たたき毛ばり釣り飛騨仕掛け

 ここは安曇川本流で川幅が40〜50mは有るだろうか下流に10km程下るともう琵琶湖が見えてくる。 川の右手に堰がありそこからはなめ滝のように水が流れ、落ち口には白い泡が渦巻いている。 私はその下流50mの浅瀬に新兵器を持って立っていた。この場所はこの川に渓流釣りに訪れる度にため息の出る場所であった。 この絶好のポイントにどんな長竿を持ってきても全く届かないのである。ところが今日は違うのである。それは毛鉤を飛ばしウキを使って広い川のそのポイントに投げ入れようとしていたのだ。今日のようにルァーやフライフィッシングが広まっていない時の話である。

 振りかぶっての一投目はかなり手前に着水してしまった。 リールを巻き直し第二投目をサイドスロー気味に水面に沿って投げ入れた。飛ばしウキは小さな唸りを立ててポイントに近づいている、よしや! 成功だと思った瞬間水面よりアマゴが飛び出し空中の毛鉤に飛び掛かっているではないか。 思わずオオーと叫んだ。何と早いことである。慌ててリールを巻き始めたがアマゴがぐるぐると回りながら近づいてくる。 それを見てしまったと思ったが後の祭りである。この仕掛けには撚り戻しがセットされていなかったのである。 魚は下流へ走り且つ、返しの無い針であるので逃げられるのが必至である。とにかく早く取り込まないと外れてしまうと思いさらに早くリールを巻く、後20m手前に引き寄せた時、急にリーこの仕掛けは不思議にも毛鉤が水面や水中を引いている時よりも、空中を飛んでいるときのほうが当りが多い。 恐らく飛ばしウキが発する独特のうなり音がカワゲラ等の水生昆虫の飛羽音と似ているのだろうか?結局、5〜6匹を掛けたが手元まで引き寄せたのは2匹であつたが充分満足出来る結果であった。

その後撚り戻しを付けた改良型にして、愛知川上流の大きなトロ場や砂防ダムのプールで活躍したが,茶屋川にあった大瀞(現在は砂に埋まってチャラ瀬となっている)で崖に生えている草木に絡ませてしまいその生命が絶たれた。その後釣り道具屋さんを訪れるたびに同じ物を捜し求めたが皆目見当たらない。仕方なく鮎毛鉤やおいかわ用流し毛鉤で似せた物を作ってみたが全くダメであった。

 随分昔のことであるが滋賀県の地方都市にある釣り具店で、店内に設置されているガラスショーウインドウを覗いていた。そこには高価な銘の入った和竹のへら竿が数本赤い毛氈の上に飾られていた。その隅の方に渓流釣りのテンカラ竿、毛ばり、毛ばり巻用道具や山鳥、孔雀の羽などが参考品程度に置いてあった。 その頃渓流釣りは一般人にはなじみの少ない釣りであり、海釣りやヘラ鮒及び鮎釣りが主で店の商品構成もそれらが殆どと言って良かった。私はそのマイナーな渓流釣りの中でも特殊な毛ばり釣りを試行錯誤で餌釣りの合間を見て試していたが一向に釣れたことが無かった。

  その仕掛けはとは以前、新潟県の小さな田舎町に居た時に地元の人に釣り方を教わった友人の仕掛けを見て、見よう見真似で作ったもので、いわゆるたたき毛ばり釣りなるものであった。
この方法は多くの職漁師が用いていた日本古来の毛針釣り方法であった。私の仕掛けは2m程度の竹の延べ竿に海釣り用の2号ナイロン製テグスを約
3m付け(本来は馬素であるが入手出来ず)、大きな針に黒色の羽根を自分で巻いた毛ばりを結んだものである。

当時はそれら毛鉤釣りに関する雑誌や文献は少なく情報として私の手には入ってこなかった。今日のようにそれらに関する情報は溢れるほど飛び交い、又、フライだとかルァーの道具が釣具店の大半の床面積を占めていることを思えば時代の流れを否応無く感じられますが・・・。

昭和43年夏
茨川林道入り口より少し入ったところの朽ちかけた木製の旧八風橋の写真です。⇒
橋は所々朽ち果てうっかりすると踏み抜く恐れがあった。 通過するものは僅かなハイカーと獣のみである。
林道は荒れ果てており大きな岩がいたるところに頭を出していた。し
かしながら自然は林道が荒れ果てていることにより回復し豊かな森であった。
当時、たたき毛鉤釣りをした後の写真で、延べ竿を右手に持っている。

現在の橋は昭和53年に関電が送電線鉄塔建設のために茨川林道を整備した時に架け替えられたコンクリート製である。
送電線部材の荷揚げ用に林道が整備され為、砂防ダム建設が容易になり、ヘリポートまでも作られ又、作業員宿舎が建てられや電話線までが引かれてから一気に荒廃した。
うわさではそこに駐在していた作業員は相当な無茶をし放題だったとか?
それらは今日の茶屋川の荒廃の始まりであった事は確かである。
さらに今そこに第二永源寺ダムを建設する計画が進められている事はもっての外である。

話を戻すが ショウウィンドウの隅に和竹のテンカラ竿がひっそりと置いてあり、その前に飛騨仕掛けと表示されたプラスチックケースに収められた毛ばりセットが有るのが私の目に止まった。
 それは以下の図のようなものであった。

 

 この飛騨仕掛けはテンカラの一本毛鉤と異なり、飛ばしウキと7本の毛鉤がついたものである。 幹糸は1.5号程度で約20cm間隔に枝針が6本ついている。 その後に飛ばしウキがあり最後は約10cmハリスに毛鉤一本結ばれた構成であった。毛鉤は鮎の流し毛鉤よりひと廻り大きく返しが無く、金色頭で針も金色である。毛鉤の色彩パターンは全て異なるのはそれぞれの川虫をイメージしているものでこの配列がベストなのだろうと思える。仕舞寸法が30cm位になる6本先継ぎ式のリール竿を購入し、それに小型のスピニングリールをつけ道糸はナイロン糸2号を使用してその先に飛騨仕掛け毛鉤セットを付けたものが私の新兵器なるものである。
第七話完

 第八話 親にも子にも教えられない場所

第七話