電とエコキュート 1 

2014年8月16日


   2000年代は、再生可能エネルギーの導入が推進され、低周波音問題の対象に、新たな風力発電とエコ機器が加わった。双方とも、良く似た健康被害をもたらすが、長らく環境省により、低周波音と健康被害の因果関係は不明とされ、「環境省風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討会」によっても否定される方向に進んでいる。一方、エコキュートによる被害は、消費者庁消費者安全調査委員会で現在、調査中であるが、この風力発電被害における低周波音の見解が大きくエコキュートの調査内容にも影響すると思われる。

1 低周波音問題の専門家

 “黙殺の音”「愛知・田原の風力発電騒音訴訟 6/7 」には次のように記されている。
 「6-2 風車問題の専門家はfew(頭数が少ない)・・・調査事業を実施した際の検討に関わった委員と、その結果を基に検討を行う本検討会の委員に重複があるのは不適切ではないか・・・・政府が思うところの『学識経験者・有識者』としての“役者が”few”なのであろう。」
 これは風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務(下表@)に関わった専門家が検討会(下表A)を兼ねることについて、風力発電を推進する団体が批判しているのであるが、事実、@ABC表にあるように学識経験者・有識者は限られており、重複が多くみられる。塩田正純氏、橘秀樹氏は「伊豆半島の風力発電に関する有識者会議」の委員でもあり、佐藤敏彦氏は環境省の風力発電だけではなく、消費者庁事故調エコキュート調査の双方に関わっている。風車に関わる専門家の多くは、日本騒音制御工学会に所属し、騒音・低周波音や音響の専門家であった。よって、風車での低周波音に対する見解はそのままエコキュートでの見解に繋がることが危惧される。風車の低周波音被害を認めず、エコ機器の低周波音を認めることがあろうか。
@
風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務(平成25年3月
A 橘 秀樹
 末岡伸一
 今泉博之
B 落合博明
C 櫻澤博文
D 佐藤敏彦
E 塩田正純☆
F 新美育文
G 矢野 隆
健康影響に係る
小委員会
D 佐藤敏彦
 石竹達也
C 櫻澤博文
 土岐 茂
A
風力発電施設から発生する騒音等の評価手法に関する検討会(平成25年4月)
H 沖山文敏☆
B 落合博明
  桑野園子
D 佐藤敏彦
A 橘 秀樹
  田中 充 
F 新美育文
  船場ひさお
I 町田信夫
G 矢野 隆
  


「黙殺の音 低周波音
”今般調査の風車騒音被害”知見”を元に作成 
 
B
低周波音問題対応のための「手引」検討委員(平成16年)
 時田保夫
 山田伸志☆
 犬飼幸男☆
 井上保雄
 大熊恒靖
D 佐藤敏彦
  E 塩田正純☆ 
 鈴木陽一
  瀬林 伝☆
 廣瀬 省
I 町田信夫
B 落合博明
H 沖山文敏☆
あ 
ABC・・・は重複 あ
☆ 右欄補足 あ 
 下関市では、安岡沖洋上風力発電建設に関して、目をみはる反対活動が行われ、反対署名は7月17日現在で62,000筆に達し、長周新聞など地元新聞も大きな役割を果たしている。
 「反対する会」の住民集会(6月22日)では、「風力発電の不都合な真実」著者、武田恵世氏が講演を行い、一方、下関市は橘秀樹氏と石竹達也氏を講師として、7月7日市環境審議会委員と市会議員を対象に講演会を主催した。
 橘秀樹氏は、上記表にあるように環境省「風力発電の騒音等に関しての検討会」の委員長であり、石竹達也氏は佐藤敏彦氏とともに「健康影響に係る小委員会」に属する


2 風力発電施設の騒音・低周波音に関する講演(下関市主催)


 この講演の講師の一人、橘秀樹氏(東京大学名誉教授、工学博士、中央環境審議会委員)は「風力発電所は静かな地域に建設されることが多く、深刻な環境騒音となる。夜間などに耳について睡眠障害の原因となり、健康に影響を及ぼす可能性がある。」とのべ、風車による被害は騒音によるものであるとし、低周波振動被害に関しては否定的な立場にある。
 以下、講演内容について長周新聞(2014年7月記事)より抜粋。

橘氏主張
・ 日本の風力発電は世界的にはわずかで、近年は伸びが鈍化している、など遅れを強調。
・ 「風車の騒音は道路の騒音と同じ基準ではいけない」
・ 「静かなときに聞こえる風車の音をどれくらいの基準にするかを考えなければならない」
・ (低周波音については、大学につくった低周波実験室でのデータを示し)「風車音に含まれている
  超低周波音は聞こえない、感じないというのが結論」
・ 「音にならない低周波が人間の体に悪さすると言われるようだが、そういった傾向はみられない。耳に聞
  こえる騒音が問題」と断言した。
・ 低周波音は問題がないということかという質問に対し「完全には否定できないが、研究結果からはない。
  騒音問題として扱った方がいい」
・ 「超低周波音は問題ない」
・ 「脳に与える影響は、否定はできないが、UFOはいないことを証明することは難しいのと 同じこと」
・ 「いつまでもこの問題にこだわると、環境行政が遅延することになり困る人がいる。なにもできなくなる」

 もう一人の講師である石竹達也氏(久留米大教授 医学博士)は現在、環境省の平成24年度「環境研究総合推進費・環境問題対応型研究領域」でH25〜27年度まで研究費を得て「風力発電等による低周波音・騒音の長期健康影響調査に関する疫学研究」を行っている。

石竹氏主張
・ 「環境省に対する低周波についての苦情件数は増えているが全体の1割で、施設に近い800m未満が主
  である。夜間の睡眠障害が多い。しかし、もともと眠られない人も20%くらいあり、睡眠障害が病気につ
  ながるというデータはない・・・・」
・ 「データはまだ集めている最中だが、100%安全を求めても生きていけない。どこかで折り合いをつけるし
  かない」
・ 「(低周波による疾病異常については)データがないので、影響はないとはいえない」
・ 「(結論としても)今のところはわからない。どちらかといえばないのでは」 

 そして、長周新聞記事は「市が招いた二学者は共通して低周波音による影響を否定し、『よくわからない』といいつつ『いつまでもこだわるな』と住民運動に水をかける内容だった。」と結んでいる。

             続く

補足
☆は「騒音SOS」理事
低周波音被害の社会問題化p48 によると、
「(騒音SOS)理事は、閾値以下の被害の存在自体を否定している。」、また、相談者への聞き取りでは次のようなことが記されている。
「原因は低周波音じゃない、「『気のせいです』と言ったんです。」
「『散歩でもしてください。モーツァルトでも聞いてください。』と言われました。」。

 この理事の考え方は橘氏や石竹氏の主張と共通するが、日本騒音制御工学会の主流の考え方ではないだろうか。