2011年からしばしば報道されている茶のしずく事件。茶葉抽出のカテキンを配合し、美肌効果が高いとTVで宣伝されたこの洗顔石鹸は、通販で爆発的な売れ行きだったようだ。2004年の販売以来、累計約5000万個の売上(売上高約1000億円 1個60g1980円)。
この石鹸が原因で、重篤な症状を起こし、各地で被害者が救急搬送されたことで問題が発覚した。石鹸に保湿成分として含まれる加水分解小麦が、石鹸使用のたびに、眼・鼻の粘膜や皮膚を通じて体内に吸収され、数か月〜数年の間に抗体が蓄積されていき、その結果、経口でも小麦アレルギーを起こすようになる。アレルギー症状が軽い場合は、顔にかゆみや腫れなどの症状、重症の場合は、腹痛・下痢・血圧低下・呼吸困難などの症状。そして、小麦を含む食品の摂取後、歩行など軽度な運動をすることで、アナフィラキシーを起こす小麦依存性運動誘発アレルギー。これは、食後、体を動かすことで、十分な消化が行われず、高分子のまま、腸管から吸収されて、アレルギー反応がおこるそうである。
そして、“茶のしずく”によるアレルギー反応は、被害者がこの石鹸を共通して使用していたことと、天然には存在しない加水分解小麦に対する抗体が、被害者の血液に高値で認められることで、従来の小麦アレルギーとは判別が可能であり、石鹸との因果関係が証明されたため、茶のしずくは厚労省、消費者庁の注意喚起を受けることになった。そして、商品は自主回収がなされた。
しかし、専門医より、この石鹸の危険性が指摘されながら、販売者はなかなか何の対策も講じず、また厚労省と消費者庁の連携にも齟齬があり、販売者が自主回収を決断するには長時間が必要だった。商品の回収は強制ではなく、あくまで自主的なものであり、販売者が積極的に取り組むわけではない。すなわち、2004年に販売され、2010年7月までに何度か危険性は指摘されながら、販売者は2011年5月まで自主回収に踏み切らず、その間にも、被害者は続出するという、他の薬害・公害と共通する点が多いというのは残念なことである。そして、消費者庁が、相談センターを設けて、この被害の周知を図った結果、それまで被害に気付かなかった人々も名乗りをあげ、1500人を超す被害者が現れることになり、現在、集団訴訟が全国的に行われている。
小麦をはじめ、大豆や卵白など、食物由来の成分を「食物と同じだから安全」「天然素材で肌に優しい」という印象で、近年は化粧品や医薬部外品の素材として多用されているが、一旦アレルギーを発症すれば、食物として経口摂取できなくなる危険性を併せ持ち、安易な使用に警鐘を鳴らすことになった。
消費者庁は、厚労省から被害報告を受けて注意喚起するまで6か月。その時の不手際を挽回するかのように、その後、赤色色素(コチニール色素)については即座に注意を喚起している。茶のしずくと同様、コチニール色素を含む化粧品で過敏になった人がコチニール色素添加の食品で、アナフィラキシーを起こす危険があるということだが、茶のしずく石鹸の被害を教訓とした対応をとっている。
2004年 |
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茶のしずく石鹸販売開始 |
2008年 |
12月 |
茶のしずく に疑い |
2009年 |
10月 |
石鹸で小麦アレルギーによる健康被害報告 於アレルギー学会 |
2010年 |
3月 |
販売元“悠香”に石鹸成分に問題があると指摘 |
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7月 |
“悠香”にアレルゲン確定を指摘 |
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9月 |
悠香 :問題物質を類似物質に変更 注意喚起・販売自粛なし |
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10月 |
厚労省 :注意喚起・消費者庁に報告(消費者庁が注意喚起するのは6か月後)
悠香 :「注意呼びかけ」 |
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12月 |
旧製品の製造中止。 厚労省/注意喚起 |
2011年 |
5月 |
旧商品の自主回収 |
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6月 |
消費者庁/注意喚起 |
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12月 |
ネットサイトを開設。特別委で、診断基準策定 |
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4月 |
発症者1567人 製造物責任法で約70億万円の損害賠償を求める訴訟。
原告は1000人超。 |
2012年 |
5月 |
消費者庁 コチニール色素に関する注意喚起 |
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