そして、隣家にエネファームが設置され、試運転が始まりますと、“そんなに大きくはないけれども不快な”騒音のため庭に出るのが憂鬱になりました。そして隣家が入居したその翌朝から室内に耳慣れぬ音がして夜も昼も間断なくその音は聞こえるようになりました。そして、その音をマスキングするために、四六時中BGMを流すことになりましたが、その日以来、不眠となり、二階寝室では眠られず、一階居間で一日に2-3時間の仮眠をとる状態になりました。隣家エアコンの稼働はなく、エネファームの運転が一日24時間続いていましたので、原因はエネファームによる低周波音ではないかと疑いを持ちました。既に風車やエコキュートで低周波音被害について報道もありましたので、ネットですぐに情報を集めましたが、低周波音問題の解決は非常に困難ということがわかり、暗澹たる気持ちに襲われました。心療内科に予約をいれ、2週間後に受診し、デパスとレンドルミンを処方され、一日
4~5時間眠れるようになりましたが、1か月経過したころには体重は4kg落ち、それから1か月半で、また3kg落ち、やせ細っていく体に、胸の圧迫感、動悸、手足のしびれなどいろいろな症状が次々と加わりました。私はもともと痩せ気味の体でしたが、わずか2か月半で体重が7
kg減少し、BMIは16.2まで下がりました。(エネファームは当然、低周波音だけでなく可聴域の音も出しています。私は最初、可聴域の音で不眠に陥ったと誤解していましたが、その後調べるうちに非可聴域の低周波音によるものと判明しました。)
低周波音被害者は家の中で苦しくなると外を徘徊すると言われますが、外出すると帰宅が嫌になり、寒風の中、公園のベンチで時を過ごすこともありました。住み慣れた家で安眠できず、昼間もまどろむことさえ困難で、家の中では動き回っていなければやり過ごせないという状況は人を絶望に追いやります。同被害者の中には自殺、自殺未遂、異常言動をとることがある、という聞き及んだ実態が理解できるようになりました。私は無意識のうちに死に場所を探すようになりました。陸橋から下の道路を見つめていたり、高層の集合住宅をみあげていたり、ということばかりで、いつ実行してしまうか、その不安から次第に外出を控え、ひたすら家に閉じこもるようになりました。高齢の両親を残して、まだ死ぬわけにはいかないのです。また、隣家のエネファームを破壊したい衝動、隣家の人々に危害を加えたい衝動にも駆られましたが、隣家のために家族を崩壊させるような愚行をしてはいけない、子を犯罪者の家族にしてはいけないという理性だけで、転居までの2か月半を耐え忍んできました。もちろん、転居もすんなりと決まったわけではありません。家族は私と夫と娘の3人で、当初、症状のあったのは私一人。そして、私は専業主婦、娘は学生、夫は既に退職。これから迎える老後の生活を考えると無駄な出費は許されず、新たに家を借りるのは無謀なことでした。このときほど、我が身を嘆いたことはありません。法律の知識も専門知識も経済力もなく、身に降りかった火の粉を払いのけることができない無力さに自信を失いました。
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